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ほんまやろか? 疑問を‟好奇心”にして突き進んだ「編集」と「デザイン」のキャリア

インフォバーンで働く社員へのインタビュー企画。今回は、イノベーションデザイン事業部に所属し、京都オフィスで働かれている山下佳澄(やました・かすみ)さんです。

「デザイン思考」「デザイン経営」といった言葉が浸透しているように、昨今のビジネスシーンで注目されている「デザイン」という発想・アプローチ。イノベーションデザイン事業部は、この「デザイン」の力を通じて、企業の事業開発や製品・サービスの開発を支援している部門です。

今では「デザインストラテジスト」としてご活躍されている山下さんですが、インフォバーンで「デザイン」の領域に踏み入れるまで、自身のキャリアの上で「デザイン」が関わってくることは、想像もしていなかったそうです。そもそも海洋生物を学び、デザインどころかマーケティングとも無縁だったという学生時代からさかのぼり、好奇心を原動力に歩まれた自身のキャリアを振り返っていただきました。

海洋研究の道をやめ、広告会社に就職した変わり種

――山下さんは京都オフィスで勤務されていますが、出身も京都ですか?

出身は兵庫県で、姫路市よりも北の岡山との県境のほうです。地図を見たらわかりますが、兵庫は北に日本海、南に瀬戸内海と接していて縦に長いんですよ。南側の神戸市や明石市の印象が強いので、あまり真ん中のイメージってなくないですか? 地元はその海に接していない中間地域で、めちゃくちゃ田舎です。ひまわり畑とか星空とか綺麗ですよ。

――大学ではどういう研究をされていたんでしょうか?

海洋生物にまつわる勉強がしたくて、生物生産学部に入りました。農学、水産、畜産学部が合わさったような学部で、私は海洋コースで水圏生物を中心に学んでいました。

子どものころから海が大好きで、よく海や水族館に連れて行ってもらっていたんです。海洋哺乳類や魚類の美しさに魅了されて、「海に関わりながら生きていけたら、むちゃくちゃ幸せだな」と中学生くらいのときから思っていました。

――海洋学というと、海に出て水質や水生生物を調査するイメージがあります。

海洋調査をする研究室もありました。私はラボでの実験が中心だったので、研究室に入ってからは海に出る機会は多くなかったんですが、広島県の呉港に実習船が置いてあって何度か乗ったことがあります。「大学時代は実習で船に乗っていました」って自己紹介すると面白がってもらえるので、今でもよく話のネタにしています(笑)。

――具体的にはどういった研究を?

地球上の生物や環境を資源としてとらえて研究する、生物資源科学というのを専攻していました。その中でも私は水族病理学の研究室にいて、魚に感染するウイルスを扱っていました。たとえば、養殖場で病気が発生すると、育てていた魚が一気に死んでしまって、産業的にも大きな損害が出ますよね。それを防ぐために、細菌病やウイルス病を調べて、病原体を突き止め、防除策などを講じることを目的とする学問です。ラボにこもりながら、細胞培養して実験することを繰り返していました。

私の研究対象は、仔魚のころから発生する致死率の高い病気でした。その対策としてワクチンや薬剤を与えるのではなく、ポリフェノールのような天然物質や自然環境由来のバクテリアを使うとか、他の防除方法で試行錯誤していました。

――そのまま大学で研究者の道に進むか、就職するにしても民間の食品メーカーなどで研究開発職に進む人が多そうですが、そちらの方向に行こうとは?

