ナラハラニットで営業を担当する楢原雅也。社長の長男。 大学卒業後は商社に就職。7年間勤務したのちにナラハラニットに入社しました。そこには一体、どんな思いがあったのでしょうか。事業開発に携わり、ダイナミックな挑戦ができる商社を辞めて、こつこつ地道にものづくりを続けてきたベビー服メーカーへ。その決断の裏には――?
ものづくりする場所に戻らなけば。入社7年で芽生えた気持ち
――前職では、どのような事業に携わっていたのか。教えてください。
食料事業で農作物に携わっていました。入社して、最初に手がけたのは肥料でした。肥料の原料はほぼ100%が海外からの輸入。それを国内のメーカーが製品にして市場に流通します。肥料の中痛には全農を経由する系統ルートと商系ルートがあり、私たちは商系。ホームセンターなどJA以外に卸していました。
入社してから2年半から3年の間は肥料を手がけ、その後、農業の入口から出口まで一気通貫の流れをつくるプロジェクトが立ち上がり、参画することになりました。北海道から九州まで全国の農家さんを、スーツ姿で、長靴をはいて、まわって、年間の作物カレンダーに沿った支援を行なっていきました。仕入れるのは、JAに流れない農作物。A品と呼ばれる、かたちのよい野菜は道の駅などで売るのですが、支援として不十分。それで私がやったのは、A品以下もすべて買い取り、百貨店の産直コーナーで販売したほか、グループ内の食品を取り扱う会社に卸して、総菜にしたり、ケチャップなど加工品の原料にしたりすること。プロジェクトには、食料だけでなく、化学品や機械など、さまざまな分野の出身者が集まっていました。自動車に携わっていたメンバーが、トラクターをどうリースするか考えたり。包括的に、すべてひっくるめて支援に取り組めるため、大変ではありましたが、面白く、やりがいは大きかったですね。
――就職先として商社を選んだのは、どういった理由からだったのでしょうか。
就職するにあたって、いろいろ考えました。繊維以外の分野が良いのではないか。そうすすめたのは実は社長である父です。アパレルの市場はこれからますます縮小していく見込み。3~4年後は、うちの業績も厳しいかもしれない。それなら、いろんな事業分野に携われる総合商社が面白いのではないかと思ってエントリーしたのです。アパレルブランドや下着メーカーも選択肢として残しましたが、最終的には商社への入社を決めました。配属先は、実家の商売とはかけ離れた分野で、農家の親戚も知り合いもいない。やっていくうちにどんどん面白くなっていきましたが、最初はわからないことだらけでした。
――退職、そしてナラハラニットに入ったのは、なぜですか?
祖母が亡くなったことをきっかけに意識するようになりました。ナラハラニットは祖父母が興した会社で、糸を仕入れて生地を織り、男性用の肌着に仕立てるのが、創業当時の事業でした。祖母がはたらく姿を小さい頃から見て育ってきました。人生をものづくりに捧げてきた。そんな人でした。高齢になり、認知症を患っても、決算の時期になると「会社はどうなってる?」「あの取引先さんの様子は?」とかならず聞いていました。だっこひもをして、子守をしながら、夜中までミシンを踏んでいた。父にもそんな記憶があるそうです。
ものづくりする場所に戻らなけば。商社でのプロジェクトが、ちょうどひと区切りついたタイミングでもあって、そんな気持ちが芽生えました。ものづくりの血が自分にも流れている。仕事で農作物を育てる農家さんと会って話していて、そう感じたことも何度もありました。
ナラハラニットの秋田工場ではたらいている人は、工場長をはじめ、多くが兼業農家です。朝8時から夕方5時までという勤務時間で、朝早くから7時頃まで田植えをして、それから会社に出てくる人がたくさんいます。私が入社してから、秋田工場の敷地内に小さな畑をつくり、無農薬で野菜を育てることにしました。工場見学にお越しいただいた取引先の方などに、収穫したものをお持ち帰りいただいています。アパレルメーカーには女性が多く、小さなお子さんがいる人もたくさんいます。秋田のおみやげでも、お店で売っているものは、東京でも買うことができます。しかしナラハラニットの野菜は、ここでしか手に入りません。喜んでいただけるのではないかと考えて、採算度外視でやっています。
自社ブランド『Chêne』の製造地であることから、行政からの依頼を受けて、ベビーギフトが秋田県横手市のふるさと納税で返礼品になっています。セットに含まれるスワドルはりんご染め。葉と木の幹のみを使用した100%天然素材の草木染めです。秋田にりんご農家が多いことから、地元の工房にお願いし、ご協力いただいて、生地本来の風合いをいかしつつ染め上げてあります。色落ちの問題があるため、洋服には化学染料がつかわれるのが一般的ですが、ベビー服、子供服に天然染料がつかわれるように、少しずつ変えていければ、面白いビジネスになるのではないかと考えています。
