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例えるならば「味方の多い起業」。各領域のプロを束ねるプロダクトマネージャーから見るBCGDVのカルチャー



BCG Digital Ventures(以下、BCGDV)は、大企業との共創を通じて、新規事業を創出しているクリエイター集団です。エンジニアリングやデザインなどのプロフェッショナルが在籍し、プロダクトとビジネスの両輪で革新性の高い大きな事業をグローバルに生み出し続けています。

多くのクリエイターが在籍しているBCGDVには、エンジニア、エクスペリエンスデザイナー、ストラテジックデザイナー、プロダクトマネージャー、グロースアーキテクト、そしてベンチャーアーキテクトという職種があります。それぞれの職種を紹介する本連載では、前回までにエンジニアの岡田貴裕ストラテジックデザイナーのSean McKelveyベンチャーアーキテクトの梅沢真吾エクスペリエンスデザイナーの花城泰夢に話を聞きました。

今回登場するのは、プロダクトマネージャーの丸山由莉。多様な価値観・職種の人々が集結するプロジェクトにおいて、それぞれが力を発揮できるよう旗振り役となるのがプロダクトマネージャーの任務です。本記事では、「人材活用のプロフェッショナルから見たBCGDV」を紹介していきます。

コンサル、起業、フリーランスを経て、BCGDVに入社

丸山はBCGDVのシニアプロダクトマネージャー(以下、PM)として、現在2カ月という短期間で、組織間のコミュニケーションツールを開発するプロジェクトに取り組んでいます。エンジニアやデザイナーのもとを駆け回る彼女は、BCGDVに至るまでにさまざまなビジネス環境を経験してきました。大学を卒業してから、コンサル、事業会社、起業、フリーランスとして働いた経験を持ちます。

米国で過ごした学生時代、丸山は政治家を志していました。

丸山「大学で初めて海外に住む経験をして、外から見た日本を意識するようになりました。日本は治安が良くて、コンビニ弁当でも十分質は高いし、電車やバスも定刻通りに来る。いいところが山ほどある国なのに、勢いのあるアジア諸国の人たちのハングリー精神を見ていると『日本は置いていかれるかもしれない』と案じるようになりました」

夏休みは日本に戻り、政党内でインターンシップに励みました。朝5時に集合しビラを配ったり、住宅の外壁にポスターを貼るための営業活動をしたり。2カ月間の地道な作業を通して気付いたのが、選挙に当選するだけでも大変な労力がかかるということ。「政治で日本を変える」のはインパクトが大きい一方で時間がかかります。インターンシップを終えてアメリカに戻った丸山は、少人数でスピーディに物事を進める方法のほうが、自分に向いているのではと考え始めました。

周りはというと、大学がサンフランシスコというスタートアップ大国のそばだったこともあり、友人の多くは、ビジネスで一旗揚げようと起業家を志していました。

丸山「最初はビジネスって儲けたい人がやるんでしょって思っていたんです。でも大学で社会起業を学ぶうちに、実現したい社会を作る手段としてビジネスがあることに気付きました。大人数が長い歳月をかけて大きなインパクトを作る政治より、小さくてもスピーディに自分の手で作るビジネスのほうが、私の性格的にも合っているんじゃないかと思って」

そうして最初に選んだのが、事業戦略をサポートしているボストン・コンサルティング・グループ(BCG)でした。戦略コンサルタントとして1年半、ビジネスのイロハを学びました。


次に丸山が転職したのが、韓国のベンチャー企業。丸山はそこで、日本支社の立ち上げと事業開発を任されます。コンサルティング会社から事業会社への転身は、職場は同じ日本であっても、別の国のように文化が異なっていたといいます。

丸山「コンサルティング会社って、管理部門を除くと職種が一つしかないんです。1言えば10分かるような、似た背景や価値観を持つ人が集まっています。一方、事業会社の職種は多様です。マーケターにエンジニアにデザイナー、それぞれが持つ前提条件も価値観もバラバラなので、1伝えるために10説明しなければいけません。誰かに何かを伝えることに一番苦労しました。

もう一つ驚いたのは、『とりあえずやってみよう』というマインド。BCGでのコンサルティング業務は、クライアントからフィーをいただいて経営者のサポートをします。その分、結果が分からない提案をしてはならず、確からしさが常に必要とされていました。一方事業会社では、失敗のリスクがあっても挑戦してみることが許される。この違いは私にとって衝撃的でした」

