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アパレル業界から自然ガイドへ。未経験から飛び込んだ、自分の世界を広げていく仕事。

ホールアース自然学校に入社してから5年が経った。

自然体験のプログラムをしていると、参加者から「前はどんな仕事をしていたんですか?」と聞かれることがある。「洋服を作る仕事をしていました」と答えると、100%の確率で「え?そこからなんでこの仕事に?」と尋ねられる。

私にとっては、服を作る理由も、自然を案内する理由も、同じだ。
“誰もが自分らしさを大切にできる”、そんな世界を創っていきたい。
服にも、自然にも、その力があると信じている。

目次
“モノ”づくりから“コト”づくりへ
・きっかけは富士登山
・自分の中に眠っていた原体験
・自分の枠を壊して、世界を広げていく仕事
・未経験でも続けてこれた理由
・これからのこと


“モノ”づくりから“コト”づくりへ

幼いころからものづくりが得意で、大学卒業後は服飾の専門学校に行った。その後、既製品のシャツの販売から始め、オーダーメイドのシャツの販売、そして、最終的には工房に入り、朝から晩までひたすらミシンを踏んで、オーダーシャツを作る仕事に勤しんだ。けれど、この先アパレル業界で自分のキャリアを形成していこうとしても、ワクワクする未来を描けなくなった。

「捨てられるほど大量に服がある世界で、それでも自分が服を作る意味はなんなんだろう」

ある頃から、そんな問いが頭の中から離れず、納得のいく解が出てこなかった。
10年くらい前から、アパレル業界では「エシカルファッション」という言葉がよく聞かれるようになった。服を作る過程で、労働者を搾取しないこと、環境に悪影響を与えないこと等、いわゆる人や環境に配慮したファッションのことを指す。言い換えれば、アパレル業界は、人や環境に優しくないことがとても多い。仮にエシカルファッションを作っていても、たくさん売らなければ利益は出ないし、単価を上げれば得られる人が限られてしまう。服を作るのは好きだけど、必要なものを、必要な分だけ作れたらいい。であるならば、生業にしなくていい。服を作ること自体は、やりがいもあるし、素敵な仕事だと思う。でも、それは私でなくてもいい。だから私は、「モノではなく、コト(体験)を提供できる仕事をしたい」と思うようになった。


きっかけは富士登山

「固定観念は捨てて、なんにでもチャレンジしてみよう」

そんな気持ちで、自分の可能性を広げる手段の一つとして、ひと夏だけ富士登山の添乗員のアルバイトをしてみることにした。とあるツアー会社が「未経験でもOK」ということで募集をしていた。富士登山の経験はプライベートで1回だけだったが、直感でチャレンジしてみようと思った。仕事内容は、新宿発のツアーバスに乗り、富士山の5合目まで参加者を連れていき、そこで登山ガイドと合流。1日目は山小屋まで一緒に登り、就寝。夜中に起きて、山頂を目指して再出発。まだ薄暗い中山頂に到着し、冬のような寒さの中でご来光を今か今かと待つ。「人生に一度は登ってみたい」参加者の多くは、そんな夢を持って富士山にやってきている。足が痛くなったり、高山病になったり、天候が悪くなったり、山頂までの道のりは容易ではない。登山ガイドが皆を引っ張っていくけれど、添乗員である自分もできるだけのサポートをする。一人一人応援しながら一緒に登るときの気持ちは、なぜだか、自分が一人一人にオーダーメイドの服を作るときの気持ちと重なった。ベテランの先輩ガイドに「小野さん、ガイド向いてるんじゃない」と言われたことがきっかけとなり、夏が終わった頃には、ガイドの仕事を探しはじめた。


