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富裕層になったら、君はどうする?

Photo by Cara Thomson on Unsplash


本記事は、高岡壮一郎著「富裕層のNo.1投資戦略」(総合法令出版)のあとがきから抜粋しています。本書籍は全文、WEBで無料でご覧いただけます。https://hedgefund-direct.co.jp/book/


おわりに ~フィクションとしてのマネー~

本書の「はじめに」では、富裕層の好みをビッグデータで分析した結果、「東大・銀座・ヘッジファンド」が現代の富裕層の好物だという情報を開陳した。好物としてその次に並ぶのは「皇族」「慶応幼稚舎」である。ところが、これはワイドショーが好きな話題である。

富裕層に限らず、人は「No.1」が好きなのだ。

ところで、銀座と新橋は何が違うのだろうか?

2016年の路線価日本一は、銀座5丁目の文具店「鳩居堂」前である。人口減少社会となった日本の中で、前年より2割も値上がりしている。1平米3200万円で、はがき1枚の面積が47万円である。しかし、その一方で、隣の新橋の路線価は約半額である。では、銀座は新橋に比べて賃料を2倍リアルに取れるかというと、そうでもない。銀座で見上げる空と新橋で見上げる空はまったく同じである。共同幻想の1つとして、多くの人が銀座を一番だと思うからこそ、銀座が一番となっている。

ソフトバンクの孫正義氏はティファニー銀座ビルを300億円以上出して買った。住むわけではない。たまに立ち寄って見る分には、保有者が見ても、通行人が見ても、ビルの見た目は変わらない。ただ「これは俺が手に入れた銀座のNo.1ビルである」という心理的な満足度が高まるに過ぎない。

イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』によると、食物連鎖の真ん中に位置し、サバンナの負け組としてライオンに怯え、ハイエナの食べ残しである死肉の骨の中にある骨髄をすすりながら生きていた人類には様々な種がいて、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスという種族が残っていた。

ネアンデルタール人は、リンゴ等の眼に見えるものしか言葉で周りに伝えることができなかった。他方で遺伝子の突然変異が起こったホモ・サピエンスは、現実には存在していないものについて語ることができるようになった。そして、集団で1つの虚構(フィクション)を信じ込むことができ、大勢で柔軟に協力するという空前の能力を身に着けた結果、ネアンデルタール人を絶滅させ、人類種として唯一の生き残りとなった。これが7万年前の認知革命である。

その後、ホモ・サピエンスの末裔であるところの現在の人類は、宗教、通貨、近代国家、法律、会社、人権、自由、正義という想像の中にのみ存在するフィクションを生み出し、虚構を皆で信じることから協力や集団の維持が可能となり、結果として社会を発展させてきたとされる。

人類種の創った最強のフィクションは「マネー」である。ハラリによると、マネーの誕生は、物々交換経済の不便さを契機に、技術的な発展ではなく純粋に精神的な革命として起こった。マネーは、人々が共有する想像の中にだけ存在する新しい共同主観的な現実である。物質的現実ではなく、心理的概念である。

多くの他人が信じているものだからこそ、あなたはそれを信頼する。マネーは、人類の寛容性の極みである。言語や国家の法律、文化の基準、宗教的信仰、社会的習慣よりも心が広い。貨幣は差別をしない。宗教・性別・人種・年齢に基づいて差別することのない唯一の信頼制度である。マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』によると、金銭的成功、つまり蓄財とは神の祝福の徴しるしとされ、蓄財そのものが神の御心に沿った褒められるべき行動規範となったとされる。

マネーがマネーを生むとして、富裕層や機関投資家がこぞって信じる「ヘッジファンド」は、現代資本主義社会を象徴するアイコンであり物語だ。

あなたは、虚構であり心理的概念に過ぎないフィクションとしてのお金が、いくら欲しいだろうか? もし世界の富をあなたが1人で独占できるとしたら?

