▲写真左よりBEYOND CAFE前旧代表取締役の杉岡侑也、エイベックスグループ執行役員 CEO直轄本部長の加藤信介様、BEYOND CAFE新代表の伊藤朗誠
2004年にエイベックス株式会社に入社し、2018年4月に立ち上げたCEO直轄本部にて、グループ戦略・新事業推進・戦略投資を統括している加藤信介さん。これまでのキャリアの中で、戦略採用や会社全体の構造改革に参画した彼は、次世代のリーダーについてどのように考えているのだろう。
今回はBEYOND CAFEで代表を務めてきた杉岡侑也、新代表の伊藤朗誠が加藤さんに「次世代のリーダーに求めること」や「人材育成において心がけていること」、「構造改革を成功させた秘訣」についてお伺いしました。
次世代のリーダーに求められるのはカリスマではなく羊飼いの素質
伊藤朗誠(以下、伊藤):入社されてから14年目とのことですが、早いうちから戦略的にリーダーになりたいと考えていたのですか?
加藤信介様(以下、加藤さん):いいえ。性格的な部分もあるのですが、今も昔も3年後、5年後といった長期的なビジョンをあまり持たないタイプなんですよね。「○○になりたいから、今年はなにをやって、3年後にはここまでいって…」と戦略的に考えられるタイプではなくて、目の前の仕事を100%、あるいは150%でやりきることだけにコミットしてきました。でも任された仕事を当事者意識を持ってやりきることには昔から自信があって、例えば販促の時に前作800枚しか売れていないアーティストの新作CDを「勝負だから」って5万枚全国に導入したり(笑)、担当していたCDショップでとあるアーティストのCDを1枚でも多く売りたかったので、そのCDショップが入っているファッションビルのテナントを全部回ってお願いして、新卒1年目なのにそのアーティストでファッションビルをジャックしたり。わりとそういうところでは誰にも負けないと思いますし、楽しんでやりますね。でも、決して視野が広いとは言えませんでしたね。
僕がキャリアを切り開いてきたのは、そんな仕事ぶりをそれなりのレイヤーの人たちが「若くて生意気だけど頑張ってるな」ってちゃんと目をかけてくれたのがきっかけです。場合によっては直属のレイヤーを飛び越えて、『お前はここに異動してほしい、これを担当するべき』と言ってくれてチャンスや役割をたくさんもらいました。
正直、2016年に社長室に異動になった時点でも、「社長室に行きたい」という視野は全く持っていなかったので戸惑った気持ちもあります。ただ、今となっては、一人では考えつかないような視野の広さだったり、キャリアだったり、成長の高さだったりを気付かせてもらえた、僕のターニングポイントになる機会だったのは間違いなくて、非常に感謝しています。
杉岡侑也(以下、杉岡):なるほど。そんな加藤さんが考える次世代のリーダーに必要なことはなんだと思われますか?
加藤さん:僕の理想のリーダー像とも重なるのですが、1人のカリスマリーダーがみんなを引っ張っていくというよりは、岡島(悦子)さんが言っているような羊飼いのように社員をどうエンパワーメントして、彼らの才能だったり、やりたいことを最大化するかということが必要になってくると思います。
今までの理想のリーダーシップ像ってわかりやすくビジョナリーかつ引っ張っていくリーダーシップだったと思っているんですね。でも、変化の早い環境の中でイノベーションを起こすためには、リーダーや会社はビジョナリーでありつつも、個人の力が集まって会社としても成長していくのではないかなと思っています。
さっきの話じゃないですけど「自分のビジョンを達成するために猪突猛進、キャリアを構築することが見えている人」と、僕のように「目の前の仕事は頑張るけど、長期的なビジョンは見えていない人」がいたとしましょう。
後者のタイプって埋もれてしまいがちなんですけど、優秀な人もいたりするんです。リーダーは、そういう人たちの特性だとか、強みを引き出して、彼らには考えられないような機会やチャンスを与えてあげることが大切なのではないかと思っています。そうすることで、視野が広がり、個人としても会社としても非連続的な成長を成し遂げていくのではないかって。
個人の才能を開花させるため、失敗を許す風土を築き若手を育てる
伊藤:お話を伺って、個人の才能を開花させるためには、その才能をどう見極めているかが大事だなと感じたのですが、加藤さん自身はどんなことを意識してらっしゃいますか?
