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「サービスデザイン」ってどう学んだの? イノベーションデザイン事業部の若手社員に聞いてみた。

インフォバーンには、企業の事業・製品開発や組織づくりをデザインの力で支援する「イノベーションデザイン事業部」があります。同事業部が基盤にしているのは、「サービスデザイン」というアプローチ。製品・サービスの顧客体験とともに、その提供を継続する仕組みや体制までも設計していくデザイン手法です。

近年、注目度が高まっているとはいえ、まだまだ「サービスデザイン」自体が世間で浸透しているとは言えない言葉。ましてや専門的に学んでいる学生は少ない領域です。ところが、インフォバーンの社員には、まさに学生時代にこの分野を学んできた者がいます。

2023年度新入社員として入社し、「イノベーションデザイン事業部」で働く伊原萌櫻さんと林佑樹さんの二人です。二人はなぜサービスデザインに興味を持ったのか。どんな勉強や研究をしていたのか。それはインフォバーンでの今の業務にどうつながっているのか。お話をうかがいました。

学生時代に「サービスデザイン」を学んだ二人

▲イノベーションデザイン事業部の林佑樹さん(左)と伊原萌櫻さん(右)


――昨年からお二人はインフォバーンの京都支社で働かれていますが、まずは新卒入社されるまでのことをうかがいたいです。

林佑樹(以下、林):出身は徳島県で、大学から京都に来ました。理系の大学なんですけど、そのなかにデザイン科があって、僕はそこに進みました。進路を決めるときに、デザインに興味を持ちまして、その大学を美術の先生に紹介されたんです。大学では院まで進みました。

伊原萌櫻(以下、伊原):私は出身が兵庫県で、大学から京都にいます。普通の文系の経済学部でした。高校のときから公務員になるつもりで経済学部か法学部かで考えて、お金が好きだったので経済学部を選びました(笑)。

――伊原さんは大学生時代に、インフォバーンの京都オフィスでアルバイトをしていたんですよね?

伊原:同じ部署にいる川原光生さん(※川原さんの内定者時代の記事はこちら)は、大学のゼミの先輩でもあって、もともと学生時代に川原さんはアルバイトされていたんです。私はその後継として、2年ぐらいアルバイトしていました。

――「サービスデザイン」というと、グラフィックデザインやプロダクトデザインのようなオーソドックスなデザインのようには、なかなか内容がイメージしづらいものじゃないですか。お二人が学生時代から無形のデザインに興味を持たれたのは、何がきっかけだったのでしょうか?

林:僕のいた大学には、「KYOTO Design Lab」という独立した機関があって、国内外で活動している人を呼んでセミナーを開いたり、学生が有志で参加できる研究プロジェクトが立ち上ったりと、自律的な仕組みができていたんです。

そこでのイベントなどに参加すると、まだビジネスでは表に出てきていないようなデザインの考え方に触れる機会が多くて、それから興味を持ちました。学部時代には、「KYOTO Design Lab」のラボラトリー長である岡田栄造先生のゼミにも所属していました。

――お二人はゼミや研究室で、どんなことを研究テーマにされていたんですか?

伊原:「サービスデザイン」という言い方はそんなにしていませんでしたが、山内裕先生というサービスに関する研究をされている先生のゼミにいました。山内先生の研究テーマの一つが鮨屋で、「回らない鮨屋はメニュー表も大将の愛想もないのに、お客さんが満足する体験を提供できているのはなぜか」といった内容なのですが、そこでサービスに対する既存のイメージを覆されたことで興味を持ちました。

ゼミでしていたのは、先生が「イデオロギーの星座」と名付けている、流行事象を並べてみて、そこに通底する人々の自己表現やイデオロギーを分析するような研究です。「星座」というのは、流行しているものを並べるなかで、その点と点をつなげることで、星座が浮かび上がるという意味ですね。

友達に説明するときは、「サービスデザインを勉強している」だと伝わらないので、「流行っているものを集めてきて、分析している」と言っていました。

――経済学というよりは、社会学やマーケティングのような雰囲気ですね。

伊原:学部の中では経済学も経営学も学べて、私は経営学寄りだったというのはあります。ただ、それでも異色のゼミだった気がします。たしかに、ちょっとマーケティングっぽいかもしれないですね。

