東京オリンピック・パラリンピックを契機に、スポーツを通じた経済活性化への期待が高まっており、スポーツ産業は大きな成長力を持った市場だといえるでしょう。
スポーツ庁によると、市場をの次の6つに分類し、「スタジアム・アリーナ」(3.8兆円)、「アマチュアスポーツ」(0.3兆円)、「プロスポーツ」(1.1兆円)、「周辺産業」(4.9兆円)、「IoT活用」(1.1兆円)、「スポーツ用品」(3.9兆円)としている。
また総務省が設置した「2020年に向けた社会全体のICT化推進に関する懇談会」の中に「スポーツ×ICT」をテーマとしたワーキンググループを立ち上げ「スポーツデータ活用タスクフォース」を開催しています。これは文字通り「スポーツ分野においてICTをどのように活かすか」に重点を置いた会合であり、官庁主導でスポーツ分野にICTのデータを活用しようということの現れでしょうか。
出典: Statista
ICTとは「Information and Communication Technology(情報と通信に関する技術)」のことで、スポーツ分野においてICTデータの活用を図る目的は一般的に大きく2つの側面が挙げられています。1つは、アスリートの強化支援のため。もう1つはスポーツビジネスとしての側面です。
アスリートの支援の面では選手の身体や道具につけたセンサーからデータを取得して内容を解析することや、過去の競技映像などから選手や相手の特徴をデータとして分析しアスリートの強化に繋がる練習メニューを組むことが挙げられます。試合中のアスリートの動きを収集・分析してリアルタイムで有効な策を打ち出したり、タブレット端末を使って選手に作戦やアドバイスを伝えるなど、さまざまな支援ができるようになりました。
例えば、卓球女子の石川佳純選手は、ネットワークを介して遠隔での共同作業を可能にするクラウド型アプリ選手とコーチが離れた場所にいても試合や練習の動画を一緒に見て対策を立てられるシステムや、 練習時のボールの速度やコースなどをリアルタイムにトラッキングして見える化した画像を、遠隔地にいるコーチと共有してアドバイスをもらえるシステムを利用しています。
アテネ五輪・男子ハンマー投げ金メダリストで、研究者としても活動する室伏広治さんは、自身のハンマーに付けたセンサで計測した角加速度(回転方向の加速度)を音に変換してフィードバックし、自分の動作変化がハンマーの速度に反映しているかを確認しながらトレーニングに活用しています。
選手の試合中の負荷のかかり方を正確に把握するためにGPSや加速度計などの各種センサーを組み込んだGPSデバイスウエアを選手に着用させ、総走行距離、トップスピードで走行した距離、加速、減速などの運動データを選手ごとに収集することができるので、これらのデータを怪我の発生状況と照らし合わせることで、負荷状況や運動の種類と怪我の相関を選手ごとに細かく見つけることができます。 この分析によって、それぞれの選手が怪我をしやすい状態がわかるので、選手ごとに細かく体調を管理して、疲労が溜まっている選手を休ませることで怪我の発生頻度を小さくできるようになりました。
こうして得られたモーショントラッキングデータを活用し、これまで試合や練習の終了後にコーチが分析した結果に基づく指導ではなく、リアルタイムにその場でデータとリプレイ映像に基づく科学的な指導が可能となり、どのような攻撃パターンで得点の成功率が高く、如何に失点を抑えるのかといった戦術分析や、一人ひとりのポジションに応じたトラッキングデータの確認など選手の競技力の向上に活用しています。
スポーツへのICT導入で起こる変化は観戦や視聴する側にの楽しみを広げることにも繋がってくるでしょう。ひとつは視聴者にとってのエンタテインメント性を上げるために、試合に関するデータをリアルタイムで収集・分析する取り組みです。
観客が野球選手の打率や守備範囲などを見ることができたり、フィギュアスケートで選手が成功させた技の名前を知ることができたりなど、観戦する側がそこにいるかのように選手の試合データや動きの情報を使うことでより臨場感伝わることでしょう。
本格的に5Gがスタートするとスマートフォンなど手元の端末でスポーツ中継を楽しむ際、レフリーの視点やピッチサイドなど、複数のカメラアングルから自分の好きなものを選んで視聴でき、同じスポーツ中継を楽しみながら、それぞれ見ている視点はバラバラというのが当たり前になったり、VR技術を使っての大容量な360度高画質映像の配信も可能になるため、自宅にいながらまるで会場にいるかのような臨場感のあるスポーツ観戦体験をすることも考えられます。
離れた場所にいる人同士がアバターとなって同じVR空間に参加し、一緒にスポーツ観戦を楽しめるといったしくみも提供されており、近い将来にはいつでもどこでも誰とでも、一緒にスポーツを観戦できるようになるのではないでしょうか。
また観戦者の顧客データを分析して一人ひとりのファンに適切にアプローチするワン・ツー・ワンのデジタルマーケティングなどが広がっていき、ファンサービスの一環という枠を超えて、全国各地を結んだヴァーチャル・サッカー教室が開かれたり、現役プロ選手と未来のプロ選手たちを結ぶ、新しいスタイルのコンテンツが生まれるような期待感を感じます。
これらのITを生かしたスポーツ支援は、プロのアスリートだけでなく、一般のスポーツ愛好者、高齢者のリハビリにも適用できる可能性を秘めています。それに伴い、これまでと違った新しいスポーツ競技の形を生み出そうという動きも起こっています。先端技術を用いて人間の身体能力を向上することができれば、年齢や性別、障がいの有無といった垣根を超えて、みんなが同じフィールドで競い合うことも可能になるのではないでしょうか。
既存のスポーツ競技のあり方を変えるだけでなく、新たな競技を生み出してしまうITの進化は、今後も止まることがありません。
スポーツにITの要素が加わったおかげで、今までスポーツに興味がなかった人も興味をもったという人が増えたかもしれません。スポーツとITというまったく関係性がない2つの世界が組み合わさったとき、より面白くそして楽しいものへと変化していくのです。