こんにちは、採用広報担当の平山です!
昨年末、スイッチサイエンスが量子コンピュータを発売したニュースが一時的に大きな話題となりました。当社は通常、電子部品の通販事業を主に展開しており、ゆえに「スイッチサイエンスが量子コンピュータ?」と驚かれた方も多かったと思います。なぜ量子コンピュータを売るのか。当時の事業戦略、そして仕入れから販売までを包括的に指揮した取締役、菊地さんにインタビューを実施しました。興味深い内容となっていますので、ぜひご一読ください!
菊地 仁
1970年北海道札幌市生まれ、インターネットの草創期から世界中の仲間と共に通信業界を牽引。インドとシリコンバレーでの駐在経験を経て、特にIoTやハードウェア分野において数々のスタートアップ企業との事業開発を精力的に行う。2018年に株式会社スイッチサイエンスの経営に参画し、2021年に独立開業。現在はIoTと事業開発に特化したコンサルティングを手がけている。モノを形にし、挑戦を楽しむ人々を支援することに情熱を注いでいる。
― スイッチサイエンスに参画したきっかけを教えて下さい
2014年より通信会社のシリコンバレー駐在員としてIoT(モノのインターネット)やハードウェア分野のスタートアップとのサービス企画や事業開発を行っていました。そのうちMaker Faire Bay Areaというイベントに顔を出すようになり、社長の金本に出会ったのがきっかけです。
米国駐在中の仕事の1つとして、シリコンバレーのスタートアップが開発したシングルボードコンピュータやクラウドサービスを、技適(工事設計認証)をとってカスタマイズして日本展開するというプロジェクトがあり、スイッチサイエンスに協力を仰いだりもしていました。
今思うと、日本からMaker Faireに出展してきた個性豊かなメイカーのみなさんと交流したり手伝うようになって、オープンソース・ハードウェアのエコシステムに関わりたいと思ったのかもしれません。インターネット側の人間がハードウェア側に染まったのかな(笑)。
― 普段はどういったお仕事をされているのですか?
取締役として、ウェブショップ(仕入)チームを見つつ、経営管理、事業開発、他企業との提携案件などを主に担当しています。最近一番のトピックは、量子コンピュータを開発する中国深センのスタートアップSpinQ Technologyとの提携でしょうか。
― 量子コンピュータ?スイッチサイエンスで販売しているのですか?
はい。2022年12月15日から日本でも販売を開始しました。NMR(核磁気共鳴)方式を使ったポータブル型の量子コンピュータとしては世界初で、2量子ビットと最小構成ながら、リアルに動作する量子コンピュータが100万円台で手に入る時代がきたのですね。
スイッチサイエンスではArduino、Raspberry Pi、M5Stackに代表されるシングルボードコンピュータやモジュール製品がメイン商材で、およそ4000種類くらい在庫しているのですが、SpinQはその中でも最大サイズの製品になります。
― どういった経緯で取り扱うことに?
量子コンピュータをやりたくて一生懸命調べて...とかでは全くないんですよ。事業開発で深センに駐在している高須が偶然見つけてきたのがきっかけでした。彼からの情報をもとに、役員全員で議論しましたが、「そもそもこれ大丈夫?」「実際に動作するの?」「100万円超で売れるの?」「売れ残ったらどうする?」などと侃々諤々。
というのも、米国駐在時代にカナダを中心とするいくつかの量子コンピューティング企業を調査した経験があったんですが、これらの企業はハードウェアの販売よりもむしろ企業との共同研究やアルゴリズム開発に特化しており、すべて研究開発段階にありました。同じ頃、Maker Faire Bay AreaでIBMが超電導型量子コンピュータの実物大モックアップを展示していましたが、会場の天井から吊るされた巨大なシャンデリアのようなその姿には衝撃を受けました。私にとって、量子コンピュータとはまさにアレを指すのです(笑)。まさか5年後に机の上に載せられるほどのサイズで、手の届く価格で購入できるようになるとは全く予想していませんでした。だから本当に驚きと半信半疑の気持ちでしたよ。
Maker Faire Bay Area 2018でIBMが展示していた超電導型量子コンピューターのモックアップ
― ポータブル量子コンピュータを取り扱うという判断には、いろいろあったのではないですか?