大学院に進学したころまでは考えていました。それをやめたのは、シンプルに自分が研究者に向いてないと感じてしまったからです。決めたテーマに沿って一人で実験を繰り返していく生活は、人と関わるのが好きな自分には合わないのかもしれないなと。

それで結局、広告業界をめざして就職活動することにしました。もともと屋外広告やキャッチコピーを見るのが好きだったのもありますが、「必要な人へ情報を届ける仕事」に興味が湧いたからです。研究成果が出てから実用化されるまでには、時間的にも金銭的にも気が遠くなるほどの距離があります。それなのに、すごい発見をして市販化にいたっても、困っている現場の方に存在や価値を届けられなければ、努力した甲斐がなくなってしまうじゃないですか。「必要とする人に知られないことは、存在しないも同じじゃないか?」と強く思った記憶がありますね。

私は、純粋に「サイエンスがしたい」というより、「誰かの役立っている実感を持ちたい」という気持ちのほうが強かったんだと思います。

――自然科学系の大学院生で広告業界に進む人は珍しいですね。

そうだと思います。就活のときもなかなか志望理由が伝わらずに、よく「もったいないからそのまま研究を続けたほうが良いんじゃない?」と言われてしまって、かなり落とされましたね。逆に採用された会社は、社長が理系出身なこともあってか、「広告戦略にもロジックがいる。大きな強みですよ」と言ってもらえました。

そこは広告制作会社で、当時はカタログやムック、ポスターやPOPなど、紙の販促ツールを中心につくっていました。広告代理店の場合は専門分業化されている会社が多いと思いますが、私が入った会社は最初から最後まですべて同じ人間が担当する方針で、かつ代理店を通さずに直接受注する案件が多かったんです。

だから、私もクライアントに企画提案するアカウントプランニング的な業務から、実制作におけるディレクションやコピーライティングまで、かなり幅広い業務を担当していました。

――制作における業務は、どのように進められていたのでしょうか?

たとえば、カタログ一つ取っても複数の要素で構成されていますよね。キャッチコピー、ボディコピー、説明書き、注意事項といったテキスト要素に加えて、ビジュアル面でもどう構成するかが重要です。私の場合は、そうした全体構造をつくったうえで、最後に伝えたいエッセンスを凝縮したキャッチコピーを考える順序で考えていました。そのキャッチコピーも1発では決まらないので、上司やクライアントからフィードバックをもらいながら、何パターンも案を出してブラッシュアップさせていました。

大変でしたけど、今振り返っても、最初に広い範囲を任せてもらえる会社に就職できたのはラッキーだったと思います。前職では、クライアントとの折衝だけでなく、デザイナーやカメラマン、イラストレーター、印刷会社などいろいろなパートナーと協業し、ディレクション側が決めるべき範囲、任せるべき範囲などを学べました。

「ユーザーの本当の声」に向き合った制作を求めて

――そこからインフォバーンに移ろうと思ったきっかけはなんですか?

仕事をしていくうちに、「ユーザーの生の声」を聞けないことにモヤモヤしてきたんです。今でこそユーザーの声を聞いて開発やマーケティングに活かすアプローチは増えていますけど、当時の私はクライアントの方から聞いた「こういう層を狙いたい」という情報をもとに、訴求点や響く表現を考えるしかなくて、「インタビュー」できる機会がなかったんですよ。

できるだけリアルなユーザー像をつかむために、雑誌やWebから情報を集めたり、自分の周囲にいるターゲットに近しい人に話を聞いたりはしていましたが、半分くらいは自分の想像力で補うしかない。それはそれでクリエイティビティが発揮できる、やりがいのある仕事なんですが、「本当にこれでいいんだろうか?」という思いが日に日に強くなってきたんです。

そんな時期に、友人から「知り合いにデジタル・マーケティング支援をしている会社の人がいるから、一緒に飲みに行こう」と誘われて、そこに現れたのが井登さん(インフォバーン副社長/京都支社長)でした。「実際のユーザーの想いや言葉というのがあるわけで、それを踏まえて伝える仕事をしてみたいんです」という話を井登さんにしたら、「うちなら実現できると思うので、受けてみませんか?」と声をかけていただきました。むちゃくちゃ運がいいですよね。

――入社当時はソリューション部門(現・コミュニケーションデザイン事業部/コンテンツを通じたマーケティング支援を行う部門)に所属されていたんですよね?