大変残念なことに、あなたが世界の富を独占しても、自分の通帳に見えているマネーの最大25%しか、実際には使い道がない。世界のGDP合計額は7359兆円(2015年IMF)、世界株式時価総額もこれとほぼ同額である。

債券市場は株式市場の約3倍であるから、株と債券だけ見ても、少なくともGDPの4倍のマネーがうごめいていることになる。GDPとは簡単に言えば、誰かが実際にサービスやモノを作ってくれたものの合計である。その実体経済の4倍以上が投資マネーとして存在していて、どこかの誰かがそのマネーの所有者であるということだが、そのマネーは実際には使えない。

つまり、世の中のお金の少なくとも4分の3は、単なる記録に過ぎず、その多寡や変動によって、持ち主の想像上の満足度が変化しているだけに過ぎないのである。

孫正義氏は、マネーと銀座を交換したが、それは自分の通帳の数字と、資産台帳の文字を書き換えただけに等しい。銀座ティファニービルに使った320億円も、総資産1兆6900億円の孫正義氏から見れば、誤差であろう。

あなたが今日、私から10億円を貰って、そして明日死ぬとする。あなたは本日中にリアルに使ったマネーの分しか、現実のお金持ちではない。今日、なんとか豪遊して1000万円を使い切ったならば、それが1000万円を使ってあなたが実際に味わうことのできた輝かしい人生の1日である。通帳に残り9.9億円があろうとも、それは想像上のお金持ちとなんら変わらず、結局は実際に使った1000万円分が現実である。

他国の人が現金を使い切って人生を全うするのに対して、老後が不安な日本人は平均3500万円の貯金を残したまま死んでいく。3500万円を現実に使い切る人生と、通帳に3500万円を残す人生と、どちらが本当に幸せだろうか。不安のために貯金は使えないと高齢者は言うが、計画さえ持てば不安も減るかもしれない。

フィクションとしてのお金で構築されている現代の資本主義社会が続く限り、最もリスク・リターンが良いヘッジファンドにマネーが集まる構造は不変である。ドル紙幣には「我々は神を信じる」という言葉が印刷されている。お金でお金を生み出す「ヘッジファンド」を人々が神のように崇め、求め、そして恐れるのは自明である。

共同主観的な現実の中では、お金が一番集まるところこそが、一番信頼できるところであると認識される。だからこそ、またそこにお金が一番集まるのである。それだけの話である。このシンプルな原理・原則を理解しているあなたのマネーがこれからも増え続けていくのは自明のことであろう。実はこれが「富裕層のNo.1投資戦略」の本質である。

そこであなたに伺いたい。この戦略で年率10%以上、10年間の実績があるヘッジファンドに投資して資産を倍増させ、投資の勝者となり何億円もの利益を手に入れたその先で、あなたは本当に何がしたいのだろうか? あなたが心から信じられるフィクションはすでに見つかっているだろうか?

世界1位2位を争うお金持ちであるウォーレン・バフェットとビル・ゲイツ。彼らは自分が死亡した暁には、自身の総資産の半分以上を慈善事業に寄付することを約束し公表した。これを単なる節税対策と揶揄する向きもあるが、筆者は、大富豪たちが「人生とお金の本質」を熟考した上でこの英断を下したと受け止めている。フィクションであるお金を、彼らが望む現実に変えようとしており、それは社会を良くする方向に大きなインパクトを与えうる。

お金が増え蓄積されること自体に喜びを見出す人もいる。誰かを喜ばせたい。その手段としてのお金が必要な人もいる。どちらも素敵な考え方だ。所詮は一回限りの人生だ。やりたいようにやるしかない。

