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1ブランド1プロダクト。日経BP社主催「日本イノベーター大賞」を受賞しました

「なんて面白い時代なんだろう!」

イノベーターたちの勇姿を眺めていると、なんだか涙腺が緩んでしまったし、彼らの描く世界の大きさにワクワクさせられた。

2017年12月5日に開催された、日経BP社主催「日本イノベーター大賞」の授賞式でのことだ。選考委員長である、株式会社三菱総合研究所の小宮山氏は、式の最初にこう語った。


「今年の受賞者のみなさまには、多様性を感じるのですが……大企業がひとつもないんですよ。たぶんこれは、初めてのことじゃないでしょうか。

まさに、スタートアップから、規模のあるビジネスとして成功された方々を選考することが出来た、というのは時代の流れです。日本もようやく、こんな流れを迎えたのだ、と思いました」

——”日本もようやく”という言葉の裏には、FacebookやGoogle、Appleのような、世界を席巻するスタートアップがいまだに日本から生まれていない…という事実と、そしてかつての「経済大国」としての勢いや誇りを取り戻したい…という願いが感じられた。

この日本イノベーター大賞というのは、今から15年前、2002年に産声を上げたアワードだ。これまでの歴代大賞受賞者は以下の通り。(敬称略・肩書きは受賞時のもの)

2002年 鈴木敏夫(スタジオジブリプロデューサー)
2003年 飯島澄男(NEC特別主席研究員)
2004年 三木谷浩史(楽天代表取締役社長)
2005年 伊賀章(ソニー情報技術研究所長)
2006年 小菅正夫(旭山動物園園長)
2007年 野尻知里(テルモハート社長兼CEO)
2008年 枋迫篤昌(マイクロファイナンス インターナショナル コーポレーション社長兼CEO)
2009年 まつもとゆきひろ(Rubyアソシエーション理事長)
2010年 川口淳一郎(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所宇宙航行システム研究系教授)
2011年 若林克彦(ハードロック工業代表取締役社長)
2012年 東レ複合材料研究所(研究所所長 北野 彰彦)
2013年 森川亮(LINE代表取締役社長)
2014年 藤野道格(ホンダ エアクラフト カンパニー代表取締役社長)
2015年 齊藤元章(PEZY Computing代表取締役社長) 
2016年 市川和弘(セイコーエプソン)

2017年の大賞に輝いたのは、フリマアプリの最大手である「メルカリ」代表取締役会長兼CEOの山田進太郎さんだ。


日本では唯一のユニコーン企業(時価総額10億ドル超の未上場企業)を創ったシリアルアントレプレナーの第一人者とされ、メルカリへの1日の出品数はなんと100万品以上。

Facebookの幹部でもあったジョン・ラーゲリン氏を迎え、現在はサンフランシスコ、ポートランド、ロンドンにある3つの海外拠点も成長中だ。

そして、私たち株式会社BAKEの創業者であり、現・会長の長沼真太郎さんが優秀賞に選ばれた。お菓子屋さんからの受賞、というのも、どうやら初めてらしい。


1ブランド1商品に徹底した、お菓子の美味しさを追求したビジネスモデル。高い利益率により、インハウスクリエイターを多数抱えられる豊かなクリエイティブ面。オンライン、スマホアプリ等での写真ケーキ販売事業。そして創業4年で8カ国、約60店舗を展開したスピーディーなビジネスの拡大などを評価していただいての受賞だ。

グローバルで戦う、日本のスタートアップカンパニー

今年の受賞者は、このような顔ぶれだ。


写真左から、ソフトパワー賞・古屋雄作さん(うんこ漢字ドリル / 脚本家)、優秀賞・川本栄一さん(川本技術研究所代表)、大賞・山田進太郎さん(メルカリ会長兼CEO)、優秀賞・長沼真太郎(BAKE会長)、特別賞・仲本千津さん (RICCI EVERYDAY COO)

アフリカ・ウガンダでの起業。社会的に疎外された女性に働く喜びを

特別賞を受賞された仲本千津さんは、なんとアフリカ・ウガンダの首都カンパラに工房を持ち、鮮やかなアフリカンプリントの「布バッグ」を生産している。


新卒では大手銀行に就職し、財務面の知識も豊富な仲本千津さん。その後、国際農業NGOに参加したことでウガンダと出会い、現在は日々現地の職人たちとバッグの生産に取り組んでいる。

ウガンダの工房では、今日生きていくことも難しいような貧困層の女性を中心に、現在15名を職人として雇っているそうだ。彼女らに支払われる給料は、最低でも現地女性の2倍。