スイッチサイエンスは金本ほか数名が所有する小さい会社ですから、大きなリスクは取らないように取締役としては意識しているのですが、SpinQ CEOの人柄やスキル、人員体制や営業、ドキュメントやチュートリアルの完成度など、事業開発でたくさんのスタートアップを見てきた経験から大丈夫かなという手応えがありました。量子コンピュータを学習するキットと考えると、本当によくできています。最後はまあ「やはりロマンですよね」と金本や小室と話して決めましたね(笑)。
研究者に限られていたものが一般の人にも触れられるようになったことは、革新的な進歩です。例えば、マイコンボードを取り上げてみると、実際に手で操作してみることで、理論的な知識だけでは得られない洞察や体験が得られます。手を動かすことによって科学が身近に感じられ、科学への興味や関心が高まるきっかけとなります。その意味では、Arduinoを初めて触ることと、量子コンピュータを操作してみることに、それほど違和感はありません。とてもスイッチサイエンスらしいと思いました。
― なるほど。スイッチサイエンスの理念に適っていると?
そうですね。スイッチサイエンスは、皆さんがその手の中に科学を灯す、そのお手伝いをしたい、という経営理念を持って活動しています。SpinQの量子コンピュータは今はおもちゃみたいなものですが、科学を灯す可能性がある製品の1つの形と言えるのではないでしょうか。
私は、量子コンピュータを使いこなすことができるのは、未来の20年から30年後の人々だと考えています。彼らは量子コンピュータを活用し、医薬品の開発や困難な計算問題の解決など、あらゆる分野で活躍するでしょう。しかしその未来を実現するためには、今からでも少なくとも触れてみることが非常に重要です。過去においても、初めてパソコンが登場した時は同じような状況でしたが、未完成な状態でもそれを手にすることで、未来を創り出す力が生まれると信じています。
― 実際の発売まではどういったプロセスを経るのですか?
ここは通常の新規取引先の仕入れと基本的に変わりません。商品のスペックを確認し、日本の法規制上の課題(電気用品安全法や電波法、その他の法規制)がないか検討します。それらから日本向けに販売するためのコストが明確になるので、ビジネス条件を交渉して、日本に輸出する台数を決め、代理店契約書を結びます。送金を手配したり、通関の進捗を確認したりと、細かいポイントはいくつかありますね。
SpinQ社のNMR量子コンピュータは強力な磁石が内蔵されているため、航空積載時の梱包ルールが厳格に定められています。これに日本側で用意したACアダプターを組み合わせて、商品ページを作って準備完了となります。
おかげさまでプレスリリースはいくつかのオンラインメディアやSNSでも拡散され、Yahoo!ニュースのアクセスランキングで3位に、PRTimesの「いま話題」でも3位になりました。当社を知っていただくという意味でも大きな効果がありましたね。
― そういえば、最近新しく備品を購入したと聞きました
量子コンピュータの出荷業務のために、パワーリフターと安全靴を買いました(笑)
油圧バルブを使って手動で木箱を持ち上げる専用の運搬機です。おかげさまで当初見込んでいた想定よりも在庫が動いており、上位モデルのお取り寄せの引き合いもいただいています。エントリーモデルのGemini-Miniが木箱に入って42kg。上位モデルのTriangulumでも梱包重量は70kgもあり、ちょっとした大型家電並み。さすがにこの重さになると数名で持ち上げても腰を痛めてしまう可能性があるので、導入を決めました。小さいモジュール製品が大量に並んでいるスイッチサイエンスの神楽坂オフィスに置いておくにはあまりに物々しいのですが、職場の労働衛生管理も大事な仕事ですからね。
― 量子コンピュータを扱う現場は意外とガテン系な職場なのですね(笑)量子コンピュータの今後の展開を教えて下さい
市販品としての量子コンピュータはまだ生まれたての赤ちゃんのような段階です。NMR方式に限らず最新動向や技術課題を中長期的に見守りつつ、量子ビット数が増えた商品をどのタイミングで拡充するかをじっくり見極めていきたいなと考えています。
その意味でも、SpinQ Technology社には一度足を運ばないといけないなと思っています。コロナウイルス感染症の影響でビザなし渡航が中止されているため、駐在している高須以外のメンバーは深センに行けない状況が続いているのですが、状況が許せばぜひ訪問して日本のお客様からのフィードバックを届けたいですし、レクチャー動画やチュートリアルの日本語化など、素材の拡充をしていきたいですね。
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