1
/
5

あたたかく受け入れてくれる離島「新島・式根島」。観光旅行やサーフィンをきっかけに移住を決める人も。

ここ数年のテレワークの普及をきっかけに、会社に通勤する機会が大幅に減り、「都心に住む理由がなくなった」と考える人も多いのではないでしょうか。実際、広い住まいや豊かな自然環境を求めて、都会暮らしから地方へと移り住む人が増えています。そんな時流に対して今回紹介したいのは、東京都の南にある伊豆諸島の1つ「新島・式根島」です。

新島といえば「くさや」が有名であり、サーファーにとってはサーフィンのメッカの島。美しい砂浜と波を目当てに旅行で訪れる人も多い観光地です。何度も訪れるうちに島の魅力に気づき、移住をする人もいるとのこと。今回、「新島・式根島」の魅力について、役場産業観光課観光商工係長の富田さんと役場式根島支所主任の栗田さんにインタビューしました。

富田 裕也
新島村役場 産業観光課観光商工係長

新島村出身。高校卒業後は神奈川県の湘南や千葉県の海沿いの街に転居する。様々な仕事をしながらプロのサーファーを目指してサーフィンに熱中する毎日だった。結婚を機に、「子どもは新島で育てたい」と考えて、新島村へUターン転居する。趣味は、始業前や仕事後にサーフィンをすること。都会のようにあくせくしない毎日を過ごしている。

栗田 いづみ
新島村役場 式根島支所主任/Iターン

埼玉県出身。幼稚園教諭やバスガイド、事務職などを経験。昔から海に対する憧れがあり、また海以外でも自然が好きということもあり、島での生活をしたいと思っていた。「新島村での保育士募集」の求人を見つけて応募し、35歳の時に移住を決意。移住して驚いたのは、島中の人がとても優しいこと。困ったことがあれば島民が助けてくれることに感謝が絶えない。

東京から高速船で2時間半。飛行機なら約35分。意外と近い島

ーーまずは、新島・式根島の立地や気候について教えてください。

富田:
新島は東京から150キロ程南下したところにあります。東京からは高速船で約2時間半、調布飛行場からの飛行機では約35分でアクセス可能です。意外に近いと思いませんか? 新島の中心地は、島の中心である平坦地に本村地区、北側に若郷地区という集落があります。

1年間を通して気温の格差が大きくなく、比較的温暖多湿で住みやすい気候です。ただ冬の初頭からは西高東低の気圧配置の影響を大きく受けて、西からの強風がほぼ毎日吹き続けたりもします。東京都内より気温は高いですが、風の影響もあって体感温度は低く感じるかもしれませんね。

栗田:
式根島は新島の南西に位置する島です。リアス式海岸が特徴で、波がとても穏やか。夏は海水浴場が人気です。あと島内は緑が多いですね。新島よりも「夏は涼しい」という声をよく聞きます。

新島と式根島で1つの村になっているのですが、式根島は新島から3キロほど離れています。毎日朝昼夕に連絡船「にしき」が3便行き来しており、仕事や学校などでの島間の移動はこの連絡船が使われています。ちなみに、「にいじま」の「に」と「しきねじま」の「しき」が「にしき」の由来です。船の本数は少ないのですが、学校の登下校時刻に合わせて出発時間が決まっており、夕方便(16時20分発)に乗って、みんな式根島に帰ってくる感じです。

ーー島内ではどのような交通手段を使っていますか。

栗田:
式根島では最近、観光客用に電動自転車を置くレンタサイクル屋さんが増えたのですが、島民の交通手段は自動車がメインですね。式根島は坂道が多いので、徒歩移動は厳しいかもしれません。健康のために歩くのであれば、とても刺激的な毎日になると思います(笑)。

富田:
新島も、普段は自動車や原付バイクが多いですね。無料バスもあるんですが、もちろん都内みたいに本数が多いわけではなく、連絡船「にしき」の出発時間に合わせて1日3便しか巡回していません。だから利用している人は少ないかもしれません。

泣く子も大人も黙る「海難法師の日」と名物「くさや」

ーー新島・式根島には昔から続く言い伝えがあるとお聞きしました。

富田:
毎年1月24日、25日は海難法師の日とされています。この島には大昔からの言い伝えがあり、今でも海で遭難や事故がないように、御祓いをして清めています。そして家屋の玄関には「とべらの葉」をさして魔除けをして、夜は静かに過ごすという風習があるのです。

風習の源流を説明しますと、江戸時代に年貢の取り立てがとても厳しい代官がこの島にいたそうなんです。この島は幕府に塩を献上していたのですが、代官は島の人々に対してその日の暮らしにも困る位の厳しい取り立てをしていました。島じゅうが困り果てており、当時の1月24日に島民が結託して、代官が乗る船の栓を抜き、船ごと代官を海に沈めることに成功したのです。

しかし、それから毎年1月24日になると、死んだはずの代官が海から現れて、島の人々を苦しめたと言います。そのため1月24日を親だまり、翌日25日を子だまりと言い、夕方早くから仕事を休み、音も立てないように早々に布団に入るような風習があります。今でもその日の夜は誰も外を歩いていないですし、飲食店もお休みになります。

ーーちょっと怖い話ですね(笑)。ちょっと話は逸れるのですが、江戸時代は塩の生産が盛んだったのですか?

