Reuters Events主催オンラインセミナー医療者が患者になったとき製薬会社に求めるもの~ 製薬会社が真のアンメット・メディカルニーズに応えるためには ~ 開催報告書
Patientricity MedPartnersの代表朝枝は、パネリストに対がん活動に励む坂下千瑞子先生と、トータス往診クリニック院長の大橋晃太先生をお招きし、Reuters Events主催のもと、製薬会社向けオンラインセミナー「医療者が患者になったとき製薬会社に求めるもの~製薬会社が真のアンメット・メディカルニーズに応えるためには~」を開催いたしました。
◆パネリスト紹介
坂下千瑞子氏
血液内科の臨床医として活躍(東京医科歯科大学血液内科特任助教)。アメリカのフィラデルフィアで血液内科の研究をしていた際に骨軟部腫瘍を発症。現在は再々発を乗り越え、がん患者大集会やリレー・フォー・ライフなどの対がん活動に励む。
大橋晃太氏
25歳の時に急性骨髄性白血病を発症。骨髄バンクでは完全一致するドナーがまだ見つかっておらず、ドナーを待っている最中。自身の病気をきっかけに医師を目指し、現在は血液疾患の在宅医療を提供するトータス往診クリニックを設立した。中学生を対象としたがん教育にも携わっている。
◆司会進行役紹介
朝枝由紀子
Patientricity MedPartners代表。北米大学留学後は医師として大学病院で医療に従事する。その後もっと多くの患者さんの役に立ちたいと革新的な新薬を届ける製薬会社に転職。そこで、患者のための医療であるにも関わらず患者の声が届かない製薬会社の現状に疑問を抱き同社を設立した。
本オンラインセミナーでは、実際に参加者の皆さまにポールクエスチョンという形でいくつか質問を投げ、その場でご回答いただきました。そこで得た回答を踏まえ、坂下さんと大橋さんにディスカッションを行っていただきました。
◆患者中心の医療の実現のために、患者さんの生の声を聴く機会があったと答えた人は全体のわずか31%。あまりない・全然ないと答えた人がほとんど。
医師・患者両方の経験がある二人が、いざ患者の立場になって分かったこととは何か。
「痛みを乗り越え治すのは自分自身だと気づきました。」三度の骨軟部腫瘍を乗り越えた坂下さんは言いました。繰り返す手術や重粒子線と抗がん剤治療には痛みを伴い、精神も疲弊します。それでも自分自身が闘病意欲を失っては、治療は良い方向には進みません。「患者自身の”治そう”という意欲に応えるためにも、医療の情報提供が必要です。」製薬会社はじめ、医療従事者は患者の闘病意欲を失わせないために、しっかりと医療の情報を共有し共に闘うことが大切だと語りました。
また、自身の病気の経験があったことで医師を目指した大橋さんは、医師と患者間でのコミュニケーションの難しさを指摘しました。医師はどうしても物事を端的に伝える傾向があり、患者にとってそれは時に大きなショックも与えかねません。効率性や端的を求める医師に対し、もっと繰り返し質問をしたり、長く話をしたりしたい患者とのギャップを感じたと言います。
◆患者さんの生の声を受け、それを企業活動に生かしたことがあると答えた人は全体の49%。
二人が患者の経験を踏まえ実践している社会活動や診療とはどのようなものか。
坂下さんは、リレー・フォー・ライフの活動に尽力されています。製薬会社も参加しているこの活動は、日本対がん協会がライセンスを管理しており、年に一度ウォーキングイベントを行っています。
坂下さんはこの活動を通じ、“患者さんに敬意を払うこと”を忘れずに患者さんに接していると言います。「患者さんやそのご家族は大変な状況の中で一生懸命今を生きている。診療のうえでは患者さんの声にしっかり耳を傾けています。」
また、患者さんにとって、がん研究・がん特効薬開発は勇気をもらい、希望となります。アメリカではなんと、このリレー・フォー・ライフの活動が慢性骨髄性白血病治療薬の開発に大きく貢献しました。「日本でももっとこの活動を広げていきたい。」と坂下さんは語りました。
「患者さんは家に帰りたいのに帰れない。これでは最期の時をどう過ごすか、などというACP(Advanced Care Planning/人生会議)が進まない。」大橋さんはこの事実に課題を感じました。
そこで「患者さんが住み慣れた我が家で望むように過ごせるように。」と“血液在宅ねっと”を立ち上げました。患者側・医療者側それぞれの在宅ニーズを把握し、在宅輸血の適切な普及を促します。さらには血液在宅リソースマップを作り基幹病院に提供しています。また、これから在宅輸血に携わる訪問看護師の方々に対し研修を行い、安全に在宅輸血を実践できるよう指導しています。
◆製薬会社が患者ニーズの高い薬品の開発・販売のために重要だと思うものは、という問いに対し最も割合が多かった回答は「患者さんの理解を深めるための交流の場・議論の場」、次いで多かったのが「トップマネジメントのコミットメント」
医師・患者それぞれの視点から、製薬会社に対し期待することとは。