自分の中に眠っていた原体験

「富士登山」というキーワードでインターネット検索していた中、偶然ホールアース自然学校のことを知った。自然学校というものの存在は知らなかったけれど、応募してみることにした。そして、「なぜ、ここで働きたいのか」を考えていったとき、地元九州での自然の中で、家族と過ごした経験がよみがえってきた。幼いころから毎年夏には熊本の阿蘇山に行っていた。そこには、大自然の中で肩書きを忘れ、“素の自分でいる”家族の姿があった。大人になれば、社会的に色んな役割が増え、時と場合に応じてスイッチを切り替えなければいけない。家でスイッチOFFにすることはできるかもしれないが、リラックスしきれないこともある。一方で、自然の中では、まるで童心に返ったかのようにはしゃぐこともできるし、日頃モヤモヤしていることがスッキリとしたり、心を落ち着かせることもできる。感動したり、ドキドキしたり、色んな感情を味わうこともできる。

「自分らしくいられるために、自然って必要だな」

家でも会社でも学校でもない、自然が、色んな人にとってのサードプレイスになったらいいなと思うようになった。


自分の枠を壊して、世界を広げていく仕事

入社したての頃は、針葉樹と広葉樹の違いも上手く説明できないくらいの知識の薄さだったけれど、毎日のように自然の中へ足を運び、先輩のガイドについて現場を知り、見よう見まねで仕事を覚えていくうちに、感覚的に“森の違い”が見えるようになってきた。フィールドで見たことと、本で調べたことを重ね合わせ、情報を自分の中に落とし込んでいく。自然の知識が増えると同時に、自然にはまだまだ未知の世界が広がっていることも知った。自然の理を知るうちに、自分と自然との距離はじわりじわりと近くなっていった。自分の枠を壊しても壊しても、世界は広がり続ける。自然の中で発見したこと、感じたことは、プログラムの中で参加者に自然の魅力を伝えるときに大切な核となっていく。自分の経験値が上がれば上がるほど、提供できるものの価値も高まっていく。


未経験でも続けてこれた理由

ホールアース自然学校の門をたたく人は、飲食業界やIT業界など他業種の人も多い。それに、一言に「自然が好き」といっても、どんな自然が好きかは人それぞれだ。虫が好きな人、植物が好きな人、トレランが好きな人、キャンプが好きな人、登山が好きな人…興味関心は異なる。大事なのは、自分の中に何かしらの「自然の価値」を感じていて、それを活かすことも守ることもしながら、自分を生きていきたいということだと思う。

興味関心や、特技や経験が異なるからこそ、互いが互いのできないことを補い合うことができる。施設の中で壊れた階段をササっと修理することができる人もいれば、パソコンや電気関係の不具合を解決できる人もいる。助成金の申請書や行政の事業の報告書など書類の作成が得意な人もいれば、チラシの作成などグラフィックのデザインができる人もいる。それまで培ってきた経験は、ホールアースの中で、必ずどこかで活きてくる。

私の場合でいうと、やっぱりものづくりが得意なので、鹿革クラフトのアイテムを新たに作ったり、ワークショップを企画したりするところに、経験は確実に活きている。布や、革といった素材の背景にある課題を知っているからこそ、参加者に伝えられるメッセージも自分の言葉になる。自分をどう活かすかは、自分次第で、チャンスはいくらでもある。

そして、最近思うのが、やっぱりこの仕事は自然の中にいる時間も長いし、体を動かすことも多いので、体力があるかは結構重要だ。思いがあっても体力がなければ、続けることはなかなか難しい。


これからのこと

5年が経ち、できることは増えたけれど、自然ガイドとしてはまだまだだと思っている。もっと色んなトレイルを歩いてみたいし、自然と文化の関連性も調べたい。地学的な観点でフィールドの特徴を知りたいし、足元の草花のことも知りたい。海外の人にも魅力を伝えられるようにもなりたいし、アパレル業界の人とも自然との共生の方法を考えたい。利用だけでなく、保全活動もできるようになりたい。

私らしさをアップデートしながら、世界を広げていく。
ここでは、そんな働き方ができると思う。

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