富田:
新島の特産品は「くさや」なんですが、くさや作りに欠かせない、魚を漬ける塩水にも、江戸時代から続く秘密があります。当時「塩」はとても貴重でした。島なので漁業が盛んだったのですが、塩が貴重なものだったこともあり、魚の塩漬けで使った塩水を捨てずに、そこに新しい塩を継ぎ足しながら使っていたみたいなのです。数十年~数百年もの間、塩を継ぎ足し使われ続けていた結果、魚の成分から微生物が発生し、発酵するようになって、くさやのあの“独特な臭い”が発生するようになったそうなんです。

ーー名物「くさや」にはそんな誕生秘話が!一方、式根島の名産は何ですか?

栗田:
式根島では伊勢海老漁を中心に漁業が盛んですね。「たたき」といって、いろんな魚をすり身にして、“つみれ”のようにして食べる文化もあり、お土産売り場での人気商品です。あとは「あめりか芋」ですね。皮が白っぽいサツマイモみたいな見た目で、その生産が盛んです。芋焼酎にもするんですよ。

仕事探しはハローワークや地元企業の求人がメイン。地道な活動が必要

ーー新島・式根島では、どのように仕事を探すことが多いですか?

富田:
「どんな仕事がしたいか」にもよるのですが、島全体の求人情報が総合的に掲載されているサイトなどはないです。それぞれ役場で働きたい場合は役場のホームページ、地元企業で働きたい場合は、地元企業の採用サイトでという感じですね。

栗田:
私はハローワークで今の仕事を見つけました。今だと、役場の事務職員や保育士、看護師、介護スタッフの募集が多いみたいです。

富田:
新島には建設業者7社と設備会社が3社あり、各社で一番の若手でも30代後半だったりするので、そのあたりの企業であれば採用してもらいやすいと思います。求人サイトなどではなく、知り合いなどの紹介で仕事先を探すというケースが多いかもしれないですね。

ーー島民には、テレワークなどをされている方も多いですか?

栗田:
ご自宅で仕事をされている方もいらっしゃいます。旦那さんの転勤で島に移住してきて、奥様は自宅でパソコンを使ってテレワークをしている方がいるという話も聞いたことがあります。ネット環境は充実していますので、テレワークOKの仕事を今されている方であれば、まったく問題はないかと思います。

ーー島の医療機関・医療体制はいかがでしょうか?

栗田:
島暮らしで一番気を使わなくてはいけないことは、健康面ですね。島内には診療所しかないため、命に関わる病気や緊急を要する場合は、東京消防庁のヘリコプターを呼んで東京都内の総合病院まで搬送してもらうことになります。搬送先の病院は渋谷区にある都立広尾病院がメインですが、状況に応じてその他の病院になる場合もありますよ。

島の住居の様子と、住まいの探し方

ーー新島・式根島では、どのように住まいを探せばいいのでしょうか?

富田:
新島には不動産屋がないため、最初は戸惑ってしまう方も多いかもしれませんね。ただ、何度か新島に通っていただければ自然と知り合いや顔見知りが増えていくと思いますので、その方のツテを頼りにしてもらえればいろいろと紹介してもらえるはずです。

最近は空き家バンクに物件が出ていたり、「定住化体験住宅」というものが利用できたりします。「定住化体験住宅」はその名のとおり、移住を検討している方がその地での暮らしを体験できるよう、短期で貸し付ける住宅のことです。実際に「テレワークなどをしながら体験住宅に入居し、それがきっかけで島に縁ができて家探しにつながった」という方のお話も聞きますね。

栗田:
式根島も新島と同じく不動産屋がないため、島民に相談してみるのが一番だと思います。私自身は式根島の職員として移住してきたため、職員住宅を利用させてもらえました。昨今は式根島内の民宿の一部をリモートワークスペースとして整備する動きもあるので、中長期的に島民と関係を築き、住まいを探す選択肢も今後はあると思います。

ーー新島・式根島にはどのような住居が多いですか?

富田:
昔の家には、コンクリート造りの住居が多いです。台風が通ることもあるので、災害に強い造りにしているのだと思います。ここ最近できたような家に関しては木造が多いです。

栗田:
式根島の家については、目立った特徴は特にないです。木造住宅もあればコンクリート造の家もあります。ただ、新しく新築の家を建てる人は少数派かもしれません。「子どもが大きくなったから」「夫婦2人だけになったから」といった理由で建てている方もいらっしゃいますが、基本的には中古物件や元々の実家に住むという方が多いようです。

ーーちなみに、新島・式根島に移住される方ってどんな方々なのでしょうか?