林:僕は学生のときに、障害学や当事者研究、当事者運動に興味があったんです。たとえば、「発達障害」という診断がありますが、そこにはスペクトラムがあるし、精神疾患の多くは定性的なものだから。自分がどう困ってるのか、回りの人がどれくらい困っているのかを聞き出して、病気かどうかを精神科医が判断するしかないものですよね。

当事者研究という考え方は、そこに対して批評的な視座があって。受けた診断や社会から貼られたラベルから少し距離を置いて、当事者が自分自身でどう困っているのかを観察して、導き出すものです。

――当事者研究というと、精神医療やケアのイメージが強いですが、それがデザインとどうつながるのでしょうか。

林:当事者研究という言葉は使わなくても、自己言及的な作品は、アートやアカデミックの世界にもたくさんありますよね。僕は、そうしたスタイルをデザイン制作でやりたいと思って、デザイン研究の問いを、「自分自身の問題を、自分自身でつくって解決する」ということにしたんです。

ただ、僕自身の生活的な問題を研究しても、極私的すぎて制作の公共性を伝えきることが難しいじゃないですか。だから、観察手法をテーマにすることにしました。自宅を3Dスキャンして、VR空間上に生活空間として置いてみて、それを新たな生活史の記録媒体として提示してみたんです。

民族史の研究やエスノグラフィーでも、フィールドノートを書いて書籍にしたり、映像として収めたり、写真に脚注をつけていったり、いろいろな手法があります。デザイン科の卒業制作として、そういうものを発表してもいいだろうと思って出しました。

――なるほど。必ずしも「デザイン作品」的なプロダクトじゃなくてもよいんですね。エスノグラフィーという言葉が出ましたけど、文化人類学にも近そうですね。

林:そうですね。人類学とデザインはすごく相性が良いです。サービスデザインでも、部分的に援用されている手法や概念はたくさんありますし、ユーザー調査なんかはまさに、人類学から来ているものです。サービスデザインの領域はかなり学際的なんです。

専門分化しないデザイナーの仕事とは?

――お二人は、就職活動はどうしていましたか?

伊原:私は公務員を目指していたので、秋に国家公務員試験を受けたんですけど、落ちてしまいまして。そこから何社か受けるなかで、インフォバーンに入社しました。

林:僕はインフォバーンしか受けなかったです。というのも、僕の場合は、学部生のときも院生のときも、周りが全然就活をしていない環境にいたんですよ。大学院からは、水野大二郎先生の研究室に入ったんですけど、水野先生は守備範囲がすごく広い。

もともとはファッションデザイナーだったんですが、障害者を包摂するインクルーシブデザインとか、デジタルファブリケーション(デジタルデータを基にした物づくりの技術)とか、実務家、研究者として、デザインの潮流にあるものを次々に手がけてきた方なんですね。今もサステナビリティの文脈で、サーキュラーデザインやサステナブルデザインに取り組んでいます。

それもあってか、「仕事は自分でつくるもの」という指導方針があって、実際に研究室の同期は3人で会社をつくっていますし、海外に行って活動している人も多くいました。

――その環境だと、就職が当たり前ではなくなりそうですね。それでも、卒業が迫るなかで、未来のキャリア・プランを考える必要は出てくるじゃないですか。

林:そうした危機感は薄かったのかもしれません。それに、学んできたことが仕事に結びつくイメージが持てなかったのもあります。

僕の大学でも、研究室以外のデザイン科の人の多くは、インハウスデザイナーになろうとしていました。工業デザイン系だったら、家電メーカーに行きたがるし、グラフィックデザイン系だったら、広告業界に行きたがる。そこに僕は、まったく共感できなかったというか。

大学に入ったときは僕も、グラフィックデザインとか、プロダクトデザインとか、映像系とか、そんな選択肢しか見えていなかったんですけど、自分はどれも違うなという感覚を持つようになって、それでゼミや研究室も選択していったんですよ。

――その感覚というのは、どうして持ったんでしょうか?