事業会社でのPMは刺激に溢れていましたが、支社はものづくりに関わることができません。上流からプロジェクトに関わりたいという思いから、今度は友人とともに起業。イベント公式アプリ専用CMSを提供する「EventHub(イベントハブ)」というサービスを立ち上げました。その後フリーランスとしても活動し、国内のベンチャー企業でPMとして関わりました。

そして2017年1月、丸山はBCGDVのPMとして入社しました。

BCGDVは、人のために時間を費やす会社

一度はフリーランスや起業を経験した彼女がBCGDVに入社した理由は、経験値の高いものづくりのプロフェッショナルがそろっていたこと、そして自分が求めている“高速回転”の文化があったからです。

丸山「体質の古い事業会社に入るのは、やっぱり抵抗がありました。多くの会社は、あるチームに配属されると2~3年は同じ環境じゃないですか。私は一定期間で新しいことに高速で挑戦して、PMスキルを加速度的に磨いていきたいって願望があったんです。その点BCGDVは数カ月のプロジェクト単位でアサインされるので、フリーランスからのシフトという点では抵抗は少なかったかもしれません」

また、以前紹介したVAの梅沢もBCG出身者でした。同じくBCG出身者である丸山がVAではなくPMとして入社したのは、ものづくりのために環境を整えるVAよりも、ものづくりそのものに関わりたいという思いからです。

丸山「最初はVAとして入社したんですよ。BCG出身だからVAねって。でも私『PMじゃないと嫌です』って主張したんです。そしたら翌週には、PMの名刺が出来上がっていました(笑)」


丸山は「BCGDVは人に時間を費やす会社」だといいます。同じコホート(職種)でも、人によって得意分野はバラバラです。個人の強みや今後目指したい方向性を会社が把握するために、BCGDVには「コーチ制度」というものがあります。仕事に慣れるためのOJTのような、入社して数カ月間のメンター制度ではありません。その人の長期的な能力開発のために、同じ職種でポジションが上の先輩がコーチにつくのです。

コーチの関係にある人とは常日頃から1on1を行います。それに加え、しかるべきタイミングで「彼女はこういう強みや経験があり、ここを目指している。だから今後はこんな仕事をさせたい」だとか「もう昇進できる能力は身についている」などと、意思決定者との間に立ってやり取りする存在です。

丸山「私のコーチは中尾憲一さん。入社されたのは最近ですが、中尾さんもBCGDVの入社以前に起業経験があり、PMとしての経験も私の何倍も豊富なので、安心してついていけるお兄さんという感じです」

丸山のコーチを務めるPMの中尾憲一は、ソニー、DeNAを経て、2012年にFROSK(フロスク)株式会社を設立。大手アプリディベロッパーがこぞって使うクラッシュ解析ツール「SmartBeat」を開発しました。その後、2019年4月にBCGDVにジョインしています。

中尾「丸山さんは今まさに、2カ月という短期間で社内向けツールを完成させるミッションを与えられていて、限られた時間のなかでどう形にするかといったアドバイスをしていますね」


BCGDVのPMは「味方の多い起業」で「ミニCEO」?

丸山は「語弊があるかもしれないけど」と前置きしつつ、BCGDVの仕事を「味方の多い起業」と例えます。

丸山「プロジェクトはいくつかのフェーズに分けられますが、はじめのアイディエーション(アイデア出し)をするときのマインドセットは起業に近いんですよね。でも完全にゼロからのスタートではなくて、クライアントが持つブランド力や販売チャネルといったアセットを活用できる。自分でゼロからスタートするより発射台が高いという意味で、条件のいい起業に近いですよね」

また起業経験のある丸山が、経営者目線で感じるBCGDVの強みは職種ごとにプロフェッショナルが存在していること。その一つの恩恵が「人材採用」だといいます。

丸山「自分で会社をやっていたときは、あらゆる職種を全方位的に担当していて、その一つがPMでした。なかでもめちゃくちゃ大変だったのが人材採用です。ビジョンは明確にあっても、お金がない中で能力のあるデザイナーやエンジニアを採用するとなるとすごく難しかった。その点BCGDVは各領域にプロがいるので、自分以外の仕事は心配しなくていいんです」