富田:
最近は20代後半〜30代くらいの若い方が多いです。単身の方もご家族で移住してきた方もいらっしゃいます。あとは、私自身もそうですが、もともと新島生まれでUターンしてきたという方も多いですね。

移住理由はさまざまですが、皆「自然が好き」というのは共通しています。「自然豊かなところで暮らしたかった」「新島の自然が好きだから」という理由で移住を決めた方も多いのではないかと思います。

ーー移住する前に準備しておいた方が良いことはありますか?

富田:
小さな島ではあるのですが、やはり田舎ではあるので車やバイクの免許がある方が生活しやすいです。ただ、島内には車屋やバイク屋がないので、移住してから購入する場合はネット注文になります。あとは島内に車のツテがある方がいらっしゃるので、そういった方に探してもらうのもいいと思いますよ。

1つ注意しておくと、新車の購入はあまりおすすめできません。塩害で車が錆びやすいので、島民には「中古車を買って何年かごとに乗り替える」という方が多いです。

嫌な顔せず何でも助けてくれる、支え合いの精神が根づく島

ーー島民の人柄や付き合い方などに特徴があれば、教えてください。

栗田:
とにかくみなさん優しいです。私は単身で移住してきたのですが、病気になったときなどは周りの人が助けてくれるので本当に感謝しています。

最初は、この温かさがとても新鮮でした。十数年前に移住してきた当時、島内には電気屋さんがないので私は自力で洗濯機を取り付けたんです。知り合いからは「取り付けてあげるよ」と言われていたのですが、都会に住んでいた者からするとそれは社交辞令というか、ただの気遣いで言うものだと思っていたので。でも後日、その知り合いは本当に手伝うつもりで「手伝う」と言ってくれていたのが分かって、かなり衝撃を受けました。「頼ったら悪い」なんて思わなくていいんだなと、すごく心が温まった思い出があります。

その後引っ越しをしたのですが、そのときはみなさん手伝いを買って出てくださいました。何かを頼んでも嫌な顔ひとつせず助けてくれるので、私もその恩返しじゃないですけど、ギブアンドテイクで協力しあいながら暮らしています。

富田:
新島で育ったからというのも大きいのですが、自分のことを知らない人があまりいないというのは島民のあるあるかもしれません。たとえば夜どこかにご飯を食べに行ったとすると、最初は2〜3人で店に入ったのに、終盤は10人くらいでわいわいテーブルを囲んでいたなんてことは日常茶飯事です。その分悪いこともできないので、窮屈に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが(笑)。でもそれくらい、孤独を感じることはほとんどないですね。

ーー「島で暮らしてよかったな」と思った瞬間はありますか?

富田:
子育てはすごくしやすいと思います。まず車が圧倒的に少ないので、事故に遭う可能性がかなり低いです。都会だと、ちょっと目を離した隙に子どもが道路に飛び出して…なんてことも考えられますが、島だとそういう心配があまりありません。また近所の方も顔見知りばかりなので、少し子どもがいなくなったとしても「どうしたの?」と声をかけてくれます。ですので、“子どもが迷子になる”という概念自体がないですね。そういった面では、かなり安心して子育てができるんじゃないかなと思います。

あと、子育て中 “ちょっと用事があって子どもの面倒を見られない” というときに、新島村健康センターが運営する「もんもクラブ」というベビーシッター制度を利用できます。「もんもクラブ」には50代・60代の方と絶賛子育てしている方が両方登録していて、時間が合えば子どもを見てくれるというサービスです。「美容院に行きたいから見ててもらえませんか?」「上の子の学校の集まりがあるから、その間に見ててください」と気軽に相談できます。これにはよく助けてもらいました。

栗田:
私は移住してきた当初、島のまったく知らない人から「大根いる?」「魚いる?」と声をかけてもらったことに驚きましたね。おそらく、島に来たばかりの私を気にかけてくれたのだと思います。それくらい、本当に人とのふれあいがあたたかいです。

ーー最後に、移住をお考えの方にメッセージをお願いいたします。

富田:
移住はとても勇気がいる決断だと思います。島暮らしというものにはイメージの湧かない部分も多いと思いますが、一度住んでみれば意外と不便さも感じないと思います。島民はいい人ばかりで、都会では感じられないような「人と人との繋がり」を大事にしながら生活ができます。ぜひ来てください!

栗田:
島の暮らしは、来てみないと分からないことも多数あると思います。だから移住する前に春夏秋冬のそれぞれの季節で一度来ていただいて、いろんな体験をしてほしいと思います。その方が移住してから「こんなはずじゃなかった…」というギャップも起こりづらいはず。たくさん遊びに来てもらって、いろんな人との関わりをもってほしいです。やさしい人ばかりなので、皆あなたのためにいろいろと教えてくれるでしょう。そんな体験を経て「やっぱり移住したい!」と思うのであれば、ぜひ来てください!最初は戸惑うことが多いかもしれません。でも今の私がそうであるように、とても幸せな暮らしが待っています!

5 いいね!
5 いいね!
今週のランキング