林:学び方も、職業のあり方も、デザインが何か特定のものをつくることに特化するように定まっている感じが、自分には理解できなかったんですよね。細分化された領域での専門家になっていくことが、よくわからないなと。それぞれを理解してるし、どれもやりたくはあったんですけど、一個に絞られてしまうのが嫌で。

――なるほど。たしかに職業的に考えると、もちろん有名なデザイナーさんでいろいろなことを手がけている方もいますけど、基本的に分化していくところはありますね。

林:たとえば、大昔の建築家なら、レオナルド・ダ・ヴィンチばりにあらゆることに手を出すこともあったと思いますけど、今の時代に普通に社会に出て働くとなったら、そうなりますよね。でも、もっと違う働き方があるんじゃないかなと。ある意味で、僕は先延ばしにしていたんだと思います。

――そんななかで、インフォバーンを知ったのはどこで?

林:研究室の博士課程にいた先輩が、辻村和正さん(※イノベーションデザイン部 ゼネラルマネージャー/記事はこちら)と知り合いだったんです。その縁で研究室にお話しされに来られる機会があって、そこで。いわゆるデザインエージェンシーやデザインファームと称される会社の存在は知りつつも、自分が働くイメージはつかなかったんですけど、インフォバーンなら自分も楽しく働けるんじゃないかと興味を持ちました。

――学生時代に学んだことと仕事が直結するのは、むしろ珍しい気もしますが、伊原さんはそのあたりはどうだったんでしょう?

伊原:結果的にインフォバーンに入ったのでつながりましたけど、つなげようという意識はそんなになくて、他の企業は純粋に私が興味のある業界を受けていました。ただ、「イデオロギーの星座」は、どんな分野でも使える考えだと思ってはいましたね。

―—たしかに応用範囲が広そうですよね。インフォバーンについては、どう感じられていましたか?

伊原:アルバイトでは、本当に事務作業的なことしかしていませんでしたけど、横目で社員の方がプロジェクトを進められているのを見て、面白そうだなと思っていました。

それと社員同士の仲が良くて、互いの距離感が良い会社だなと思っていました。それは入社してからも印象は変わらずで、振り返っても入社できて良かったなと感じます。

新卒1年目を振り返って

――この1年ほど働いてみて、どうでしたか? お二人はインフォバーンの業務と学問的に近いことを学ばれてきたわけですが、実務をするうえでギャップはなかったでしょうか?

林:僕はそこまで違和感はなかった気がします。ただ、実作業として、やっぱり会社に入らないとわからなかったことは多いですね。それこそメールの文面とか、コミュニケーションの取り方とか、そうした学びが多かった気がします。

伊原:私は少しギャップがありました。最初に研修を受けていたときも、林くんより私のほうがキャッチアップが大変だったかもしれません。特に、私はビジュアル的なデザインは勉強していなかったし、画も描けないので。

――いわゆるデザインを学んできたかどうかによって、インフォバーンでの仕事も変わってきますか?

林:僕はそちらも学んでいたので、ビジュアル要素が必要なときに何かちょっとしたものをつくることもあります。ただ、クライアントワークとしてメインで動いている案件では、ビジュアルのデザインを学んできたかどうかは、それほど関係ないような気がします。実際に、イノベーションデザイン部には、いろいろなバックグラウンドの方がいますし。

――業務としては、それぞれどんなことを?

伊原:私は自分で「やりたいです」と言ったこともあって、編集的な業務をさせてもらうことが多いですね。他にも、リサーチをしたり、デプスインタビューをしたり、いろいろと手広くやらせてもらっています。そうした業務は、人を見て分析するのが好きなので、わりと自分に合っているのかなと思っています。

林:僕もリサーチの仕事が多いですね。たとえば、新規事業開発の案件では、インタビューもしながらベースとなるリサーチをしていって、コンセプトを考えています。そこでは、モックアップ(試作段階の模型)として、サイト画面をつくって検証して、その結果を納品したりもしています。

――働くなかで、何か悩みは出てきましたか?