そうです。インフォバーンの社内では、「編集」という感覚が共有されていますよね。前職でも「コンテンツ制作」はしていましたが、「編集」という視点も技術も持っていなかったので、最初は「この素材を編集して1本の記事にして」と言われても、「『編集する』って何をすること?」というところからのスタートでした。

転職して3年くらいは、上司が担当するオウンドメディアの運用案件に一緒に入って、原稿に対する自分と上司の赤入れを見比べながら、「これは削りすぎだから残すべき」とか、「ここは入れ替えたほうが良い」とか、編集作業の基礎的なことから体得していきましたね。

――転職動機の一つでもあった「ユーザーの生の声」や「インタビュー」に関しては、どうでしたか?

入社直後からインタビューする機会はたくさんいただけて、「インタビューって超面白いやん!」と感動しました。私はいろいろなことに興味を持てるタイプで、知らない話を聞くと、「何それ!?」って好奇心がバーッと湧くんです。インフォバーンの業務はプロジェクトごとに扱う領域が変わるので、毎回すごく情報収集しないといけないんですが、さほど苦じゃない。準備でたいへんなことはありますが、日常では知り合えない方々から話を聞けるので、いつも「楽しい!」と感じながらインタビューしていました。

「デザイン」領域で奮闘するなかで気づいた視点

――京都オフィスにおける事業は、今はイノベーション・デザイン事業部として一元化され、山下さんの業務も「デザイン」のアプローチによる支援が中心になっていきますが、新たな仕事にはどう馴染まれていきましたか?

合流から1年半ほどは、それまでの記事制作中心の仕事も引き続きしていたので、新たな業務には少しずつ移行していった感じですね。最初のころは「デザイン」という新しいアプローチや考え方を覚えるのに必死でしたし、今名乗っている「デザインストラテジスト」という肩書にも違和感はありました。

「デザイナー」というと、学生時代からグラフィックデザインやプロダクトデザインを勉強している人がなる、自分のキャリアの延長線上にはない存在だと思っていましたから。特に、イノベーションデザイン事業部が扱う無形のデザインの領域は、PhotoshopやCanvaのような具体的なツールの使い方を覚えていくような話でもないじゃないですか。今度は「『デザインする』って何をすること?」というところからのスタートでしたね。いろんな人に「デザインって何?」って聞いていました(笑)。

――インタビューに関しても、記事制作のためのインタビューと、デザインにおけるインタビューでは、また別のものですよね?

そうですね。今やっているインタビューの多くは、記事のようなアウトプットを出すのではなく、調査や探索が目的です。デプスインタビューをして、ユーザーすら気づいていないインサイトを見つけ出したり、専門家インタビューをして、案件で関わる領域の情報をいただくことで課題の探索・整理をしたりします。

インタビュー方法も半構造化インタビューといって、事前に質問の骨子はつくりつつも、話をうかがうなかで柔軟に質問を変えていきます。記事化がゴールの場合は、ある程度記事にしたときの流れを思い描きながら尋ねていきますが、こちらはむしろ結論ありきで質問しては見逃してしまうことこそ重要だったりします。インタビュー自体には慣れていたとはいえ、そうした感覚の違いはやっているうちにつかめるようになってきました。

私が個人的に没頭できるのは、新規事業立ち上げやサービス開発の際に、未来における社会情勢や価値観の変化の観点を取り入れるための調査ですね。専門家インタビューやトライブリサーチで情報を集めたうえで、整理、構造化、統合して、未来に向けた事業を立ち上げるためのキーファクターを絞っていく。それをもとにコンセプト・メイキングしていくんですが、私はその最初のフェーズでの仕事が特に好きです。

――まさに転職前に求められていた仕事に近いですね。デザインに業務や案件が切り替わったことで、視点が変わってきたことはありますか?

