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4.0億円のインパクト投資。「クリエイター支援」に注力するVookが目指すものとは?

映像クリエイターの学び・仕事・つながりをサポートする株式会社Vook(以下、Vook)は、2023年9月に日本テレビホールディングス株式会社(以下、日本テレビ)より4.0億円の資金調達を受けました。

今回の投資は、日本テレビのインパクト投資第1号案件です。インパクト投資とは何なのか、資金調達を実施して今後Vookはどのような社会の実現を目指すのか。

今回の資金調達の背景や今後の展望について、Vook代表取締役の岡本さんと取締役COOの岡部さんに語っていただきました。


岡本 俊太郎(おかもと しゅんたろう)写真:右
株式会社Vook代表取締役。上智大学経済学部卒業。大学生のときに、学生団体を立ち上げ、映像コンテストを主宰。2016年に動画編集・映像制作tipsサイト『Vook』(ヴック)をローンチする。
岡部亜門(おかべ あもん)写真:左
株式会社Vook取締役COO/社長室長。東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社で、投資デューデリジェンスや行政省庁の政策立案・調査プロジェクトに従事。その後、MaaS系企業を経て2023年に株式会社Vookに参画。


日本テレビから資金調達を受けた理由

ーー日本テレビから4.0億円の資金調達をされた目的や背景を教えてください。 

岡本:映像制作という領域で協業できる部分が多いと判断したので、日本テレビから資金調達を行いました。

日本におけるテレビ産業は映像業界の中でも一大産業です。半世紀以上も映像メディアの第一線にいる日本テレビと協業することで、当社の既存事業をアクセルさせ、業界を活性化できるという思いで、協業の議論を進めてきました。

当社は「映像クリエイターを無敵に。」をビジョンに掲げ、メディア事業、キャリア事業、スクール事業、映像活用支援事業を展開していますが、今回の資金調達は、これら事業を加速させるための人材採用やマーケティング強化を目的としています。


岡部:私は今回の資金調達を、Vookの既存事業を成長させるためと、新しい領域に進出するための資金として捉えています。これまでも数億円の資金を調達してきましたが、テレビ局である日本テレビとの資本提携により、映像制作という領域でのシナジー効果を見込めることがこれまでとの大きな違いです。

例えば、特に期待しているのは人材面での協業ですね。例えば、映像制作の業務はもちろん、XRやVR、ARといった領域も、専門的なスキルを持った人材が少ないという課題があります。

そこで、当社のスクール事業と連携して人材を育成していきたいと考えています。ー映像業界が抱えている「次世代の人材育成」という課題を解決するためですね。

また、当社は定期的に映像コンテストを開催しているのですが、日本テレビと協業すれば、これまで以上の規模で開催できるので、今からわくわくしていますね。


ーー4.0億円とは、日本テレビの期待も大きいということですね。

岡部:そうですね。今回の資金調達では日本テレビ1社のみで4.0億の出資をいただきましたが、私たちのようなプロダクトを成長させるフェーズにあるスタートアップへの投資は、複数社でそれぞれ5000万〜1億円ずつ出資する形式を取るのが一般的です。今回は1社の事業会社の投資規模としては相対的に大きく、日本テレビからの期待の現れだと受け止めています。

Vookが社会にもたらすインパクト

ーー今回は「インパクト投資」ということですが、そもそもインパクト投資とはどのようなものなのですか?

岡本:インパクト投資という名前の通り、社会に対してどのようなインパクトを打ち出していけるかを重視した投資です。

一般的にスタートアップに対する投資は、キャピタルゲインを目的として行われます。要するに「投資したらいくら儲かるか」「いつ上場するのか」が重要視される傾向が強いんです。

一方、インパクト投資では、キャピタルゲインだけでなく社会に対してどれだけ貢献したか」について、KPIを設定して計測していくのが特徴です。


岡本:2022年10月に一般社団法人インパクトスタートアップ協会という組織が立ち上がり、国に政策提言するなど、インパクト投資は盛り上がりを見せています。現在の政権もインパクト投資を推進していくと表明していますし、日本だけでなく世界的にも注目を集めている投資スタイルです。

投資家がキャピタルゲインだけでなく、インパクトを重要視し始めたのは、環境問題をはじめとした社会問題が多様化している要因が大きいと思います。国だけに頼るのではなく、持続可能な社会にしていくために、企業も責任を負わなければならなくなってきたということですね。


