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【支援先紹介 vol.7】脳血管内治療で手術支援AI機能標準装備化を目指し、世界市場に切り込む

「世界に安全な手術を届ける」というビジョンのもと、豊富な医療データと最先端の機械学習技術を活用して、脳血管内治療の安全性を向上させる手術支援AIの開発を行っている、株式会社iMed Technologies(アイメド・テクノロジーズ)。医師として16年間の医療現場での経験を経たのちの2019年4月の創業以来、様々な起業支援プログラムに採択されながら開発を順調に進め、2020年10月には1億7000万円の資金調達を実現して事業を加速させています。代表取締役CEOの河野健一さんに、起業に至る経緯や事業の独自性、今後の展望、そして医師にとってのビジネス観についてお話いただきました。

年率10%ペースで増える脳血管内手術で、安全性向上を実現

ーーまず事業について、教えてください。

脳血管内手術を安全に行えるよう、支援するAIを開発しています。脳梗塞やくも膜下出血の治療として、かつての開頭手術から、現在ではカテーテルという細い管を1~2ミリ幅の脳血管まで送り込んで行う、脳血管内治療が多く適用されるようになっています。体を大きく切ることがなく患者さんに負担の少ない手法のため、この手術件数は年率10%以上で増加しています。また、脳の血管が詰まる脳梗塞は4人に1人がなるといわれており、日本人が寝たきりになる原因の第1位の疾患でもあります。
もともと脳神経外科では24時間体制で緊急手術に備えており、昼夜を問わず、医師やスタッフが呼び出されて対応することが常態化しています。そのなかでカテーテル治療では、医師が様々な状況を把握し、繊細な操作をしなければなりません。わずかな動きのズレや遅れが合併症等につながるリスクがあり、メインの術者に加えてサポートに入っている医師同士で互いに注意喚起しながら治療を進めるのですが、大変神経をすり減らすものとなっているのです。そこで、そのような医師を手術中に支援するプロダクトを考え、目下開発中です。

ーーどのような使われ方をイメージしていますか。

このプロダクトは自動車の衝突警報装置のようなイメージで、それがあれば安全性を向上することができるわけです。自動車にも、そうした装置がつけられ始めた頃には不要だという声もありましたが、今ではそれが安全を担保してくれるものとして、社会に必要とされています。当社で開発中のプロダクトも将来像としては、医療の世界で「あって当然」の機能となることを目指しています。
今後、若手医師を中心に、実際の手術での安全の担保のために役立つことを目指しています。育成・トレーニングでの活用も見込めると思います。医業経営的には、医療の世界でも進む働き方改革の流れをふまえ、現場の医師の負担軽減などに応えるものでもあります。

MBA受講でビジネスの世界を知り、起業を自分ごとにできた

ーーこのようなプロダクトのアイデアに至った経緯をお聞かせください。

もともと私は東京大学の理学部数学科を卒業後、もっと社会と直接つながって貢献したいと思い、医学を志して京都大学大学院に進んだのです。生まれ育った東京を初めて離れ、学生の多い京都で自由な空気のなか、伸び伸びと学ぶことができました。そうして専門の診療科を選ぶときには、自分で手を動かす外科系のほうが性に合い、なかでも、複雑で微細な脳を扱う脳神経外科に進みました。また、脳疾患治療というのは常にチームで当たり、緊急性の高いものが多いため、スタッフは24時間待機して、非常に高いレベルで一体感をもっており、そうした熱意や使命感も好ましく思えたのです。
こうして約16年、脳神経外科医として患者さんの治療に当たってきました。そのなかで、血管内治療における現場の課題も感じていました。

ーー河野さんは、エンジニアとして開発にも携わっていますね。

そうですね。私は脳神経外科医としては少し変り種で、医師になって7~8年目くらいから脳血管内の血流を、コンピュータによるシミュレーションで観察する「流体解析」という手法を用い、脳動脈瘤の破裂リスク評価などに活用できないかという研究を行っていました。たまたま論文誌の表紙で見かけた、流体解析モデルのカラフルな写真に惹かれたのがきっかけですが、好きな数学を生かせますし、脳神経外科の分野で自分のアイデンティティを出せることにもつながりました。
こうした流体解析は当時は主に工学部で行われており、工学部の学会で医師である自分が発表をすると当初は驚かれました。当時、医師は治療データを提供することが一般的で、工学の専門家と対等に流体解析の中身について議論するようなことは、ほとんどありませんでした。また当時、囲碁や将棋でコンピュータと人間のどちらが勝つかが注目されていたので、私も流体解析モデルと医師の見立ての、どちらがより正確に破裂状態を予測できるか、チームを作って競わせる場を開催したりしていました。
そうして、医師として患者さんの治療に取り組みながら、診療を終えた深夜にコンピュータに向かい合う。それで機械に計算をさせておいて、翌朝結果を見るなど、そんな風に30代を過ごしてきました。数学好きが高じてできたことですが、それで工学部の先生とも仲良くなりました。また、その後、機械学習(ディープラーニング)も早期に学んで簡単なコーディングをしていました。