加藤さん:ベースとして、叶えたいことを大事にする風土、失敗してもいいから挑戦を歓迎する風土を作ることが大切だと思っています。その風土が醸成されると、風土の上で新しいアーティストや事業を立ち上げる際に、手を挙げてくる人間を見える化できると思うんです。そういうところから、個人の才能を見つけていくっていうのはまず1つですね。
あとは、システムチックな話ではありますけど、ツールを利用してスキルを把握したり、1on1を通してビジョンを調整しながら、やりたいことや未来に向けた話を上司がちゃんとヒアリングしていく。風土とシステムフローを同時に整えていくことで、海面に飛びあがってくる人材を見つけることが大切かと思います。
伊藤:「失敗してもいいから」と自分の志や想いを持っている人を支援する風土だとのことですが、実際にそのような社員に挑戦の機会を提供した事例はあるのでしょうか?
加藤さん:アーティストやコンテンツという文脈だと過去から常にあると思うんですが、ここ最近は事業文脈でも事例が出てきたことは一つ明確な変化だと思ってます。例えば、独立を支援する、社内で子会社を作るというパターン。直近だと、会社から100%資本金出して、子会社を設立した事例、エイベックスが独立支援をして、社員が独立して会社を立ち上げた例などもあります。
伊藤:出資を受けて子会社を作れるだなんて、なかなかない機会ですよね。
加藤さん:ただ、弊社は別に新規事業を立ち上げるだけの会社ではなく、あくまでもヒットアーティストとヒットコンテンツがど真ん中にいる会社です。そういった意味では、一口に新規事業と言っても「新規事業の目線で、コアであるアーティストやコンテンツ、既存事業に隣接した領域のポートフォリオに貢献する」と、「既存の領域以外の事業を形にする」の2種類があると思っているんですね。
僕は、この両方をやるべきだと思っていて、挑戦し、アップデートを続けながらベストなやり方で、新規事業戦略としてのポートフォリオを構成しながら、かつ個人のスキルとやりたいことを最大化できるような支援も意識しています。
杉岡:まさに非連続的な成長ってことですよね。僕自身、非連続的成長には必ずしも失敗が必要になると思っています。エイベックスさんから出てきた新規事業の中には失敗してしまったものもきっとありますよね。そういう案件や人材に関してはどう捉えているのでしょうか。
加藤さん:結果的に事業として失敗したものは、もちろんあります。でも、失敗した本人が全力でやりきったのであればたぶんどこかで成長につながってると思いますし、そんな人材に次のチャレンジの機会が適切に提供できれば会社に対するエンゲージメントやモチベーションにより一層繋がって、事業の成功確率は上がっていくはずだと思っています。
杉岡:ちなみにエイベックスにいる若手のなかで「これから来そうだな」と感じる人材に共通しているものはありますか?
加藤さん:そうだな、超ポジティブですよね。
伊藤&杉岡:あぁ~!
加藤さん:ポジティブであることと、モチベーション高いっていうことは、すごい大切だと思っています。明確にビジョンがあるかないかに関係なく、シンプルに熱意を持って、頑張っている人っていうのは目立ちますよね。
杉岡:なるほど。ポジティブな人材と出会うために、これからの採用において心がけていきたいことってありますか?
加藤さん:採用される側からのエンゲージメントも高いという意味では、インターンからの採用をもっと強化していきたいと思っていますね。結局、うちの会社の場合、どんなに優秀だったとしても、アーティストとかコンテンツ、その先にいるユーザーに対してお金儲けのためじゃなく、「価値提供したい」というリスペクトを持ってやっているのかが一番大切だからです。
杉岡:大前提、愛がないといけない、ということですね。
会社の変革におけるリーダーシップは、トップダウンであれ
伊藤:私たちも今まさに構造改革を行なっている最中なのですが、構造改革を行なわれて、大切だと感じたことはございますか?