患者視点に立った時、坂下さんは「作られた薬は必要な人の手が届く価格で供給すること」を期待しながら、さらに「患者さんだけでなく、その人を取り巻く社会を幸せにしてくれるような薬があれば。そしてそれを、スピーディーで、かつデータに基づき安全に正しく作っていただきたい。」と製薬会社への期待を示しました。
一方、医師の視点に立った際には「一番困っている人は誰なのか考え、製薬会社として何を優先すべきか正しく判断すること」、そして「製薬業界全体がOne Teamとなること」を坂下さんは望まれました。
大橋さんは、「製薬会社が患者会やイベントに積極的に参加すること」を提示しながら、「逆に、患者が製薬会社に対し何ができるのか明確に提示してほしい。」と新たな切り口からお話をされました。患者さんの中には、医療を“与えられる”立場にあり、常に何かを”してもらっている”ゆえに、自分でも何か出来ることをしたい、与えたい、と思い自分ができることを探している人がいます。彼らに積極的に協力を要請し、互いに関係を築くことの重要性を説きました。
ひとりの医療従事者として大橋さんが望むことは、QOLの向上に寄与する薬剤の開発やケアギバー(介護者)への配慮についてである述べ、さらには「自分たちの開発した薬が基幹病院以外でどのように使われているか、実際に足を運び見てみること」も提案しました。
◆患者も含め、日本では一般国民の医療への認識や知識が低いことが現状として挙げられる。
この課題を解決しなければ患者中心の医療の実現は難しい。その解決のためには、何が必要なのなのか。
がんとはどういうものなのか、どのような対策が取られているのか、など深いところまで知ることのできる機会を作っていきたいと坂下さんは言いました。最近になりがん教育が始まりましたが、まだ深いところまで教えられていないのが現状です。
その中で坂下さんは製薬会社に対し、「今どのような治療薬が開発されていて、先々どのような社会が待っているのか、発信してもらいたい。」と期待を示しました。
さらに大橋さんは、坂下さんの「がん教育に製薬会社が携わること」に賛同しながら、もっと幼い頃から命には限りがあるという現実を教えていくべきだと付け加えました。
◆患者体験があったから、二人が製薬会社に伝えられること・伝えたいこと
坂下さんは、患者・医療従事者・行政・製薬会社がOne Teamとして活動していくことを再度唱えながら、患者さんの「治りたい」という想いに応えるために、製薬会社は”何のために”、”誰のために”この薬を開発しているのか考えていただきたいと語りました。
「実は在宅医というのは情報共有の場が少ない。」
大橋さんはその現状を踏まえ、製薬会社の人には他の医師の話などの情報提供を求めました。医師同士の横の繋がりは、医師にとってとても大切なものです。その繋がりを支えてもらいたいと期待を示しました。
さらに、がん教育に関しても共に携わってほしいと大橋さんは言います。どうしてもがん教育の場では命には限りがあるということを伝えざるを得ない。しかしそれだけではただ落ち込んでしまうだけ。そこで製薬会社の人には「いまどんな医療を開発している・治験をしている、」など未来を見据えた明るい話をしてもらいたいと語りました。
◆まとめ ー製薬会社が、患者さんの生の声を聴くということー
このオンラインセミナーは約400人近くの方にリアルタイムでご参加いただきました。更に、後日オンデマンドでも配信を行い、約1000人近くの方に本セミナーをお届けすることが叶いました。また、このセミナーを聞いてくださった大半の方は製薬会社に勤められている方です。
私自身も、製薬会社のいち社員として働いていた経験があります。そこで、患者さんのために開発されている薬が、医療を提供する側の事情を軸に開発されている現状を目の当たりにしました。
もっと、患者さんの生の声が行き届いた優しい医療世界を目指したい。その想いをもってPatientricity MedPartnersを立ち上げました。Patientricity MedPartnersでは、欧米ですでに販売されているものの、日本ではまだ販売されていない未承認薬の早期開発・販売を目的とした戦略的コンサルティングサービスを提供しています。まだ始まったばかりですが、一人でも多くの患者さんを救うために日々精進しております。
このセミナーを通じて、患者さんの生の声を聴くことの重要性、そして患者さんや医師の立場から製薬会社に期待されていることが製薬会社で働く皆様に伝われば、と願うばかりです。
患者さんはつらい闘病生活においても、「治したい」という一心で毎日頑張ってくださっています。医師はそれに応えるために、日々の診療をしています。
製薬会社は製薬会社の立場から、もっと出来ることがあります。製薬会社の方々がもっと患者さんとの接点を取ること、それはこれからのより明るい医療社会へと繋がります。患者さんやそのご家族に、夢や希望を与えてくれます。
このオンラインセミナー、また本開催報告書を通じて、患者さんと製薬会社がパートナーとして協働関係を築くことの大切さが一人でも多くの方に伝われば幸いです。
Patientricity MedPartners
代表 朝枝 由紀子