【TECTURE】とは？

2020年6月末に、プロダクト検索サービス【TECTURE】をWeb上に公開し、運営しているスタートアップ企業です。2019年2月に起業して、代表を務めている山根です。

僕たちが今、展開している事業の主たるものは、設計者の検索にかかる業務フローをサポートするサービスです。何千冊のカタログから商品を選ぶ・膨大なバックナンバーから気になるデザインを探す。そんな紙で管理されているアナログな情報をデータベース化し、検索にかかる時間を圧倒的に短縮します。

登録されている建築やインテリアなどの事例写真から、その空間でどんなプロダクトが使われているかが一眼でわかります。例えば、飲食店の事例写真であれば、カウンターの椅子や、天井の照明器具、トイレの手洗い水栓といったプロダクトに黄色いピンをうってあり、タップすれば、メーカー名、品番、価格などが画面上に表示されます。

プロダクト検索サービス【TECTURE】

https://www.tecture.jp/

このようなデータは、【TECTURE】がローンチするまでは、事例が掲載された雑誌でみて、グーグルで検索して、メーカーに問い合わせるまでわかりませんでした。それがデザインの事例写真からワンストップでメーカーへの問い合わを可能にしました。

なぜ今「検索サービス」なのか？

ユーザーとして想定しているのは、空間デザインに携わる建築家やインテリアデザイナーです。

彼らの業務は多岐に渡ります。その中で、「こういう空間にしたい」というイメージに合いそうな家具や建材のリサーチも行います。実は、この作業にかなりの時間を取られています。建築雑誌を山と積んでひたすらページをめくり、インターネットで商品を検索。そうして日が暮れてしまう。

かなり前から建築業界もDX化と言われ、BIMなどの最新技術も導入されているのに、仕事の大半はアナログという、全くの旧態依然です。

この検索に関わる作業を一気に「省略」したのが、プロダクト検索サービス【TECTURE】です。リリース直後から大変好評で、「こういうのを待っていた！」という声を多数いただいています。

建築業界からITの世界への転進

僕は大学で建築を学んで、いわゆるアトリエ系と呼ばれる、隈研吾さんの設計事務所に入社しました。9年ほど建築家として活動し、歌舞伎座の建て替えや、海外の現場も担当し、大変でしたが、仕事はすごく楽しかった。

IT業界に興味をもったきっかけとなったのは、業界特有の時間軸でした。「世の中を変えることをしたい」という気持ちで建築設計を行ってきましたが、建築、特に大型建築は完成まで5年ほどかかります。そんな中、スタートアップ企業が世の中にインパクトを残すサービスを5年以内で立ち上げていくスピード感に魅力を感じました。

転機となったのは、のちに僕が転職することになる、LINEの前身の会社が湯布院に建てた美術館の設計を担当したこと。そこで、IT業界の人たちと話す機会ができて、彼らの考え方や、ITビジネスの成り立ちといったものに触れたのです。建築しか知らなかった僕にはものすごく新鮮で、俄然興味が湧いた。

そんなわけで、事業主側を経験すること、ITの文化を経験することは自分の未来になにか新しいものを見つけれるかもしらないと思い、LINEに転職しました。そこで、LINEのHQ拠点（本社オフィス）の設計にも関わるのですが、その新オフィスの設計をお願いしたのが、tectureという会社をのちに一緒に立ち上げることになる、SUPPOSE DESIGN OFFICE（サポーズデザインオフィス）を率いる建築家の谷尻誠さんでした。

「なければ、つくればいい」

建築業界の旧態依然な仕事の進め方について、事務所の経営者でもある谷尻さんは僕と同じ不満を抱いていて、すぐ意気投合しました。ああしたい、こんなこともできたらいいねという、思い描く未来像で共感する部分が多かった。「なければつくっちゃうか！」

LINEでの組織立上げが一段楽したこともあり、建築業界をITの力で変えることへの解像度が高まっていたこともあり、サービスをつくることにしました。

建築×ITの大きな可能性

何をやりたいのかというと、例えば、建築業界では、クライアントの発注に対して「1対1」のものになりますが、ITの場合は「1対n」で新しいものが生まれていく。文化の違いも大きく、新しいソースコードが生まれると、独占せずにオープンソースとなって公開されることが多い。すると、瞬く間に世界中でシェアされて、世の中が便利に、効率的になっていく。この「1対n」という関係性やオープンソースの考え方は、少なくとも今のクローズドな建築業界にはほとんどない、とても大きな可能性です。

