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都心の無医村

30代も後半に差し掛かった頃、ビジネスマンになった同級生に会う機会がありました。ほぼ病院で生活してきた私には、異業種の方の話は、いつも新鮮です。彼は誰でも知っているような都心のタワーオフィスでバリバリ働いていました。会ったのは春先で、彼は花粉症で困っていました。ついでに頭痛もある、夜も寝つきが悪いと、随分色々でしたが、聞けば病院に行く時間が取れない。市販薬で凌いでいるが、大病が隠れていないか不安で仕方ない。休んで病院に行けばいい、と言うのは簡単ですが、私自身、患者として外来を受診することなど想像もできないスケジュールで働いていましたので、彼の気持ちはよく分かります。何故そうなるか。受診のハードルが高すぎるのです。それは時間的な意味で、です。病院は待つもの。だから仕事を休まないと受診できない。それって、いいのでしょうか。当たり前でしょうか。


患者さんの多い病院で働いていた頃、私自身が、患者さんを随分お待たせしていました。電子カルテでは、誰が何分待っている、と分かりますので、こちらの気持ちは秒刻みになり、焦ります。しかし、いざ診察を始めると雑にはできませんし、全員「お変わりなし」ではありません。予約枠を厳守すれば、そもそもそも、患者さんを診きれません。そして急に具合が悪くなった方の飛び入りは後回しにはできません。それを積み重ね、40人目、50人目になった頃には、大変なご迷惑をおかけしている、という次第です。


具体的に病院名を出して批判することはできませんが、システムの問題であったり、スタッフのスキルの問題であったり、原因は色々です。しかし、多くの医療機関では、私でも分かるような非効率な業務で多忙を極めています。病院のバックヤードでは「しょーもないことで受診する人がいるし、医者が少ないんだから待つのは仕方ないでしょ」という声が聞こえます。人気の医師は、3分どころか30秒診察で、仕事が早いと評価されます。何か違いますよね。システムの効率化にきちんとコストをかけている病院は、極めて稀です。スタッフを精神論でコントロールしようと「しない」病院も、極めて稀です。病院の意識の問題に思えてなりません。「情報化が最も遅れているのは医療である」という他業界からのご批判は、非効率な業務で忙しすぎる病院職員の耳には、届いてすらいないようです。


その結果、都心にいながら受診もできない、ハードワーカー達が出現します。クリニックの待合は溢れかえり、家に帰る頃には閉まっている。大病院はそもそも受診に適しませんし、紹介状という「ビザ」が必要です。都心は、相対的無医村なのです。私は、ハードな働き方について、否定も肯定もしませんが、不健康であることは間違いありません。生活習慣病は、その通り、習慣による病です。健康診断は大きな意義がありますが、原理的にも限界があります。しかし、医療サイドの意識次第で、状況は大きく変わります。間違いなく変わります。


医療へのアクセスは、未来の健康に直結します。冒頭の彼を始め、「ちょっとしたこと」を相談できることが、彼らのパフォーマンスにも影響するはずです。アクセスの工夫は、現に多くのサービス業で様々な解決策が実行されています。医療は別、ではなく、医療こそ取り組むべき課題です。

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