色鮮やかで珍しいアフリカンプリントのバッグは、日本各地の百貨店からオファーが殺到するほどの大人気。日本での営業・販売を担っているのは、なんとお母様である仲本律枝さん。なんとも珍しい、母娘体制のソーシャルイノベーション企業だ。

口にするのもお恥ずかしい「うんこ漢字ドリル」

「ソフトパワー賞」に輝いたのは、大人気「うんこ漢字ドリル」を手がけた脚本家の古屋雄作さん。共にこのドリルを生んだ、2010年創業の出版社・文響社の山本周嗣社長と共に登壇されていた。


コンラッド東京という煌びやかな会場で、スーツのビジネスマンたちがずらりと並ぶ中「うんこ漢字ドリルが…」とアナウンスされるたび、会場の空気がゆるむ。

(ちなみに、審査員も司会者も、読み上げる前に必ず「口にするのもお恥ずかしいのですが」という枕詞を付けていた)

勉強嫌いの小学生にも大人気……という現象自体はテレビでも、新聞でも、駅広告でも、あらゆる場所で目にしていたのだが、その発行部数を聞いてあらためて驚いた。

なんと、累計279万部という驚異の数字なのだ。


日本全国の小学生人口は640万人だそうで、その普及率の高さがよくわかる。

きっと全国各地の小学校のクラスの中で「うんこ漢字ドリル派」「従来のドリル派」で派閥争いが起きているに違いない……。

74歳のイノベーター。介護の現場から生まれた、水洗いクリーナーヘッド

今回の受賞者は、山田さんと古屋さんが1977年、仲本千津さんが1984年、そしてBAKEの真太郎さんが1986年生まれ……と、みんな30代のイノベーターだ。

そんな中、74歳で優秀賞に輝いたのが、技術者である川本栄一さん。


「スイトル」という水洗いクリーナーヘッドの技術を考案した川本さん。開発のきっかけは、30年前に奥様のお父さんが病気になったことだ。

オムツを着用していても、寝具や床を排泄物で汚してしまい、掃除には骨が折れた。それをなんとかしたい……との思いで、水洗いできるクリーナーヘッドを自らの手で開発し、ベンチャー企業のシリウス社長との出会いによって、商品化された。

クラウドファンディングを実施したところ、なんと1,000万円を超える資金を調達。2017年8月末までに2万台を売り上げ、現在も売り上げ台数を伸ばし続けている。

「スイトル」の技術は、日本だけではなく、中国、アメリカでも特許を取得している。

イノベーターとは、誰のことなのか?

授賞式を終えたBAKE会長の真太郎さんに想いを聞いてみたところ、このような大きな賞をいただけたことへの嬉しさの反面、自身がイノベーターとして表彰されることの戸惑いも大きかったようだ。


「本当に光栄です。でも、こうして賞を取れたのは、BAKEが拡大したからでしょう。それは、BAKEみんなの力です。だから本当に、みんなに感謝だな……という気持ちですね。あぁ、(現社長の)西尾さんも連名で前に出ればよかった……」

BAKE創業者である真太郎さんは、2017年の9月に代表取締役社長を退任し、現在は西尾修平さんが社長を務めている。

会長となった真太郎さんは今、何をしているのか? というと…

お菓子作りに高度なテクノロジーを取り入れることや、牧場など第一次産業に注力すること。BAKEが創業当初から「こうなりたい」と宣言していた場所を目指して、日々開拓している真っ最中だ。


「牛のストレスを解き放ちたいんです」

——彼が熱く語るこの言葉に、多くの人は「え、何を言っているんだ?」と耳を疑う。

でも、4年前だって、同じだった。

「東京で、お菓子のスタートアップを立ち上げたいんです」

パティシエ経験もなく、ビジネス経験も浅い27歳の彼は、本気でお菓子のスタートアップを成功させる野望を抱いていた。

5年前、BAKEという会社はなく、彼は父の経営する北海道の洋菓子「きのとや」のいち店長として新千歳空港で働いていたのだが……彼の頭の中にはその時から、オンラインで、そして世界中で、お菓子のスタートアップカンパニーを成功させていく、そんな地図だけは描かれていたのだ。

そして、東京にやってきた2013年。毎日最安値のカップ麺を食べながら、Airbnbで泊まりに来たアメリカ人エンジニアに自社サービスの開発を助けられながら、実の姉にデザインを手伝ってもらいながら……

ひたむきにお菓子のビジネスに取り組む姿勢に、仲間は一人、また一人と増えていった。それが今は、世界8ヶ国、およそ60店舗。BAKEに関わる仲間の数は、今日もあらゆる国、あらゆる都市で増え続けている。