空間デザインに携わるすべての人が、本来もっているクリエイティブを最大限に発揮できる社会を実現する。そうすることで、都市、街、住空間が美しくなり、ひとびとの生活が豊かになっていく。そのために業界構造の常識を変える新たな仕組みをつくることは、空間デザインの未来全体がもっと明るくなり、都市や街ももっと魅力的になっていく信じています。

最初から完成形を求めすぎて

6月末にローンチするまでの間に実は一度、大きな挫折がありました。あれもこれもと欲張りすぎて、システムが膨れ上がってしまい、工程がストップしてしまったのです。最初から完成形を求めすぎてしまったんですね。ローンチの時期を遅らせざるを得なかった。

でも、おかげで、原点に立ち返ることができました。「空間デザインの未来をつくる」ために、僕たちが最初にやりたいことは何かを突き詰めて、絞り込み、優先順位も付け直しました。データーベースはシンプルになり、ミニマムな機能だけが残りました。

情報発信の必要性

リセットを契機に、プロモーションも見直しました。ただつくって、世の中に出すだけではダメだと。どういうふうに受け入れられてほしいかを改めて考えて、自分たちで正確に情報を発信できる、建築業界の人たちに読んでもらえる媒体をつくって、ローンチに先駆けて出すことにしました。それが、2020年4月7日に創刊した【TECTURE MAG】です。

空間デザインメディア【TECTURE MAG】

https://mag.tecture.jp/

理想は自己増殖するプラットフォーム

「TECTURE」は今、「検索サービス」と「メディア」の両輪で回っています。相互で行き来もできるようにして、検索して気に入ったプロダクト写真の事例（建築やインテリアなど）のうちいくつかは、設計コンセプトなどがメディアで読めるようになっています。

設計者のポートフォリオ（デザインした作品）を投稿できる仕組みを提供しているので、僕たちの手を経由せずに直接、事例写真やプロダクトのデータ登録ができるようになります。みんなで【TECTURE】のシステムを活用して、情報をシェアして、進化していく、そして検索にかかる時間を圧倒的に短縮していく。そんなプラットフォームが理想です。

働き方のパラダイムシフト

メディアと検索サービスのローンチは、コロナ禍の時期と重なりました。多くの建材・家具メーカーが自社の公式インスタグラムをはじめたり、バーチャルショールームをオープンし始めるなど、アナログな業界が一気にデジタルシフトしました。

いままでの建材・家具メーカーは、事例写真を買い取って『メーカー商品の納品事例集』をつくって、営業ツールとして配布している。でもこれからは、端末の画面上で【TECTURE】の掲載事例を見せればいい。【TECTURE】の商品ページのリンクを送るだけで、そこにデザイナーや設計士が見たい情報が網羅されているため、メーカーの営業が重たいカタログを持ち歩く必要もなくなり、オンラインでのやりとりもスムーズになります。

日々進化を遂げる【TECTURE】

2023年7月にはTECTURE１サイトで建材サンプルをメーカー横断で請求し、1箱で届く仕組みをリリースしました。このアップデートによって、設計業務の「探す」「選ぶ」「決める」をワンストップで提供することが可能になりました。他にもやりたいことはたくさんあって、まだ全体の2割程度しか実現できていません。これからも設計者・建材メーカーの課題解決をアップデートしていくので期待していください。（tectue株式会社　代表取締役社長 / 山根脩平談）

【山根脩平プロフィール】

1984年生まれ。近畿大学理工学部建築学科卒業後、隈研吾建築都市設計事務所入社。同事務所では、事務所では住宅からホテル、歌舞伎座などの物件を担当し、海外の大型物件も多数マネジメント。その後、LINE株式会社に移り、空間ブランディングの組織を立上げる。2019年2月tecture株式会社を設立し、8月より現職。2020年4月に建築・デザイン業界の情報に特化したメディア【TECTURE MAG】をローンチ、同年6月に建築・設計者向けのプロダクト検索サービス【TECTURE】をリリース。