②新時代の教育『子どもの塾代負担をなぜ山梨県がするのかを紐解く』
山梨県、塾代負担で子どもの未来を支援 -貧困格差解消へ前例のない取り組み-
2023年3月28日、山梨県が新たな教育支援策として「塾代負担制度」を導入しました。この取り組みは、貧困家庭の子どもたちが進学を諦めず、夢を追い続けるための支援を目的としており、前例のない施策として注目を集めています。
生活保護世帯の進学格差に警鐘
この制度のきっかけとなったのは、2022年6月に発表された厚生労働省のデータでした。生活保護世帯の大学進学率が全国平均の半数にも満たないことが報じられ、山梨県はその結果に強い衝撃を受けました。生活保護世帯の大学進学率は33.3%にとどまり、県全体の大学進学率73.5%との差が大きいことが分かったのです。この結果を受け、長崎幸太郎知事は「貧困による学びの機会の不平等を解消しなければならない」という強い意志を示し、直ちに県内の教育関係者と対応策を検討し始めました。
知事の熱意が策定を後押し
知事の指示を受けて、8月には関係部局がオンライン会議を開き、9月には子育て支援局、教育委員会、福祉保健部などが協議を開始しました。知事は「貧困家庭の子どもたちが塾に通えない現状を解決したい」と語り、塾費用の補助が重要であることを強調しました。その後、12月には議会に向けた答弁案も修正され、「塾費用を県が負担する」という方向性が打ち出されました。
山梨県で初めての試みとなるこの政策には、生活保護世帯の子どもたちに塾費用を支援する「塾代負担制度」が含まれ、学習塾や予備校の受講料を県が直接支払う形となりました。
イコール・フッティングで公平を実現
この制度の設計にあたっては、「イコール・フッティング」という新しい概念が重要な要素となりました。これは、一般家庭の子どもと生活保護世帯の子どもが、同じように学ぶ機会を得られるようにするというものです。具体的には、子どもたちは希望する塾を選ぶことができ、周囲に生活保護世帯であることが分からないよう配慮された環境で学べるようになっています。 また、塾費用は月額上限30万円を県が直接負担する形で、塾との協力を得て運営されています。生活保護世帯の子どもは、ケースワーカーから直接案内を受け、通塾の手続きを進めることができます。
制度設計と実施の舞台裏
新制度の実施には、複数の部局と関係機関の調整が必要でした。制度設計を担当した子ども福祉課の井澤久課長補佐は「前例のない取り組みだったため、最初は途方に暮れたが、関係者との協力で具体的な形にできた」と振り返っています。塾と連携を取る際には、生活保護世帯の子どもが通える塾を限定せず、地域の塾とも協力し、子どもたちが友達と一緒に通えるよう配慮がなされています。 また、制度実施のための予算案は、2023年度当初予算案に盛り込まれ、県議会での承認を受けて正式に実施されることとなりました。
知事の「教育格差をなくす」決意
長崎知事は、2023年度当初予算案を発表する際、「いかなる家庭環境であっても、子どもたちが進学をあきらめることがあってはならない」と強調し、この塾代負担制度を最重要施策の一つに位置づけました。知事は「山梨県では、子どもたちがどんな家庭環境に生まれたとしても、将来の夢をかなえられる教育環境を提供したい」と語り、子どもたちの進学支援を最優先にする方針を示しました。
県外からも注目
この取り組みは、他の自治体にも大きな関心を呼び、他県からも問い合わせが相次いでいます。井澤課長補佐は「今後もさまざまな課題が出てくると思うが、引き続き制度を改善し、支援を拡充していく」と意気込みを語っています。
生活保護世帯の進学支援、社会の壁を打破
山梨県の塾代負担制度は、単なる学費支援にとどまらず、貧困家庭の子どもたちに「進学のチャンス」を平等に提供する社会的意義を持っています。知事の言葉通り、これまで教育の格差に悩まされてきた子どもたちが、夢を追い続けるための大きな支えとなることが期待されています。