5年間で2倍に拡大するハロウィン市場規模
わたしたちの主力取引先、100円ショップ業界では8月中旬からすでにハロウィン商戦が始まっています。お店に並んでいて「え?もうハロウィン?」と驚かれた方もいるかもしれません。昨年は9月上旬からの商戦スタートだったので確かに年々早まっています。その理由はなんといっても市場規模がここ数年急速に拡大しているからでしょう。過去5年間で二倍になり、ついに昨年はバレンタインデーの規模を超えました。これは小売業界が夏休みサマー商戦とクリスマスのちょうど端境期ということで力を入れている事情もありますが、ここ数年の勢いはそんな業界の努力を超えた拡がりを見せています。
日本記念日協会による市場規模調査データによると、「バレンタインデー」2012年・約1380億円 2013年・約1310億円 2014年・(天候異常により不明とする)2015年・約1250億円 2016年・約1340億円。「ハロウィン」2012年・約805億円 2013年・約1005億円 2014年・約1100億円 2015年・約1220億円 2016年・約1345億円、とバレンタインの規模は足踏み状態から2016年は7%拡大しましたが、ハロウィンは年平均10%前後の成長を遂げてついにバレンタインの市場規模を超えました。ちなみにクリスマスの市場規模は約7000億円弱なのでまだまだ差がありますが、逆にクリスマスに近い規模まで成長する可能性があると言えます。
ハロウィン人気、4つの理由
では、日本からはるか遠い古代ケルト人のお祭りだったハロウィンが、なぜこんなにも日本人の心を捉え、全国規模で浸透しているのでしょうか?その理由をまじめに考えることはインサイト(消費マインドの核心、底流)を読み解くことにも繋がるのではないかと思って私なりにまとめてみました。日本における最近のハロウィン人気には4つの大きな理由が背景にあると考えています。
1/ 日本人は祭り、イベントなど「ハレ」の日を好む人が多い
日本には四季折々様々な祭りが各地で行われています。それが海外旅行客人気の理由の一つにもなっていると思いますが、古来伝統のお祭りだけではなくクリスマス、バレンタインデー、そしてハロウィンと、本来の意味とはかけ離れ、あるいは日本流にアレンジして老若男女が盛り上がることができるのも日本人の特徴のひとつかもしれません。ハレとケを明確に分けたメリハリを好む私たち。例えば日本の年間祝祭日数は17日で諸外国中ダントツ一位です。ケ=日常である平日は「集団を乱すことなく真面目に働いて過ごす」ことを良しとする風潮で、周りを気にしてなかなか休暇を取り辛い日本人。「皆で渡れば怖くない」式に祝日だと自分も安心して休める。同一民族が小さい島々で暮らす私たちには集団から異端視されたり「村八分」にされることは耐え難い恐怖です。ケの日ではつつがなく悪目立ちしたくない。でも、その分「ハレ」の日には思いっきり羽目を外したい!日常から解放されたい!という気持ちが祭りやイベント好きにつながっているのでは?と思います。日常では恥ずかしくて目立つ恰好もハロウィンパレードの中ならなんの抵抗もなくできる。ハレとケをはっきり分ける心理は日本人独特のものかもしれません。
読書家でない私も昔「日本人論」ブームにどっぷりハマった一人です。「菊と刀」、「タテ社会の人間関係」など数々の「日本人論」を読み漁り、日本人が特殊なのか違うのか?に大変興味を持ちました。中学~大学時代まで音楽に没頭し、バンド活動や洋楽を聞きまくり、海外への興味と憧れを抱いていたことも影響したかもしれません。ハレとケを特別に意識する私たちの心理は「恥の文化」(菊と刀)、「ウチ・ソト意識」(タテ社会の・・)など個性、目立つことよりも集団の調和を重んじる国民性がどのように形成されたのか。とても興味深いテーマです。お祭り、イベント、ハレの日における日本人のはじけ方もそのテーマに繋がっているような気がします。
2/ コスプレしてSNS映えしたい
