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道具の進化と価値観の変化

昨年秋、会社の方達と一緒に明治神宮大会を観戦しました。

その試合では両チーム会えわせて5本塁打の乱打戦。高校野球の公式戦を球場で見るのは久しぶりであったが、最近の高校生の打力アップにとても驚きました。打った瞬間は外野フライだろうと思った打球がグングン加速しそのままスタンドに到達したり、ゴロであっても内野を抜けるスピードが速く、守備陣は大変だなと思いました。一昔前は浅くて小ぶりなグラブをした内野手がかっこいい風潮がありましたが、選手のグラブを製作する仕事をしているとプロアマ問わずここ数年でのグラブのトレンドは”深く、大きく”でした。年々上がっていく打球速度に対応するためには必然だったのでしょう。

さて、甲子園大会の記録を振り返ると木製から金属に変わったのは74年の夏、この時は材料となる木材の不足や、折れやすい木製バットによる部活動費用の負担軽減などが主な導入理由で、この動きは世界共通で多くの国のアマチュア野球がこの時期に金属バットに変わりました。

木製バットの時代、甲子園の最多大会本塁打数は19本(24年夏)でしたが、79年夏の27本、82年夏には32本に増加。21世紀に入り、高校野球の“打高投低”はさらに進み、06年夏に初めて60本台(60本)に乗り、17年夏には68本にまで記録を伸ばしました。                           個人では17年早稲田実業の清宮選手が史上最多の高校通算109本塁打を記録しました。

ホームラン数の増加にはいくつか原因が考えられます。科学的な食事や筋力トレーニングの導入、旧来の叩きつけるだけのスイングからの脱却、そもそもピッチャーの投げるスピードが上がっているから自然と反発スピードも強くなっていく。ボール自体が飛びやすいものになっていたというニュースもありました。その中で私が野球関係者から最もよく聞いていたのが『バットが跳びすぎる』でした。

一般的に木製よりも金属製バットの方が打球が伸びるといわれるのは、素材の密度が均質でスイートスポットが大きいからだとされています。このために、金属バットの導入以後、ミートを心がける打者よりも振り回す打者が多くなりました。

さらに各メーカーとも素材や多重管構造化を研究し、”飛ぶバット”作りに尽力してきた経緯があります。もちろん各選手の努力や才能があることが前提ですが、バットのおかげで飛んでいる打球も多く目にします。あまりにもバットの性能向上の進化が早く、打球の速度や飛距離の向上は打高投低に拍車がかかりゲームとしてのバランスを崩しているのでは無意でしょうか。毎度問題に上がる投手の投球数の増加やライナーを避けきれない事故も起き、とうとう高野連も規制に踏み出しました。

’’日本高校野球連盟は2019年9月20日、金属製バットの性能の見直しへ着手することを発表した。反発力を低くし打球速度を抑えることで国際大会での競技力向上や選手の安全対策が目的だとしている。’’ 朝日新聞2019年9月20日

金属製バットは打球部の金属の肉厚を薄くすることで、ボールをより速く、遠くへ飛ばすことができるようになります。ボールが当たった時にバットが変形し、その復元力ではね返すためです。(トランポリン効果)

その効果を抑えるため、バットの最大径を70ミリから67ミリに縮小し、重量を900グラム以上に制限する現在の基準が2001年秋から採用されました。全体を細くし、軽量化に歯止めをかければ、肉厚は厚くならざるを得ないからだ。一定の効果は見られたが、選手の体格の発達などもあり、さらなる見直しの必要に迫られました。

今回の見直しでは、最大径をさらに64ミリに制限する予定で、木製バットの平均値に近くなります。

ただ野球発祥の地、アメリカでは全米大学体育協会(NCAA)と全米州立高校協会(NFHS)全米アマチュア野球連盟(USA Baseball)はBBCOR(Bat-Ball Coefficient of Restitution)と呼ばれる反発係数基準が採用され、金属バットは木製バットの反発係数と同等の0.50以下のものしか試合で使用することができないのですが日本の野球規則では、金属バットについて最大直径67ミリ未満、質量は900グラム以上と定めているが、反発係数に関する規定はありません。

「球数制限」や「試合開始時間」「試合間隔」など、日本の高校野球には改革すべき課題は山積しています。しかしそれぞれさまざまな事情があって、事態は一向に進展しませんでした。金属バットの弊害は、高校生の国際大会のたびに識者やメディアも指摘してきましたが、これも改善の兆しはありませんでした。

世界の青少年野球が「リーグ戦中心」で「球数制限、登板間隔制限」を行い、木製バットや反発係数の低い金属バットで野球をしている中で、日本の高校野球だけが「トーナメント中心」で、球数も登板間隔も無制限の「投げ放題」で、反発係数の高い「金属バット」を使用している。まさに「ガラパゴス化」が進行しているのです。このままいけば日本と世界の野球は、乖離が進む一方でしょう。

金属バットの改定は、高校に経済負担を強いることになり、高校野球を支援している日本のバットメーカーにも大きな影響を与えることでしょう。下手をすると海外のBBCOR仕様のバットのメーカーに市場を奪われかねないかもしれません。

将来の日本スポーツのために大きな改革を望みます。

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