最初は具体的なことにしか目が行かなくて、「専門家の話をどう整理すれば?」「ユーザーの心の声ってなんだろう?」と新たな手法やアプローチを勉強することに必死でしたけど、徐々に全体のプロセスを俯瞰できるようになると、それまでの「編集」との共通点も見えてくるようになりました。

先ほど前職での制作の話で、全体構造を組み立ててから一番大事なことを最後にキャッチコピーにしていた、と言いましたけど、今思えばその一連の作業も「編集」ですよね。デザインは「設計」とも訳されますけど、情報を集めて、構造化する「設計」という意味合いで、編集とデザインは似ていると思います。

企画に関しても、私は「面白い問いが見出せているかどうか」が重要だと思っています。雑多に情報を集めたうえで、全体の地図ができてから、やっとフォーカスすべき問いが見えてくる。もちろん具体的な手法や情報の取り扱い方は違いますけど、抽象度を上げて見たら、「やってることはまあまあ一緒やな」って、デザイン領域に関わるようになって4年経った今では感じられるようになりました。

好奇心のスイッチは疑いや義憤でもいい

――前職での仕事、ソリューション部門での仕事、今の仕事と、山下さんが手がける業務内容は変わっていってますよね。そこには偶発的なキャリアチェンジもあると思いますが、ご自身のキャリアを振り返ってみてどう感じますか?

以前はキャリアとしての一貫性のなさに、劣等感を持っていました。「編集者です」「デザイナーです」と肩書一つで自己紹介できる人もいるなかで、自分はオールラウンダーと言えば聞こえは良いけど、何のスペシャリストでもない中途半端なキャリアだな、と。もともと職人やライフワークがある方へのリスペクトの念が強いのもあって、京都でものづくりをしている友人と話すと、今でも強く憧れることはあります。

一方で、いろいろな経験ができたからこそ、自分自身の世界が広がった実感もあるんですよ。自分の意思だけでは出会わなかった領域に、どんどん目が開かれている感じでありがたいですね。冷静に自分のキャリアを客観視できるようになるにつれ、先ほどの話のように「俯瞰したら、こういう線でつながっているな」と感じることも増えてきて、劣等感も気づいたら薄れていましたね。

――もしかしたら研究者をやめたときから、「この道だ!」と一直線に進むタイプじゃなかったのかもしれませんね。

そうなんですよね。飽き性なので、それが良かったのかもしれません。私はそういう性分だからこそ、常に初心者として未知の領域にチャレンジできるし、素朴すぎる質問も恐れずに、「面白い!」と感じる気持ちに正直になってインタビューできるんだと思います。

――最後に、どんな方がインフォバーンに向いていると思うかを教えてください。

やっぱり好きなものが一つでもある方は、それを軸に興味や経験が広がっていきやすいので、強い気がします。一方で、私みたいに「これ」といった軸のない人間でも、なんでも好奇心を持てるタイプなら、インフォバーンの仕事は合うと思います。

この「好奇心」という言葉に対して、私は前々から、子どもが無邪気にワクワクして目を輝かせるようなイメージでとらえる人が多すぎるんじゃないかと思っていて。というのも、「どうしてそんな風に何でも興味が持てるの?」ってよく聞かれるんですよ。確かにワクワクドキドキだけだと、限界がありますよね。私の場合、好奇心の入り方が、疑いや義憤といったネガティブな角度からのことも多いんですよ。「それほんまに正しい?」とか、「立派な風に聞こえるけど欺瞞では?」とか、正体や原理を知りたいと思う原動力は子どもの無邪気さだけじゃないですよね。

重要なのは、そこで「理解できない」「共感できない」とそのまま放棄せずに、「本当かどうか調べたろ!」と行動に移すかどうかだと思います。動機は何であれ、実際に調べてその構造や背景への理解が進むうちに、少しずつ見えてくるものがあるし、楽しくなってハマっていく。

そもそも好奇心というのは、持とうとして持てるものではないし、自然と湧いてくるものじゃないですか。「斜めから見ているな」と思われるような視点でも良いから、いろいろな角度から好奇心のスイッチを押せる方は、インフォバーンに向いていると思います。

――ありがとうございました。


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