加藤さん:会社を一気に変えていくには、様々な意見に惑わされず、やりきるかやりきらないかが重要だと感じました。ここで必要なリーダーシップとは、今までお話していた会社を成長させるためのリーダーシップとは逆で、トップがコミットし、トップダウン出来るかどうかが大事だと思うんですよね。
実際にあった各論で言うと、僕らフリーアドレスにする時に、社員に一度もアンケートを取らなかったんですよ。だって、今まで毎日固定席で働いていた人たちにアンケート取っても、固定席派が多いことはわかっているじゃないですか。
でも、なんでフリーアドレスにするかって、これからさらに非連続的に変化していく外部環境の中で、エイベックスが音楽業界のリーディングカンパニーであり続ける企業であるためには、今対応できてないものをすべて変える必要があるんですよね。だから、全社員フリーアドレス化を発表した時は「もし合わないと思う人は辞めてもらって結構です」っていうCEOの松浦からのメッセージと合わせ、決行しました。そこまでトップがコミットしないと、ボトムアップではできないと思うんですよね。
杉岡:今のお話、すごく自分の中で整合がつきました。働き方が多様化する未来を見据えたエイベックスだからこそ、あるべき姿からブレイクダウンしたKPIをしっかり達成するところにコミットメントを持って推し進めたというところに、構造改革を成功させる大きいリーダーシップが働いた良い例だったのかなって。
加藤さん:今までなかったものを取り入れることについては、おっしゃる通りトップが決め切ったことが成功のカギですね。これは、風土においてもそう。なにを大事にするのかっていうのは、経営のボードメンバーとかトップから発信し続けなきゃいけないし、それを行動規範やタグラインに、すべて一本の線で繋がるように落とし込むことも、トップダウンでやらなきゃいけないと思っています。
組織と人事制度とか風土をトップダウンで醸成した上で、社員がどんなパフォーマンスを発揮してくれるかは、会社の成長のための羊飼い的リーダーシップに繋がるんですよね。
杉岡:あと、僕加藤さんを外から見ていて、後輩ながらすごい素敵だなと尊敬しているポイントがあって…。加藤さんって社内外に味方を作る能力に長けていますよね。
僕含めて、加藤さんを知っている人って、みんな加藤さんが好きなんですよね。それで、僕自身、次世代のリーダーシップって中からも外からも応援されて、自分たちのミッションに向かって推進していくことが大事だと思うのですが、秘訣はあるんですか?
加藤さん:ありがたいお話ですが、味方をつけるために意図的にしていることはないですね。でも、特に外部の方と接する際は大上段に構えず、フラットにお力を借りたいことは素直に借りる。こちらのノウハウが提供できることはご提供する。僕たちの会社も、スタートアップもフリーランスも、社会的に見るとどっちが上下ではなくて、役割の違いだと思うので、常にオープンでフラットであることは大事にしています。
伊藤:今後の企業ブランディングについてはどう考えていますか?
加藤さん:僕たちの会社のブランディングって「エイベックスって誰々が所属しているよね」って、アーティストやコンテンツが会社のブランドを作ってきました。でも、これからのブランディングって、そこの圧倒的価値にプラスして、働き方とか制度、どんな社員がいるのかみたいな魅力もセットで見せていく必要があって、そういった今まで社内で閉じていたものをアーティストとセットでかけ合わせができたら、最強だなって思っているんです。
例えば「今年1年間でテクノロジーとエンターテインメントを掛け合わせた取り組みしてる会社だよね」とか、「年齢関係なく活躍の機会がある会社だよね」とか、そういうメーターがファクトとともにあがってくるとすごくバランスとしては素敵だなと思います。
伊藤:そこはエイベックスさんならではの強みですよね。そんな土台の中でトップダウン的なリーダーシップと、羊飼いのように個人の能力を開花させるリーダーシップをミックスしていけるのはすごくいいなと感じました。
加藤さん:会社の形で言うと、今は社員にどう成長機会を与えるかにフォーカスが当たっているのですが、将来的にはどれだけ外部の会社や人材とうまく組んで、社員のリソースと外部のミックスをどうするかというところを挑戦していきたいですね。俯瞰的に見てベストチームを構成するために、社員だけで閉じないという目線もこれからは大事になってくるんじゃないかと感じるんです。
杉岡:外部と手を組むことって、すぐに適応できる人もいれば、難しいと感じる人もいる気がするのですが、どうやって伝えていくのがいいんですかね?
加藤さん:やはり、ないものを社内にもたらすというイノベーション起こしていくためには、「こうあるべきだ」っていう大上段のところはトップで伝えることが大切ですね。でも、そうはいっても全社員がすぐに適応するのは無理だと思うので、まずはわかりやすいファクトを作って、その事例を社内外に戦略的に情報拡散して、知らしめていくことが大切かなと思います。
杉岡:なるほど。世間のリーダーたちは、私も含めて外の世界をもっと見て行かないといけないですね。
伊藤・杉岡:本日は、ありがとうございました!