「制服好き」も日本人独特の気質かもしれません。ユニフォームをしていると偉く見える、安心する、ワクワクする・・この不思議な気分。どこか「素の顔」が隠せるというか、仮面を付けるにも似たユニフォームの効用。この制服好き気質が近年のコスプレ人気にも繋がっているのではないでしょうか?アニメ、ゲーム、コミケ、フォトクロップス・・若者のまわりはこうしたVR,ARが溢れています。若者ばかりではありません。私は週末テニスを楽しむことも多いですが、例えばテニス仲間同士で戦う草大会の団体戦。学生ではなく大人の遊びの試合でさえ、統一されたユニフォーム姿で戦うチームが数多くいます。ユニフォームを着ると「心を一にする」ことができると信じられています。こうして若者から大人までこの気質、文化によってコスプレへの心理的ハードルはもしかして世界で一番低いかもしれませんね。そして「SNS映え」これは今さら私が言うまでもありませんが、写真を撮ってSNSに上げることが目的でコスプレをしている、と言っても過言ではありません。
ハロウィンパレードが日本に広まった歴史を紐解くと、1970年代に原宿キディランドで初めて日本に紹介されたハロウィンは1983年に日本初のパレードが原宿で行われました。その後東京ディスニーリゾートや川崎、六本木などでパレードが毎年行われて徐々に浸透していきました。ただ2000年代初めまでまだまだ一部若者のものだったハロウィン=仮装という認識が広く日本中に広がったのは、2010年頃から全国の幼稚園でハロウィーンパーティが行われたことが大きかったと思います。特にここ5年ほどで誰もが抵抗なく思い思いのコスチュームで楽しめるイベントに成長しました。当時のお子様、若いお母様たちが成長されるに従ってハロウィン=コスプレが楽しい季節行事の一つとして完全に定着してきました。
3/ ライトな関係が若者層の気分にマッチしている
未婚率の上昇、晩婚化と言われて久しい日本。「クリぼっち」の言葉に代表されるように、クリスマスやバレンタインなど異性パートナーがいることが前提のイベントが盛り上がり辛くなっています。核家族化、単身世帯の増加、シェアハウス人気など、今は家族の関係さえも希薄になりつつあります。ウエットで重い関係を負担に感じるこうした世相は、ネット社会、ソーシャルネットワーク隆盛の一因でしょう。その点、ハロウィンなら一夜限り。いわば仮面の関係。立場、国籍、性別、年齢の関係なくその場にいた人々と大いに盛り上がれる。でも翌日には知らない人どうしに戻るという気楽な繋がり。ケの世界、自分の日常を捨てて変身できる楽しさと後腐れのなさ。居心地の良さがそこにあります。
4/ どんな仮装をして歩いても安全である
これも大きいと思います。東京にいると海外旅行客数4000万人という政府目標が着々と視界に入っていると日々実感させられますが、そのニッポン人気の大きな理由のひとつは「安全である」ことでしょう。1992年アメリカで日本人留学生がハロウィンの仮装をして友人宅と間違えて訪問した家のオーナーがたまたまガンマニアだった。そして44マグナム一発で撃ち殺された、という痛ましい事件を私も鮮明に覚えています。渋谷や六本木で年々大規模になっていくあのパレード。ハチ公前のDJポリスが話題になっても今のところ死傷事件は出ていないと思います。海外であれほど大胆な仮装パレードを安全に行える国はどれほどあるでしょうか?ハロウィンの時期を目指して来日される海外のお客様はその安全がどれほど貴重なのかをわかっていらっしゃいます。
長くなりましたが、ハロウィン人気4つの理由を私なりにまとめてみました。こうして掘り下げてみると、ハロウィンには日本の今の世相が見事包括的に入っていて、流行するのも必然のような気がしてきます。今後も引き続き注意深く、ある意味時代の鏡のような位置付けでウオッチしていきたいと思います。え?私?私自身はまだ仮装も、ハロウィンパレードにも参加したことがありません。でもあと数年すると私の年代でも抵抗なくパレードに参加できるほどポピュラーになっていったら良いですね(笑)