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研究者はマーケティングとの相性が良いことを実感した体験談

このnoteでは長年研究開発職に携わってきた筆者が、ある日突然スタートアップ企業のマーケティングを担当することになり、一からマーケティング活動を行っていく中で感じた「研究開発者はマーケティングに向いているんじゃないか」ということについて紹介させていただきます。

私は、大手部品メーカーの研究職として7年間ほど材料開発・生産技術開発を行ってきました。あるとき、大企業の人材育成プログラムとして期間限定でスタートアップ企業に移籍することになり、そこで新規事業の立ち上げとしてマーケティングを担当することとなりました。

大企業からスタートアップに移籍した件については、こちらのnoteで詳しく書いているので、ご参照ください。


当然マーケティングの経験などかけらも無い人間が、マーケティングの土壌もなく人材もいないスタートアップの環境で一からマーケティングを作っていくというかなり無謀な挑戦でした。しかし、やっていくなかで徐々に研究職で得た技術・知見などがマーケティングに活かされる場面に遭遇し、実はかなり関連性が近いのでは?と感じる経験が多くありました。

箇条書きにすると、以下の事項があげられます。

・現状分析の能力、PDCAの回し方はかなり近い。結果に対する論理的な考察や説明はマーケティングにおいても重要
・PDCAを回す上で最も大事なのは結果の分析
・(実験)計画立案時の目的と結果の紐付けの重要性。知見が得られるような計画の立て方の経験はそのまま活きる
・WEBマーケは数字が明確、定量的な比較検証が可能。数字が得意な人向き。
・簡単な設定は本やネットで簡単に勉強できる時代。代理店の必要性に疑問

現在、研究職に就いている方、マーケティングに興味がある方の参考になれば幸いです。

◆現状を分析する能力、PDCAの回し方はかなり近い。結果に対する論理的な考察・説明はマーケティングにおいても重要

研究開発職においては、新規開発にしろ既存製品の改良にしろ

現状分析 → 課題の明確化 → 改善策の立案 → 実行 → 評価 →

というPDCAによる改善が基本的な流れになります。この流れは実はマーケティングでもほとんど一緒で、得られた結果に対してできたorできなかったの評価で終わることなく、その結果になった論理的な考察や理由づけなどが必要になってくるという点はかなり似ています。

マーケティングはPDCAの繰り返しであり、立てた仮説に対して想定通りの結果が得られたのかそうではないのか、なぜそうなったのか、をしっかり考えられる人がPDCAを高速で回すことができ、より速く改善を進めていくことができます。

この高速でPDCAを回していくということに関して、研究開発職に携わっていると自然と身についていることが多い印象です。実験での検証も基本的にはPDCAの繰り返しであることが多いですから。

PDCAを回す上で最も大事なのは結果の分析

PDCAを回していくうえで最も大事な部分、それは検証(実験)によって得られた結果を正しく分析・評価することです。

これが不正確であれば、どんなに頑張ってもPDCAは機能しないでしょう。分析結果が間違っていれば、その後の判断を誤ることになるわけですから。

マーケティング活動を行う中で、例えば広告配信で商品の購入を促すことを検討している場合、広告経由でいつどのくらい商品が売れたのかをしっかりと把握することは重要です。しかし、この計測がうまくいっていないというケースもよくみられます。

分析が重要だとわかっている研究開発職の人間にとっては、この計測部分が重要だということもすんなり理解できるでしょう。そして、分析に最もリソースをかけるべきということも納得いただけるのではないでしょうか。

◆(実験)計画立案時の目的と結果の紐付けの重要性。知見が得られるような計画の立て方の経験はそのまま活きる

研究開発では「できた」or「できなかった」しか知見得られないような実験計画というのはご法度です。実験結果からどのような傾向が読み取れるのか、目的に対して知見が得られるような計画をしっかり立てる必要があります。

一方マーケティングでは、「できた」or「できなかった」の検証のやり方でもどうにかなってしまう部分も多く、たまたま数字が上がってしまったというケースも少なくありません。もちろん数字が出ることは良いことですが、知見が得られず更なる改善が見込めないという問題が残ります。

