大企業の新規事業立ち上げについて検討する際「売上100億円」という数字が基準になることがあります。しかしこの「売上100億円」は本当に重要視すべき数字なのでしょうか?
もしも「100億円の売上が見込めないのであればやる価値はない」とふるいにかけられてしまう新規事業案の中に、大きなビジネスチャンスをもたらすものがあったとしたら──?
このような可能性を多いに秘めているのが、今回紹介する「SaaS」です。
目次
- まずは2社のデータをご覧ください
- そもそもSaaSとは?
- SaaS=分割払いではない
- SaaSの成功事例 〜Adobe〜
- SaaS化がインパクトを与える理由
- SaaS化の真の価値
- ビジネスチャンスを大きく広げるSaaS化
まずは2社のデータをご覧ください
A社とB社は、いずれも建築業界に属する企業です。A社は売上1700億円、営業利益150億円の大企業。一方B社は売上20億円、営業利益1億円の中小企業です。
しかし時価総額を見てみてください。A社の時価総額は500億円なのに対し、B社のそれは550億円。A社の時価総額を超えています。これはなぜなのでしょうか。
実は、B社はもともと施工業者でしたが、2010年より社内の施工工程をIT化するDXを開始。2011年には現在の主力事業となるアプリをリリースしました。
B社はこのアプリによって、建設業界のアナログな部分が効率化。B社はSaaSビジネスによって、建設業界全体に変革をもたらしたのです。
そもそもSaaSとは?
SaaSとは「Software as a Service」の略語です。SaaSでは、クラウドサーバーにあるソフトウェアを、インターネットを通してユーザーが使えるサービスです。
最近は企業に導入するソフトにも、基本的に「クラウド版」と「パッケージ版」が準備されています。このうちクラウド版がSaaSと考えてもらうとわかりやすいでしょう。
SaaSはパッケージソフトと異なり、以下のようなメリットがあります。
【ユーザー側のメリット】
導入コストを抑えられる
簡単・スピーディーに始められる
ユーザー側の管理が不要
【ベンダー側のメリット】
ユーザーを獲得しやすい
継続的な売り上げが期待できる
ユーザーの意見を取り入れてアップデートすることでよりよいソフトウェアが出来る
このようなメリットから、SaaSは国内でも広く普及しています。
アイ・ティ・アール(ITR)の調査によると、国内におけるERP(統合基幹システム)においてもSaaS市場が急拡大しており、2022年度にはSaaSがパッケージを上回ると予測されています。
出典:国内ERP市場は、2022年度にSaaSがパッケージを上回る─ITR | IT Leaders
SaaS=分割払いではない
SaaSにおいては「単なる分割払いなのでは?」という声を聞くことがあります。しかし決してそうではありません。
このことを説明するには、同じ企業内でSaaS化によって成功した事例を見てみると分かりやすいでしょう。
SaaSの成功事例 〜Adobe〜
PhotoshopやIllustratorといったソフトウエアで知られるAdobeは、2012年よりプロダクトを売り切り(パッケージ版)からサブスクリプション型(SaaS)に切り替えました。
すると売り上げは3倍以上、株価は2010年から2021年にかけて20倍に。
SaaSが単なる分割払いであれば、このような状況は有り得ません。ではSaaSがここまでインパクトを与えるのはなぜなのでしょうか?
SaaS化がインパクトを与える理由
先述のAdobeを例に挙げると、パッケージ版では導入に6万円超のコストがかかっていたところを、クラウド版では単体プランであれば月々1,000円台のコストでサービスを利用できます。
またSaaSでは、ユーザーは使い勝手の良いサービスであればずっとお金を払い続けます。逆に「使い勝手が良くない」「お得感がない」と分かれば、すぐに解約しやすい。つまりSaaSは、ユーザーにとって納得感のあるサービス形態なのです。
一方、ベンダー視点で考えると、SaaSの「購入しやすく解約しやすい」特徴は大きなインパクトになります。なぜならユーザーにとって良いサービスでなければ、すぐに解約されるリスクが常に伴うためです。
つまりSaaS化はベンダーにとって、ユーザーにとって納得感のあるサービスにするため、とめどない改良を重ねるモチベーションになります。
SaaS化の真の価値
前項では「SaaS化はベンダーにとってとめどない改良を重ねるモチベーションになる」と説明しましたが、厳密には「必然的にそうしなければならない状況になる」と言った方が正しいかもしれません。
なぜならサービスをSaaS化すると、ベンダーはユーザーのデータを、インターネットを通じて常に獲得できるからです。
ユーザーの動向をリアルタイムに得られるため、必然的にユーザーのニーズもリアルタイムで掴めるようになります。これがきっかけとなり、PDCAが高速化。これが、SaaS化の真の価値です。
つまりSaaS化を行うと、以下のような好循環が生まれます。
ユーザーデータがリアルタイムで得られる
↓
ユーザーニーズに応じて常にサービスを変化させられる
(それを余儀なくされる)
↓
常にサービスが改善されユーザーの満足度が上がる
↓
ユーザーは満足度の高いサービスであれば使い続けてくれる
↓
LTV(顧客生涯価値)が向上し、結果としてパッケージ版よりも収益を高められる
一方、サービスのSaaS化が図れない企業では、ユーザーの動向をリアルタイムで把握することはできません。ユーザーのニーズを得るにもどうしても時差が生じやすく、PDCAもSaaS化を図った企業と比較して圧倒的に遅れます。
既存業界のディスラプトが起こった際、取り残される企業になるか、常に進化して選ばれる企業になれるかは、SaaS化のようなデジタルビジネスに参入しているかどうかにかかっているといえるでしょう。
ビジネスチャンスを大きく広げるSaaS化
たとえ当初は100億の売り上げが見込めない新規事業であっても、SaaS化であれば、やる価値は十分にあります。その理由は、冒頭の2社のデータを見れば明らかでしょう。
売り上げに100倍近くの差があっても、時価総額で並ぶことができるようなビジネスを作り上げるチャンスがあるのが、SaaS化なのです。
新規事業開発、オープンイノベーション、SaaS……
デジタルビジネスの課題の洗い出しから解決、そして拡大まで、Arentなら力強くサポートできます。Arentが描く新規事業開発やDXについて、より詳しく知りたい方はこちらへ。