なにをやっているのか
【水産物の品種改良】
私たちは、水産物を品種改良することで、生産者や消費者にとって有益な特性を持つ新品種を開発しています。例えば、生産者に対しては、成長速度を上げる、飼料効率を高める、生残率を高めるなどのアプローチから生産性の向上を目指します。また消費者に対しては、よりおいしいもの、より栄養価の高いもの、より食べやすいものなどの高付加価値な水産食品の提供を目指しています。最終的には、地域の特性にあった真の地魚「リージョナルフィッシュ」を開発していきます。
現在、私たちの身の回りにある食品のほとんどは、品種改良されたものです。畜産物・農産物のうち、品種改良されていないものはミツバくらいと言われています。しかし、水産養殖については歴史も浅く、品種改良がほとんど普及していない実態があります。
しかし、優良な特性を持つ品種がやがて評価されるであろうことは歴史が証明しています。実際、水産物で品種改良に成功した数少ない例であるサーモンは、流通しているものの大半が品種改良されたものです。品種改良された水産物が豊かな食生活の一端を担う未来が必ず来ることを、私たちは確信しています。
【スマート養殖の推進】
水産業をより強い産業へと変革していくには、水産物の品種改良だけでなく、水産養殖手法そのものの高度化が必要不可欠と考えています。しかし、現在、多くの企業がスマート養殖領域へと参入しているものの、いずれも導入コストが高く、浸透するには今しばらくの時間が必要です。
しかし、品種改良によって生産効率や付加価値を高めた水産物と組み合わせることができれば、そのコスト負担を大幅に低減・回収することができるため、非常に相性がよいと言えます。私たちは、水産物の品種改良を進めると同時に、より高度な養殖システムの確立に向けた研究を行っています。
具体的には、AI/IoTセンサーや水中カメラを活用した飼育成績・飼育環境のリアルタイムモニタリング、そのデータを活用した給餌・清掃といった現場業務の自動化、ろ過や紫外線などの殺菌技術を活用した魚病・水質汚染リスクの最小化など、スマート養殖技術の開発を進めることにより、水産業の発展に貢献することを目指しています。
なぜやるのか
世界では、近い将来、タンパク質の需要が供給を上回り、タンパク質が不足してしまう「タンパク質クライシス」が到来すると予想されています。この問題を解決するため、良質なタンパク質を効率的に生産する方法の確立が求められています。
その解決方法の一つとして、私たちは、既存のタンパク質源の中でも比較的生産効率の高い水産物に着目しました。特に、水産物の品種改良は未知の領域であり、新品種の創出にはたくさんの可能性が眠っています。生産効率の改善はもちろんのこと、おいしさや栄養価の向上により消費者のニーズに応えることも可能と考えています。
世界の水産生産量は、この30年間で倍増していますが、乱獲・気候変動といった要因によって水産資源の保全が重要視されており、天然魚を採取する漁獲量はほとんど増えていません。つまり水産業界の伸びしろは、天然物の漁獲ではなく、養殖にあります。
しかし、日本の水産業を巡る状況は、厳しさを増しております。この30年間で水産業従事者は20万人以上も減少し、かつて世界1位を誇っていた生産量は8位に落ち込んでいます。私たちは、「水産物の品種改良技術×スマート養殖技術」を開発・普及していくことによって、日本の養殖業、ひいては水産業をもう一度盛り上げていきたいと考えています。
どうやっているのか
私たちは、水産物の品種改良を行うにあたり、ゲノム編集技術を利用した「ナノジーン育種」という手法を用いています。京都大学と近畿大学の長年に渡る共同研究の成果が本技術のベースとなっており、「水産物へのゲノム編集」という領域においては、世界でも最先端を走っています。
ゲノム編集とは、酵素を使って、起こしたい進化を担うDNAにピンポイントで刺激を与えることで、自然界でも起こり得る変化を起こす技術です。(※ゲノム編集手法の一つ、CRISPR/Cas9は、2020年にノーベル化学賞を受賞した技術です。)
従来型の品種改良では、突然変異によって生まれた優良な特性を持つ個体を選び出し、これを掛け合わせる手法を用います。しかし、ランダムかつDNA数千個単位で起きる突然変異を利用するため、一つの品種を作り出すのに、およそ30年の時間を要します。一方、ゲノム編集では、DNAを数個単位でピンポイントに変異させることが可能なため、わずか2-3年で新品種を作り出すことが可能です。
また、本技術は、遺伝子組換え技術とは異なり、「品種改良」に分類される技術です。遺伝子組換えは、開発したい生物に、別の生物の遺伝子を導入することによって、別の生物の持つ特性を付与する技術であるため、自然界には存在しない品種が生み出されます。これに対し、ゲノム編集では、遺伝子導入を行わず、開発したい生物の遺伝子に対して自然界でも起こり得る変異を再現する手法です。そのため、自然界にも存在し得る品種を生み出すことができます。
私たちは、こうした技術を様々な水産物種(魚類や無脊椎動物など)に適用していくことで、地球環境や人類に有益な新品種を、これまでより圧倒的に「早く」開発しています。
さらに、これらゲノム編集技術に関する研究はもちろん、スマート養殖技術の開発などの分野において、多くのアカデミアや大企業などとのオープンイノベーションによる連携を進めております。