ーー起業に至るには、他にどのようなきっかけがあったのでしょうか。

起業については、グロービス経営大学院でMBAを取得したのが、きっかけです。グロービスでさまざまな業界・業種の人たちと出会い、ネットワークができたのが良かったですね。また、入学時のエッセイで「自身の志」を書いたときに、医師として目の前の患者さんを助けるのに留まらず、もっと世の中に広く貢献したいという気持ちを再確認できました。
その後、グロービスの卒業生や同級生が起業していくのをみてハードルが下がり、修了と同時に病院を退職して起業しました。それが2019年4月のこと。ビジネスのアイデアは在学中にいくつも考えていました。自宅に購入した3Dプリンターで患者さんの脳血管モデルを作ったりもしたんです。そうしたアイデアのなかから、脳血管内治療の増加トレンドもふまえてこれと見込んだのが、現在の事業です。

創業したてだからこそ必要なサポートメニューが揃う東大IPC

ーー東大IPCに応募したきっかけを教えてください。

実は、創業当初はこうした起業支援プログラムやアクセラレーションプログラムについて理解が浅く、資金面での援助を期待して、ちょうど公募が始まっていた1stRoundのほか、NEDO NEPやBeyond Next Ventures社のプログラム(Brave)にも応募をしました。幸い、3つとも採択され、支援を得ることができました。それぞれ支援内容には特徴があり全て素晴らしいものでしたが、東大IPCからは幅広い支援を受けることができました。

ーー東大IPCは、どのような点が良かったのですか。

必要なときに、必要なサポートをもらえるところですね。たとえば、知財の必要性を感じていたときに弁理士・弁護士事務所を紹介してもらい、知財戦略の立案とともに特許出願までたどり着くことができました。また、ビザスクという、各種スポットコンサルティングのサービスが初回は無償で利用できたのですが、こちらが希望する稀な経験を持つ方に出会うことができ、利用しがいのあるサービスでした。特にベンチャーの立ち上げ期というのは資金的に余裕がないため、こうしたサービスにはなかなか手が出せないものですが、一度使ってみるとその有用性も分かって、よいですね。
その一方で、義務としてやることは最小限で済むのも、東大IPCの特長だと思います。支援期間中は月1回のミーティングが決められているくらいでした。また、アクセラレーションプログラムではよく、ビジネスの基礎セミナーが盛り込まれており、初回は参考になるのですが、重複するものもあります。こうした受講や報告書の時間を最小限にできる点でも東大IPCは負荷が少なく、有難かったです。
そのほかにも、当社スタッフが増えたのもあって新しい事務所を探していたときに、東大の近くであるベンチャーが退去するのを教えていただき、そこにスムーズに入居ができました。そんな風に、東大IPCが持つ人脈やネットワークで、こちらがちょうど必要とするものを支援いただけるんです。その支援内容も年々グレードアップして、プログラムのパートナー企業も増えています。また、資金調達について、東大IPC自体の豊富な投資経験に基づく、ネットでは知ることができない生の情報を得ることができます。それぞれのベンチャーキャピタルの特徴や投資の傾向といった、現場を知るからこそ分かるような貴重な情報もあります。特に初めての資金調達に際しては、それが大変役立ちました。

医工両方に通じているから、医療現場の真の課題を発見・解決できる

ーー起業家としてのご自身の強みは何でしょうか。

医療機器開発において、医師自身が工学やエンジニアの領域で実際に手を動かすことは多くありません。私は自分でもディープラーニングを数式レベルから理解し、簡単なコーディングができる医師という、医工両方に通じているのを強みとしています。通常は医師とエンジニアの間に言葉や概念の壁があるのですが、それを最小限に抑えられているのが強みです。

ーー今後の展望をお聞かせください。

医療機器では、各国・各地域の薬事認可を通れば世界を対象としやすいので、将来的には世界市場も視野に入れています。脳血管内治療以外の、心臓や肝臓などのカテーテル治療への転用も理論的には可能です。そうした未来に期待して、まずは製品化を成功させることが大事。そのため、2020年10月に資金調達を済ませ、CTOや薬事の専門家を社員に迎え、エンジニアの体制も整えたところです。ベンチャーとして初回の資金調達である「1st Round」は卒業したわけですが、引き続き東大IPCにはいろいろと支援いただきながら、事業を進めていきたいと思っています。

ーー起業を目指す方にアドバイスはありますか。

何か自分でやってみたいものがあれば、今の時代、起業は一つの現実的な選択肢だと思います。もちろん、社内で新規事業として行うとか、最近では副業としてまず小さく初めてみることもできると思います。一方で退職して退路を断つと、日中の時間が使えるので事業に対するスピードがぐっと加速できます。そして、覚悟を決めることで世界が変わって見え、ネットワークもできてきます。周りからの目も変わります。
私のような医師という職種での起業も、広がって欲しいし、情報もあるのでその流れになっていくと思います。医師自身が現場で感じた課題を、さまざまに得た知見をもって解決できるようになればいいですし、起業もそのためのひとつの手段と思います。実際、テクノロジーで解決するソリューションも各種出てきていますので、今後の世界の医療の変化に注目していきたいと思っています。

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