中尾「PMってよく“ミニCEO”って言われるんです。会社が取り扱うのが一つのプロダクトだけであれば、社長というよりPM的な動き方なんですね。資金調達からビジネスモデルの策定から採用まで、やらなければいけないことは幅広い。けれどもBCGDVにおいては、ビジネス周りはVAがやってくれるし、カスタマー周りはSD(ストラテジックデザイナー)がやってくれる。ですから、BCGDVでのPMは、よりプロダクトにフォーカスして、ユーザーへの提供価値を最大化することに集中することができます」


丸山「PM以外の職種の人たちが、PM的な能力を持っていますよね。職人として尖っているのに加えて、他の職種の人に対するコミュニケーションが上手なんです。例えばエンジニアは、プログラミングを全然分かっていない私に対して、分かりやすく説明してくれる。言語化能力が高いことと、そもそも他の領域に対して興味がある人が多いからだと思います」

プロフェッショナルが集う環境だから、BCGDVにおけるPMは“進捗確認”にとどまらず、それぞれの専門家をいかに引き上げてよいものづくりに活かせるか、という視点にフォーカスできるのです。

価値観の違うプロたちが、能力を発揮できる土俵を作ること

“PM的な能力”を持つ人が多いというBCGDVで、PMはどのように価値を発揮しているのでしょうか。丸山はBCGDVのPMに必要な素養を「多様性を受け入れ、形にしきるマインド」だと定義付けます。

丸山「多様性というと、人種や国籍、性別や年齢といった属性で語られがちなのですが、私はPMとして個の価値観の多様性を意識するようにしています。あなたは何のエキスパートで、仕事においてどのような点に価値を見出す人なのか。プロジェクトにおいてはBCGDVのメンバー以外に、クライアントやBCG本社のパートナーが一つのチームになります。働き方が違えば価値観も変わってくるなかで、その道のプロたちが『自分の能力を100%出し切りたい』と思える環境を作ることが私の仕事です」


プロだからこそ、納得できないことに「うん」と言う人はいません。バラバラな価値観が混在する職場において、一つのゴール設定、ビジョン、ルールに落とし込むのはそう簡単ではありませんが、着地点を見つけ出しチームが同じ方を向いた瞬間に、PMとしての意義を感じるのだそう。

丸山「私の場合は、プロジェクトが始まるときにメンバーに、自分のこだわりを吐き出してもらうんです。『みんな違うね』というのをそれぞれが認識した上で、今度は変えられることと変えられないことに振り分けていく。クライアントとテーマと事業規模は変えられない、では変えられるところはどこだろうと話していくと、打開の道が開けていきます」

中尾「BCGDVは合意形成のカルチャーがあります。個人の思いを大切にする素晴らしい文化ですが、私としてはトップダウンもときに必要だと考えています。そして『ついてきてくれ』と涙を飲んでもらったからには、正しい結果が出るように全力を尽くす。最終ゴールはエンドユーザーに良いものを届けることなので、総指揮としてあるべき方に歩みを進められるよう、鳥の目を持つことは大切にしています」


「みんな違う」というアイデアは、会社としても大切にしている価値観です。少し前にはグローバル各オフィスで、「ダイバーシティ&インクルージョン」をテーマにしたワークショップやイベントを開催しました。

例えば、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」。グループで暗闇空間に入り、視覚障がい者の案内のもと行われる、聴覚や触覚など視覚以外の感覚を使って日常生活のさまざまなシーンを体験するというユニークな外部研修に参加したり、また海外オフィスでのプロジェクトを経験した人たちが「文化が違う海外では、こんなことが大変だった」とシェアをしあう座談会等を開催したり。

丸山「自分が当たり前と感じていることは、実は当たり前じゃない。自分が考えも及ばなかった視点から同じものを見ている人がいたとき、自分の思考も拡張している気がするので、多様性って大切だなと思います。また『みんな違う』とセットで『心理的安全性』の醸成にも取り組む必要があります。コト批判とヒト批判は別物であるというリテラシーが多様性には必要だからです。

ワークショップやイベントを1度開催しただけで劇的な変化が得られるわけではありませんが、刺激から気付きが生まれて、気付きから会話が生まれます。会社のシステムや運営方法、人の思想さえも、すごいスピードで変化し続けている会社だなって思います」

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