あえて業務の線引きをしない。得意分野を持ったマルチプレーヤーが活躍
――商社での経験が今、ナラハラニットでいかされている。そう感じることはありますか。
商社とメーカー両方の立ち位置で理解できていることは、事業を企画、開発するうえで役立っていると感じます。アンテナの感度を高くして、グローバルな視点で物事を見て、スピーディーに、そしてダイナミックにプロジェクトを動かしていく。商社ではたらいたからこそ、学べたことだと思います。当時の仲間とは今でも交流があり、近況を報告しあっています。りんご染めの話にも興味を持ってもらえていて、ほかに広がっていくかもしれません。まだ点の状態ですが、これから線になり、つながっていくこともあるでしょう。
メーカーと農家。メーカーと商社。メーカーとメーカー。いろんな組み合わせで生まれるシナジーに期待しています。商社には現場を見ることをしない人が比較的多いのですが、商社時代の最後あたりでお世話になった上司には「現場に行って、ものを見ろ」とよく言われました。その教えを守り、常にあらゆるところを見渡しながら、俊敏に動いていかなければならないと感じています。
今、私はナラハラニットで営業の名刺を持ち、仕事をしています。しかし業務の範囲は営業にとどまらず、生産管理、人事・採用担当と多岐にわたります。ものづくりに直接手をふれてはいませんが、それ以外のことすべてに関わっています。なかでも事業開発、事業計画、経営企画、人材確保は任せられている業務のなかでも重要です。これはやらなくて良いという線引きがないこと、事業をつくりだしていくことは、総合商社のプロジェクトと同じ。とくに新規の事業開発、人材確保は、会社の心臓部であり、事業を動かすエンジンをつくっていく取り組み。会社の5年後、10年後を大きく左右します。意識しているのは、会社の人数が増えても大企業病にならないこと。タテ割りの組織にならないように、担当業務をはっきり線引きしすぎないようにして、みんなで一丸となってものづくりをしていくことが理想です。高いレベルの専門スキルを持ちながらも、どこのポジションもできる。得意分野を持ったマルチプレーヤーが活躍する会社にしていきたいと考えています。
流通が変わる。最終的には自社店舗を持つこともあり得る
――具体的には、どのような取り組みを行なっていくつもりでしょうか。
アパレル業界のものづくりは、人の力に頼るところが大きい。だからこそ、人が機械となってはたらくのではいけない。人が考え、工夫するからこその品質を生み出さなければならないと思います。
秋田の工場では、すでに、これまで縫製しかしてこなかった人にも、裁断をしてもらうようにしています。そうすることで、どうすればお互いに仕事がしやすいか、品質を上げられるか、考えられるようになります。とくに若い人など、ジョブローテーションして、さまざまな職種を経験したうえで、最終的に適材適所の配置に落ち着くのが良いと考えます。
本社では生産管理、デザイナーが、担当業務の枠を超えて、いろんなことに興味を持ち「やりたい、やりたい」と言ってくれています。おかげで社内が活気づいて、明るい雰囲気です。
自社ブランドを立ち上げたことも、良い影響を及ぼしているようです。OEMだと、どうしても取引先様に納品したら終わりという感覚になってしまいがちですが、『Chêne』のアイテムが店頭に並ぶようになってからは、百貨店に足を運んで売り場をチェックして、売れ行きを確認したり、他の商品と比較したりする社員が増えました。なかには知り合いのママに率直な感想を聞かせてほしいと頼んでいる人もいます。商品の買い手であるエンドユーザーを意識することで、ものづくりの質がさらに高くなっていくでしょう。レベルが底上げされることで、OEMのアイテムにもシナジーが生まれ。取引先様にも大きなメリットを提供できます。
多種多様なアイテムを手がけられるOEMは、ナラハラニットの事業の軸です。これからも続けていきます。自社ブランドを立ち上げたからといって撤退することも縮小することも考えていません。さらに成長させながら、自社ブランドがそれを追いかけていき、最終的に事業の2本柱として5対5の割合に近づけていく。それが思い描く理想的な姿です。
流通についても、これまでは商社や卸売を通しての販売が業界の主流でしたが、これからは、メーカー単独でも小売り、海外展開をしていける時代。ゆくゆくは商社機能を備えてSPA(製造小売)の体制を築き、最終的には自社店舗を持つこともあり得るでしょう。
ものづくりの品質を支えるのは人。未来を変えるのも人です。日本のアパレル業界を縮小させないため、業界の未来を守るために、私たちは、人の力でものづくりを価値を追求していきます。
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