林:悩み……どうでしょう。今はなんとかなっている気はしますが、これからのことを考えると、もっと成長しないといけないとは思います。今は育ててもらえる立場で、ただ学んでいくだけだと思って働いていますけど、今後は考えないといけないことが増えていきそうです。

伊原:私も同じように、「確認をお願いします」と先輩に言っているところから、ゆくゆく案件をリードする立場として逆に言われる側になったときに、私にできるのかなと。一方で、今は自分がつくるもののクオリティを上げることに集中すべきかな、とも思いますけど。

――アルバイトのときと今では、やっぱり違いますか?

伊原:それはまったく違いますね。任される仕事のレイヤーが一個上に上がった気がしていて、今は私がアルバイトの方にお手伝いをお願いすることもあるんですけど、「私がアルバイトでしていた業務は、この部分の役割だったんだ!」と気づくこともありました。

でも、業務の全体像をつかむことは、今も課題だと思っています。チームの中での自分の担当業務ばかりに集中しちゃって、次にどうするか、そもそもどういう目的があるのか、俯瞰して考えられなかったのは、この1年の反省ですね。それこそ本当に最初のころは、ミーティングでも「何の話をしているんだろう?」と思っていたこともありました。

――言葉の面ではどうでしょう? 専門用語や概念的な言葉も多いと思いますが……。

伊原:私はけっこう本を読みましたね。最初はビジネス語彙が全然わからなくて。

林:インフォバーンは、出版・編集系の言葉も使えば、デザインの用語も使うし、ビジネス用語も使うしで、けっこうわからない言葉が出てくるんですよね。だから、伊原さんと僕で、「用語wikiをつくろう」と話し合って、リストにしていっています。それが、おいおい新入社員が見られるページになればいいなと。

――全社員にとって資産になるかもしれない取り組みですね。どんな言葉がリストに入っているんですか?

伊原:かなり初歩的なことから、独特な言い回しまで、とにかくミーティングなどで出てきて気になった言葉は調べてますね。

林:「三遊間」とか、「粘土層」とか、そういう言葉も入れています。

――「粘土層」は私も知らないです。

伊原:古い価値観に凝り固まった、頭の堅い管理職のことを言うらしいです。

「会社勤め」は悪くない!

――これから仕事でやりたいことはありますか?

伊原:私は物語をつくって活用するようなことをしたいですね。今は書いていないんですけど、自分で小説を書いていたことがあって。この前も、業務で少し書く機会がありました。

林:僕も何か物をつくって、それを活用するリサーチをやりたいですね。まさにデザインリサーチ、というような仕事です。プロジェクトを進めるプロセスのなかに、ものづくりとしてのデザインの力も、もっと活かせるんじゃないかと思っています。

――最後に学生の方に向けてメッセージをお願いしたいところですが、就活で悩んだ経験は、二人ともなさそうですよね……。

伊原:周りに比べたら、あんまりなかったかもしれないですね……。

林:なかったですね。「就活はこうしたほうが良い」といったアドバイスは、僕からはできない……。

――それでは逆に、もともとはあまり会社勤めするつもりがなかった二人が、インフォバーンで社会人になって、どういう感慨を持ったのか教えていただけますか?

林:ずっと企業で働くイメージがつかなかったんですよね。でも、いざ働いてみたら、ビジネスの世界で行なわれていることの意味が、いろいろとわかるようになりました。

伊原:私もバリバリ働きたいタイプではなくて、「ご飯を食べるために働かなければ」と考えるタイプだったんですけど。そんな私でも、インフォバーンに入ったことで楽しい、興味をそそられる仕事ができていると思えるので、満足しています。

林:僕はインフォバーンで働き始めたことが、「環境を選べば、自分も働けるんだ」という自信にもなりました。最近、進路に関して知り合いの大学生から相談を受けたんですけど、本当に大学の環境にいることに起因している悩みが多すぎるんですよ。自分もそうでした。大学の中にいるから、いろんなことに悩んでいるだけで、ただ「会社員になってお金を稼いでいる」というだけでも自信になるし、働いてみてからいろいろなことを考えても別にいいんですよね。それは、学生から社会人になったこの1年で実感したことの一つです。

――もし就活で悩んでいる学生の方がいたら、「悩みすぎなくて大丈夫」と伝えたいですね。ありがとうございました。

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