この部分に関してはマーケティングの方が考えは甘い気がします。逆に言えば、研究開発職でPDCAを高速で回し慣れている人ならば、知見が得られるようちゃんとしたマーケティング施策を立案することができ、この点でかなり有利に立てると思います。

◆WEBマーケは数字が明確、定量的な比較検証が可能。数字が得意な人向き。

WEBマーケティングの場合は、計測方法が間違っていなければ簡単に結果を数字として表すことができます。いくら売れた、何個売れた、獲得単価がいくら、などなど。

すべての結果が数字で表され、定量的な結果の比較が可能です。この点、数字に対するその人の感性・相性がかなり得意不得意に影響してくる部分かと思います。

数字に対する嫌悪感が強い人などは正直WEBマーケティングには向かないでしょう。逆に数字を見ただけで、その中身をすぐにとらえられる人はWEBマーケティングにかなり向いている人だと思います。

研究職の人は基本的に理系で数字が得意な人が多いこと、また実験結果なども数字で定量的に比較することを求められる環境にいることなどからWEBマーケティングに携わっても簡単に数字を取り扱える人が多いのではないでしょうか。

また、数字が絶対の世界でもありますので、結果の善し悪しが明確です。感覚ではなく数字で判断したい人にはWEBマーケティングがかなり相性が良いのではないかと思います。

◆簡単な設定は本やネットで簡単に勉強できる時代。代理店の必要性に疑問

WEBマーケティング関連で運用のための設定や計測関連は、やったことがない人からするとかなり複雑でかつ手が出しづらい印象を受けるものだと思いますが、実際にはかなり簡単になってきています。

例えば、メディアをつくったとしたら閲覧数やリンクのクリック数を確認するためにGoogleAnalyticsを利用したり、WEB広告であればGoogle広告のアカウントを開設して広告を入稿したりコンバージョンを設定したりする必要があります。

これらの作業、確かにわかりづらい部分もありますが、大体のことは本やWEBで調べれば簡単にわかる時代です。やりながらわからないことを調べるだけでも一通りの設定は可能です。

実際に私はなにも経験がない状態から上記の設定・運用がある程度のレベルでできるようになりました。そのくらい、今は使いやすいツールとなっています。

この作業を請け負ってくれる代理店なども存在しますが、正直作業内容と費用を比較すると割に合わないと個人的には思います。

また、マーケティング活動においては、自分たちのプロダクトのことをしっかりと理解しておくことが重要です。誰のどんなペインを解決するのか、どうやって解決するのか、購入or利用における障壁となっている部分は何か、プロダクトはどうアップデートされていく予定なのか、など。

これらを代理店の人がすべて的確に理解することは現実的にはかなり難しいと感じます。かなり内部に入り込まないとついていけないでしょう。それよりもプロダクトのことを一番理解しているチーム内部の人間がマーケティング活動を行うほうが良い成果につながる可能性が高いと思います。

要は、プロダクトをつくっている研究開発者自身がマーケティングも担当するべきということです。

◆研究開発者にはないマーケティングに必要な能力

一方で、研究開発者がマーケティング活動を行う際に注意しなければならないこともいくつかあります。

・マーケティングの対象となる顧客の理解
・顧客が望むニーズに合った価値提供の必要性
・顧客にとって技術は無価値という事実
・顧客ニーズの変化の速度と研究開発の速度の違い

特に、ユーザーの理解やニーズに合った価値提供の必要性に関しては研究開発では全く経験することがないため、このあたりの視点を養うことは必須になってくるでしょう。

◆マーケティングの対象となる顧客の理解

マーケティング活動において、最も重要なことは顧客の理解です。顧客が何を望んでいるのか、何に困っているのか。それに対して、こちらはどういった価値を提供できるのか、顧客をどういう状態にできるのかをマーケター自身がしっかりと把握していなければなりません。