今回、優秀賞の賞金として、50万円が贈呈されたのだが、私は「4年前の真太郎さんに、この資金を送金できたら良いのにな」だなんて思ってしまった。

こんな小さなオフィスで、男3人で寝食を共にしながらも、野心だけを抱いていた4年前の彼に。


BAKEは今、第二創業期として、グローバル展開を加速させている。シンガポール、上海、台湾にも現地法人を設立したが、これから目指すのは、アジアを超えた世界だ。

メルカリも、RICCI EVERYDAYも、スイトルも、どの商品やサービスも、はなから日本だけに留まるつもりはない。もちろん、言葉や文化、しきたりの異なる国への進出は一筋縄にはいかないのであろうが、それでもみんなとても楽しそうに、今後の野望を語っていた。

「あれ、うんこ漢字ドリルは?」と思われるかもしれないが、古屋さんは日経ビジネスでのインタビューでこう明かしていた。

古屋が個人的に挑戦してみたいと考えているのは「うんこ英会話」だそうだ。 「英語の例文って特に面白くない。そこをうんこでイノベーションしてみたい」 (古屋)。
——「日経ビジネス」より引用

イノベーションは、いつの時代もリスクと隣り合わせにある

式の最初、主催者である日経BP社の新実社長はこのようにスピーチをされていた。

「新しいイノベーションはいつの時代も、様々なリスクと隣り合わせにあります。私たちはこうした課題にも常に目を向けながら、より良い社会と暮らしを実現するイノベーターたちと共に、歩んでいきたいと思っております」


ご存知の通り、今回大賞を受賞したメルカリは、日々悪質な出品者と戦いながらも、安心できるサービス作りに奮闘されている。また、保守的な日本の教育市場に「うんこ」というパワーワードで挑もうとした漢字ドリルなんて、これまで聞いたこともない。

そして、BAKEが文化の異なる海外進出の現場でいかに苦労しているかは、こちらの記事にも記録されている通りだ。

こうしたスタートアップ企業を「賞」という形で評価し続けるのは、メディアにとっても同じくリスクだ。赤ん坊のようなスタートアップ企業では、いつ、どんなことが起きるかわからない。でも、だからこそ、社会やメディアがその活動を評価し、サポートしていくことも必要なのだ。

もっとも、GoogleやFacebookだって、常にリスクと並走しながら、あれだけのプラットフォーム企業に成長してきた。

イノベーションと呼ばれるものの全ては、例外なくリスキーだ。誰も足を踏み入れていない領域へのチャレンジ、法律や倫理とのせめぎ合い、日々生まれてくる世界中の競合他社とのスピード戦争。

ただ、そのダイナミックな毎日をどれだけポジティブに乗りこなせるか? という点が、成功するスタートアップに共通する要因だろう。


メルカリの創業は2013年2月1日で、BAKEは同年の4月。どちらも2013年のお正月にはまだ、存在しなかった企業なのだ。

それがたった5年足らずで、ここまでの人を巻き込み、イノベーションと呼ばれるレベルまで急成長した。

こんな面白い時代が今、目の前にあることにワクワクしてしまう。もっと個人的な話をすれば、THE BAKE MAGAZINE編集長として3年前からBAKEの歩みを追い続けてきた私は、こうして大きな社会に認められる授賞式の様子に、涙腺が緩んでしまったのだ。

私たちの仕事はお菓子屋。そこに誇りを持とう。

授賞式の後のパーティーでは、BAKEのお菓子を提供させていただいた。




本来、ビジネスシーンのパーティーという場所では、美味しい食事よりも、お酒よりも、ビジネストークに花を咲かせるものだが……なんと、この日ご提供したBAKEのスイーツは、会場のビジネスマンたちにも大人気で、すべて綺麗になくなってしまった。

「いやぁ、本当に美味しいんですね」

そう褒められると、素直に嬉しい。

製菓メーカーとしては珍しいオンライン事業、インハウスクリエイターの層の厚さ、海外へのスピーディーな展開などが評価されたであろう、今回の優秀賞。でも、BAKEが一番大切にしているのは、何よりも「美味しいお菓子を作ること」だ。

BAKEのステートメントには、こんな一節がある。

“最高にワクワクしよう。
私たちの仕事はお菓子屋。
そこに誇りを持とう。
お菓子を買う瞬間、
人は最高に幸せな顔になる。
笑顔と「ありがとう」で溢れる、
ワクワクするお菓子屋をみんなで創ろう。
思い通りにいかない仕事も、
誰もやったことがない仕事も。
あらゆる仕事にポジティブな笑顔で
一緒に取り組んでいこう。”

私たちは、高度経済成長も、バブルも知らない。だが、こんなにも幸せな「お菓子」という商品で、世界中にイノベーションを起こしうる今の時代は悪くないな、と思った。

Text by 塩谷舞(@ciotan
Photo by 名和実咲(@miiko_nnn

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