ーーVookがもたらす「インパクト」について教えてください。

岡部:当社は、「映像の力で社会を変える」を最終的に目標とするインパクトとして設定しました。映像の力で社会がどれだけ変化したかを数値で計測するために、計測可能な指標をいくつも設定し、目標とするインパクトにつなげられるようにしています。

例えば、スクール事業によって生まれたクリエイターの数も1つの指標です。あるいは、キャリア事業でつながった企業とクリエイターのマッチング数もその1つです。


ーーインパクトには様々な指標があるんですね。

岡部:おっしゃる通りです。インパクトにはいくつかのレイヤーがあって、日本テレビと議論を重ねて1つずつ丁寧に定義してきました。

例えばメディア事業の場合、映像制作のノウハウや情報にアクセスしやすい環境を提供するのが初期のインパクトです。情報の壁を打破すると言えばわかりやすいかもしれません。

情報にアクセスしやすくなれば、映像クリエイターや映像を活用する企業の数が増えていく。これが2つ目のインパクトです。

結果的に映像業界全体が活性化して、クリエイターの活躍の場が広がる。映像を通じて楽しい時間を過ごす人々が増えたり、企業の事業成長を推進したりできる。これが最終的に目指すインパクトです。

日本テレビのニーズと合致したのは「クリエイター支援」

ーー今回の投資は日本テレビにとって初めてのインパクト投資です。日本テレビは数ある投資先の中から、なぜVookにインパクト投資を行ったと思いますか?

岡本:第一に映像業界を活性化させるためには、クリエイターの育成が不可欠だと考えているからだと思います。日本テレビは今日までに様々なクリエイター支援を行なってきていて、SOCIAL IMPACT labという取り組みで、「クリエイター支援」もニーズとして掲げられていました。

その点、私たちは『Vook』という映像クリエイター向けでは日本最大級のメディアを持っています。キャリア事業やスクール事業などにつながる多くのトラフィックを創出でき、クリエイター支援に直結する事業を行っている点を評価していただけたのだと思います。


日テレによるSOCIAL IMPACT labの取り組みについて
SOCIAL IMPACT lab|<未来社会>ソーシャルインパクト|日テレ共創ラボ
日テレ共創ラボのSOCIAL IMPACT labを紹介します。SOCIAL IMPACT labでは、社会的なインパクトの可視化を研究・実践ソーシャルスタートアップ企業との共創で未来社会への貢献を目指します!
https://lab.ntv.co.jp/lab/social_impact/


岡部:「Vookは映像の力で社会を変えていくことができる」という点に共感をいただいています。社会で映像が活用される余地はまだまだ十分過ぎるほどあって、今後さらに注目が集まる市場です。そんな中、当社のポテンシャルを評価していただいたのではないかと思っています。マーケティングや社内体制を少し変えるだけで、事業の成長スピードを加速できるのではないかと。

岡本:また、政府の資本主義政策の指針の1つにクリエイター支援が掲げられていて、国がこの領域を後押ししているということも大きいと思います。

ChatGPTに代表されるような生成AIが進化を遂げる中、クリエイティビティやオリジナリティがこれまで以上に求められる時代になっています。今後の経済成長戦略を考えたときに、コンテンツ産業やIT産業を盛り上げて、新しいものを生み出していく必要性が増してきたわけです。


海外と比べて課題が山積している日本の映像制作環境

ーー需要が高まる映像業界ですが、現状ではどのような課題を抱えているのでしょうか?

岡本:教育環境と労働環境に課題があると考えています。クリエイター人材の育成を思うようにできていないんです。依然として、背中を見て習うような風潮があったりもします。もちろん当然現場でしか学べないこともあるのですが、現場で学ばなくてもいいこともあるので、効率が悪い一面もあると思うんですね。

また、長時間労働になりがちなので、肉体的にきつくて辞めてしまうケースも少なくありません。やりがいだけではいい人材は残らないんですよね。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進したり、ワークフローを改善したりすればさらに良くなるのですが、なかなか対応できていないのが業界の現状ではないかと思います。


岡部:特にクリエイターの供給は大きな課題です。Web広告やWebCM、YouTube、TikTokなどでも企業が積極的に映像を活用する時代になってきている一方、そのポテンシャルに比べると、映像を制作できる人材が足りていません。

特にこれから伸びていくXR領域は人材不足が慢性化していて、優秀なクリエイターの奪い合いになってきています。需要に対して圧倒的に共有が不足している状況です。


ーー日本のクリエイターを取り巻く環境を海外と比較すると、どのように映りますか?