研究開発者はこの視点をなかなか持てないケースが多いように思います。目の前の技術や製品を完成させることに集中しているからです。

私自身も顧客に対して目を向けるという活動の重要性をマーケティングを行うことになって初めて理解しました。その中で、顧客のことを考えずに自分勝手に良いと考える製品やサービスを提供しても全く顧客は反応してくれないという失敗も経験しています。

顧客の理解のための活動というものを実践する必要があるということをまず理解するべきでしょう。

顧客が望むニーズに合った価値提供の必要性

顧客の理解とは、顧客が望むニーズを把握し、それに合った価値を提供することです。よってマーケティング活動は基本的にニーズ発信でのアクションでなければなりません。

世の中では、事業を行っていくうえでニーズ発信とシーズ発信の両方のアプローチがあるといわれていますが、マーティング活動においては顧客の望むニーズに合わせて価値提供するという流れからほぼすべてがニーズ発信になるはずです。

このニーズ発信という点は研究開発者が最も苦手とする分野ではないかと個人的には考えています。研究者はどうしても自分の技術がどう使えるのかを考えがちで、シーズ発信の開発に寄ってしまう傾向にあります。そのほうが圧倒的に考えやすいからです。

しかし、マーケティングをシーズ発信で行うのは全く本質をとらえていない活動だと思います。顧客がそこに価値を感じてくれなければ、全くと言っていいほど顧客は集まりません。

私個人の失敗も、この顧客理解が甘かったが故に、顧客のニーズをしっかりとらえられていなかったためと反省しています。

シーズ発信のマーケティングにならないよう、常に注意を払うべきでしょう。

顧客にとって技術は無価値という事実

よく研究者は新しい、画期的な技術に価値があると考えがちですが、顧客から見れば技術自体には何の魅力もありません。同じく、素晴らしい高性能な製品ができたとしたら、その性能に顧客は価値を見出すと思いがちですが、本質的にはそれも違うと思います。

顧客が魅力に感じるのは、新しい技術や製品によって今まで抱えていた課題(=ペイン)を解決できるという事実そのものにあります。製品の性能ではなく、それによって問題解決に至ることに意味があります。

この理解が結構難しく、現実には良い製品ができるとそれに値がついて売れていくので、あたかも製品自体にその値だけの価値があるように勘違いしがちです。しかし、マーケティングにおいてはここの理解がまずできるかが重要になるでしょう。技術や製品それ自体には何も価値がないのです。

マーケティングの本質は「解決」と「創造」にあると思います。「解決」とは顕在化しているニーズを満たすこと。「創造」とは潜在的なニーズを満たすこと。これらを理解し、そのためのツールとして技術や製品があるという認識を持つべきでしょう。

顧客ニーズの変化の速度と研究開発の速度の違い

マーケティングにおいては顧客ニーズを捉えることが重要だと書きましたが、一方で最近は顧客ニーズの変化もだいぶ速くなっています。新しい技術やサービスがよりスピードを増して開発されていく中で、顧客のニーズも刻一刻と変化しています。

一方、研究開発は内容にもよりますが、数年~10年近くの長い時間をかけて行うものも多々あります。この期間に顧客のニーズが変化して、研究内容がニーズを満たさないものになってしまう可能性も昔と比べて大きくなっているのではないでしょうか。

研究開発者は自分がやっていることが、世の中のニーズに適合しているのか定期的に確認し、ニーズからずれているとわかった場合は研究方針の変更や場合によっては思い切った中断などの判断をより一層適宜行う必要があると理解しておくべきです。

◆まとめ

今回は、研究開発者がマーケティングに向いているという話をしてきました。
私自身は今回のマーケティング活動を通じて、マーケティングの面白さや顧客のニーズに直接働きかけられる楽しさなど研究開発職時代には感じられなかった様々な経験をすることができ、大変良い機会だったと思います。

研究者にとって注意しなければならないポイントというものもいくつか紹介しましたが、これらはすべて後から学んで身に着けることができるスキルや考え方だと思います。そのあたりをしっかり勉強して補えれば十分戦っていけるのではないでしょうか。

現在研究開発に携わっている人で、他の職種にもチャレンジしてみたいと考えている方はマーケティングをその一つの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。

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