人々が求めてやまない「ヘッジファンド」。

これは皆が信じる虚構、フィクションの中にある。

人生で味わうべき「時間」や「愛」に保存は利かない。

それもフィクションではある。ただしマネーの外にある。

本書は日本の個人投資家の利益を第一に考えて執筆した。読者である皆様の自己実現と健康を願って、筆を置きたい。

願わくば、あなたが手に入れたお金が、他の人の喜びにつながりますように。

2017年3月
髙岡壮一郎

〈参考文献〉

『現代ファイナンス論』ロバート・マートン、ツヴィ・ボディ著
ピアソン・エデュケーション刊
『ウォール街のランダム・ウォーカー』バートン・マルキール著
日本経済新聞出版社刊
『敗者のゲーム』チャールズ・エリス著
日本経済新聞出版社刊
『行動ファイナンス』ヨアヒム・ゴールドベルグ著
ダイヤモンド社刊
『ファスト&スロー』ダニエル・カーネマン著
早川書房刊
『現代ファイナンス分析 資産価格理論』Jean-Pierre Danthine著
ときわ総合サービス刊
『最新金融工学に学ぶ資産運用戦略』大庭昭彦著
東洋経済新報社刊
『クルーグマン国際経済学 理論と政策〔原書第10版〕』(上
貿易編)(下
金融編)ポール・R・クルーグマン、モーリス・オブストフェルド、マーク・J・メリッツ著
丸善出版刊
『進化する年金運用』三菱UFJ信託銀行著
日本経済新聞出版社刊
『ファンダメンタル・インデックス』ロバート・D・アーノット、ジェイソン・C・スー、ジョン・M・ウェスト著
東洋経済新報社刊
『アクティブ運用の復権』角田康夫著
金融財政事情研究会刊
『オルタナティブ投資戦略』可児滋著
日本評論社刊
『リスクアプローチによるファンド鑑定』山本明著
金融財政事情研究会刊
『投資の科学』マイケル・J・モーブッシン著
日経BP社刊
『ヘッジファンドの魔術師』ルイ・ペルス著
パンローリング刊
『40兆円の男たち』マニート・アフジャ著
パンローリング刊
『世界経済の三賢人』チャールズ・モリス著
日本経済新聞出版社刊
『ヘッジファンドI』『ヘッジファンドⅡ』セバスチャン・マラビー著
楽工社刊
『実践ヘッジファンド投資』バージニア・レイノルス・パーカー著
日本経済新聞出版社刊
『ヘッジファンド投資入門』ジェームズ・オーウェン著
ダイヤモンド社刊
『合理的市場という神話』ジャスティン・フォックス著
東洋経済新報社刊
『サピエンス全史』ユヴァル・ノア・ハラリ著
河出書房新社刊
『大前流心理経済学』大前研一著
講談社刊
『なぜ専門家の為替予想は外れるのか』富田公彦著
ぱる出版刊
『信じていいのか銀行員』山崎元著
講談社刊
『フィンテックの法律』森・濱田松本法律事務所著
日経BP社刊
『Fintechから見た金融サービスの最新動向』田中達雄著
株式会社野村総合研究所刊

【著者紹介】

髙岡壮一郎(たかおか・そういちろう)
1999年東京大学卒業後、三井物産株式会社に入社、海外投資審査、情報産業部門における新規事業立ち上げやM&Aに従事。2005年、あゆみトラストグループ(旧アブラハムグループ)を起業、ヘッジファンドダイレクト株式会社等のグループ各社の代表取締役社長に就任し、フィンテック領域にて富裕層向け金融事業・メディア事業を行う。

  • 世界10万本以上のファンドデータベースから独自アルゴリズムで最適なファンドを選別、中立的な立場から投資家に助言を行うフィンテック企業ヘッジファンドダイレクト株式会社は、投資助言契約額累計895億円以上(2016年12月末現在)の実績を有し、海外ファンドを専門とする個人投資家向け投資助言会社として業界最大手。
  • 純金融資産1億円以上の富裕層限定オンライン・プライベートクラブ「YUCASEE ( ゆかし)」は会員資産1兆円以上で国内最大規模。
  • 富裕層向けオンラインメディア「ゆかしメディア」は月間100万アクセス以上で国内最大級。
  • 同グループ子会社として証券会社を香港に設立する等、グローバル金融に関する豊富な知見を有すると共に、「金融×IT」のフィンテック領域にて18年の経験を有する。「ロイター・ウェルスマネジメント・サミット」「日経BP金融ITイノベーションフォーラム」に登壇。
  • 著書に『富裕層はなぜ、YUCASEE ( ゆかし)に入るのか』(幻冬舎)

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