岡本:大学在学時にアメリカに行ったとき、制作環境の違いにとても衝撃を受けたのを覚えています。教育環境が整備されているので、一人ひとりのレベルが高いんですよね。

また、クリエイターの権利がきちんと保護されていると感じました。ハリウッドの存在も大きいですが、制作環境が整備されていることに加えて、効率的にキャリアを上げていける仕組みがあるんです。クリエイティブ産業のエコシステムがうまく機能しています。


ーー日本のクリエイターを取り巻く環境には改善すべきことがたくさんあって、今回の資金調達で課題解決につなげるということですね。

岡部:そうですね。今回、「インパクト投資」として投資を受けたのですが、Vookの事業そのものがもともとインパクトをもたらす事業であるため、それを目的として何か新しい事業を始めるわけではありません。Vookのビジネスモデルは既存事業を拡大していけば、社会に対して自然とインパクトを提供できるわけです。

例えば、クリエイターが満足いく待遇で転職できる場を提供できるようにキャリア事業を成長させていく。教育事業では、より多くの方々に受講いただいてクリエイター人口を増やしていく。これまで通りメディアやキャリア、教育といったそれぞれの事業を成長させつつ、新規事業にも着手していきたいと考えています。


「映像がインフラになる社会」に向けて今後すべきこと

ーーインパクト投資を受けて、今後Vookが目指す理想の社会像について教えてください。

岡本:理想はあらゆる場所で映像が活用されるような社会です。ITが1つのインフラになったように、映像も1つのインフラになり得ると考えています。映像の力でこれまで以上に多くの人が感動したり、コミュニケーションを取ったりする社会を実現したいですね。

そのために、課題である労働環境の改善や人材育成に注力していきます。また、どこにいても映像制作を学べたり、作りたい映像が作れたりする環境があれば、地方でもクリエイターが育ち、活躍できます。映像を活用する地方の中小企業が増えて、日本経済の活性化に寄与したいですね。

◉岡部:映像制作の環境が整えば、これまで以上に日本のドラマや映画がさらに世界中で観られるようになります。日本がハリウッドのような制作環境になって、より多くのコンテンツが発信できる。そのようなことを思い描いています。


ーー企業としての理想像についても教えてください。

岡本:数値目標にコミットして、持続可能性の高い企業体になりたいと考えています。「クリエイターを支援する」と言うと、社会貢献のように聞こえがちなのですが、スタートアップである以上、事業は成長させていかなければなりません。

スクール事業やキャリア事業はまだ立ち上げから日も浅く、ビジネスとして成長途上にあります。売上や利益を達成させ、クリエイターに貢献する強い意識をもって事業を推進していく必要があります。

また、組織としてはチーム体制を強化していきたいですね。

というのも、メンバー同士でもっとうまくコミュニケーションが図れるようにしたり、会社へのエンゲージメントを向上できる余地があるからです。各々のメンバーが働きがいを感じながら、自分の業務に注力できる環境を作り上げていきたいですね。


映像は作れなくていい。志が同じであれば共に目指したい。

ーーVookの目指す社会像を実現するためには人材が不可欠です。どのような人と一緒に働きたいと考えていますか? 

岡本:映像が好きで、映像の力で社会をより良くしていきたいという想いを持っている方と一緒に働きたいですね。映像を制作できなくてもいいんです。映像の力を信じている方であれば。

当社はスタートアップなのでスピード感がある人も魅力的です。また、クリエイターと関わる機会も多いので、リスペクトをもってコミュニケーションを取れるような人がいいですね。

いま働いてくれている社員も、前職はテレビなどの映像業界や広告代理店、スタートアップ、コンサルティング会社など多種多様ですが、共通しているのは「みんな映像が好き」という点です。カメラ屋さんになら何時間でもいられるというメンバーも多いと思います(笑)

岡部:私もその中の一人でして……。もともとカメラや映像が好きだったということもあったのですが、Vookには、事業のポテンシャルや、チャレンジできることがたくさんあると思ってジョインしました。

Vookは資金調達をしたことで、事業を加速度的に拡大できる環境にあります。まさに成長の変曲点に位置しているんですね。Vookの成長だけでなく、映像業界全体の発展に関われるところに働きがいがあると思っています。

岡本:数年後はアジアへの進出も視野に入れています。もちろん、全てが計画通りいくような甘い世界ではありません。しかし、理想の実現には志をもった仲間が不可欠です。

映像業界を変革をしていくという強い気持ちを持っている方や現在の映像業界の課題を解決していきたいという想いを持っている方と伴走して、理想の社会像を実現していきたいですね。


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