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スピーチで人生を変える - カエカ創業にかける思い

本記事は、弊社代表の千葉が、2019年に慶應義塾大学主催のORFで行ったピッチ原稿を元に作成しております。

実際の動画は、こちらからご覧いただけます。

スピーチで人生を変える 千葉 佳織

姿勢を貼って舞台の中央に立ち、すぐに話し始めそうなタイミングで沈黙を保つ。

第一声は落ち着いた、ゆとりのある声。滑舌、視線、言葉そのもの。誰とも被らないように、誰もが注目するように。あなたの目の前で起きている事象は、私の意思と努力により成り立っています。

スピーチをつくること、が私の生業であり、今回のテーマです。

話は10年前に遡ります。北海道江別市の高校で、私は人前でスピーチをする部活、弁論部に入部しました。部活では日頃の練習として発声練習があります。体育館のベランダを出て、学校を囲う山と牧場と大空に向けて「あいうえおいうえおあ」と大声を出します。

息を全て使い果たして清々しい気持ちになったと思えば、少し後ろからクスクスと笑い声が聞こえます。

当時の弁論部のレッテルは「陰キャラの集まり」「地味な人たちがいる部活」。発声練習も変な人たちが外に向かって奇声をあげているとバカにされていました。私は人前で話すことがかっこいいと感じました。しかし、まわりはそう捉えられていない。悔しかった私は、とにかく強くなってまわりを見返えそうと決意しました。

舞台に立つ前までに20回の原稿の書き直し。後輩からも容赦無く原稿をダメ出しされ、部活が終わって家に帰っても宿題そっちのけで弁論の練習をする生活。

そうして私は全国高等学校弁論大会で優勝して、内閣総理大臣賞をもらいました。

その瞬間、学校全体の空気が「弁論は地味」から「弁論はかっこいい」に変換されました。部員は数倍に増え、バカにしていた人たちが「実は弁論部入りたかったんだよね」と言ってきたのです。周囲の反応が変わり、自分の決断に自信がつきました。そして夢を持つことができ、AO入試でSFCに入学することもできました。弁論は私にとって人生を変えてくれた存在です。

そこから10年が経ちました。

私の職業はスピーチライターです。

スピーチの構成や内容をつくり、話し方の指導を行う仕事、日本では片手で数えられる程度の人しかやっていないと言われています。一方で、アメリカでは話す能力の大切さが浸透しており、スピーチライターも仕事として確立されています。大統領には専属のスピーチライターが数人ついており、皆で分担し合いながら演説原稿を書いています。小説家の原田マハさんの作品「本日はお日柄よく」を読んでいただけると、この仕事がよくわかります。

この仕事をはじめようと思ったのは、社会2年目の春、IT企業に勤めている時。副業としてはじめようと調べてみても、資格もなくはじめ方がわかりません。そこで現職のスピーチライターのSNSに連絡して、会いに行き弟子入りをお願いしましたが、ある人には育て方がわからないと断られたり、ある人には「アナウンサーになれなかった君は人に教えられる説得力がない」と言われたこともありました。

やっとの思いで辿り着いたはじめての仕事は、スピーチの教室を3ヵ月持つことでした。受講者さんが本当に成長できる環境をつくりたいと思い、できる限りのことをやりました。そして授業最終日のスピーチ発表会。話すことが嫌いだと、緊張すると言っていた受講者さんたちが、80人ほどを前に堂々と生き生きと、人の心を掴んで話したのです。発表終了後、多くの人に激励される彼らの表情は、自信と安堵に満ちていました。その時、私はこの仕事には意味があると実感したのです。

AI時代とも謳われる今、これからの時代は論理や数値だけでははかれない、新しい価値が求められていると思います。

その中のひとつに私は、話し言葉、スピーチが入ってくると思っているのです。現在私はスピーチライターとして、経営者、政治家、校長先生、企業、大学、塾などで原稿ライティング・スピーチのトレーニングを行なっており、素直に需要を感じています。学ばなくてもなあなあにできてしまう「話し言葉」。これを磨くことが、にこれからの時代を切り開いていく鍵になると思っています。

ここまで話して、私のことをどう思いましたか?才能のある人だとか、すごいだとか思ってもらえたら嬉しいです。本当はそう見られたいです。でも、正直に言うと全くそんなことありません。

私はたまたま北海道に生まれ、娯楽も少ない地方で育ち、受験で落ちて入った高校に偶然弁論部があり、勉強が苦手で、あわよくば部活の成績で大学に行きたいと思い、弁論を選択したにすぎません。競技人口も他の運動部や文化部に比べたらこんな感じです。ただ運が良かっただけなんです。スピーチが好きな私と、仮に人前で話すことが嫌いなAさんがこの会場にいるとしたら、その違いは能力でも才能でもありません。「スピーチについて真剣に考えたことがあるか」それだけだと思います。

私が言いたいことはシンプルです。先入観を捨ててください。

日本人は人前で話すことが下手である。話のうまさは才能で決まる。自分には才能がなくずっと話すことが苦手である。そう思い込んで、自分の可能性に制限をかけているのは、自分自身だということに気がついてください。話すことは、才能によって決まるものではなく、学習することができます。ポイントはたくさんあります。言葉の構成やストーリー、自己内省、接続詞、感情を表す言葉、間、声の高低…あげればキリがありません。そのポイントを掴みながら語ることができると、誰でも上手になれます。自信がみなぎってきます。夢を語れます。人を巻き込んで前に進めます。だからこそその第一歩として、この場で「先入観」を捨てて帰ってください。

そして、人前で話す勉強をしたいときに、自由に勉強できる環境をつくることが私の使命です。

私は先月、前職の会社を辞め、3日前に法人を登記しました。新会社は株式会社カエカと言います。カエカとはアイヌ語で「糸をつくる」という意味です。糸は「記憶の糸」「運命の糸」などの喩えがあるモチーフで、糸を紡ぐことで運命的なチャンスを得てほしい、という思いで設立しました。今後、スピーチライティングに加えて、スピーチのスクールやテクノロジーをつかった挑戦を行っていきます。興味を持ってもらえたら、この話のあと、話しかけてください。

人前で話す人がチャンスを掴めるような社会にむけて、私は先陣を切っていく覚悟です。

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