<前回までのあらすじ>
メンバー一人ひとりの指向性やキャリア、バックボーンなどを最重視するアイリス。雇用契約など個別最適化を図ってきましたが、これ以上の組織拡大を考えると自社にフィットした就業規則の作成は避けて通れない課題です。そこでコーポレート本部の山崎晃子はAZX社会保険労務事務所の社労士、小室理恵子さんに相談。多様性というキーワードが頻発する打合せを経て最初にでてきた就業規則のドラフトは、それまで滞りがちだった規則作成が一気に動き出すトリガーとなるほどイケているものでした。今回は第二回目として、その後の作成プロセスにおけるさまざまな“壁”について語ります。
法の範囲内で限界まで働きやすさを追求する
小室:アイリスさんは、相当のパワーを就業規則に注いでいらっしゃいました。スタートアップではなかなかできないです。就業規則は直接利益を生まないものですから、後回しになったり検討し尽くされないまま完了してしまったりすることもあるんです。
山崎:私は以前、大手といわれる規模の組織に在籍してましたが、就業規則というものは存在して然るべきと考えていたんです。でもスタートアップを経験していると、日々組織が猛スピードで変化していくので、なかなかそうもいかないと感じるようになりました。
小室:そんな中でアイリスさんは粘り強く、時間もかけてやりましたよね。先ほども言いましたように、残念ですけど、十分な検討ができていないのではないかなぁという状態で、1ヶ月ぐらいで終わらせてしまう会社もあるのに…ちなみにどれぐらい時間かけましたか?
山崎:5月に着手し11月に完成したので、半年かかっていますね。その間毎月のように新しいメンバーが入社し、働き方にバリエーションが増え、就業規則に落とし込むことが難しいと感じることがありました。その後、働き方をある程度体系化できる!と感じたタイミングができて、完成に至りました。
小室:半年…すごい。山崎さん、私が提出した就業規則のドラフトをぜんぶ読んでましたよね。あれ目を通すだけでも大変なんですよ。にも関わらず読み込んで、咀嚼した上で自分の会社に当てはめてどうすればいいんだろう、と考えてましたよね。
山崎:長期プロジェクトになるのは承知で、やるからには、との思いと覚悟を決めて取り組みました。
小室:それ、やりとりのコメントから感じていましたよ。真正面から取り組まれていることが伝わってきたので、思わず私もサポートに熱が入ってしまいました。
山崎:でも、どれだけ読み込んでも、法律で許される限界値というか、ギリギリのラインがやはりわからなかったです。それが作成プロセスの中でいちばん難しかったところですね。
小室:法律の範囲内でやりたいことがどこまでできるか、の詰めの部分ですよね。ワンテーマごとにありましたもんね。途中で一度、お打ち合わせにもいらっしゃったし。
山崎:あの時はオンラインでは解消できない程の何かが自分の中に溜まってしまってました(笑)。所謂グレーゾーンのあらゆるパターンが頭を駆けめぐりすぎてました。お時間をいただき直接質問をぶつけて、それでようやく整理されました。
会社がリスクをとってでも、生産性を高める職場を創りたい
小室:ふつうあそこまではなかなかできないものですけど、山崎さんをあそこまで駆り立てる原動力というのが…
山崎:前回もお話しましたが、やはり代表の思いが大きいですね。沖山はすごく従業員のことを思っていますし、同時に法律のこともしっかりわきまえています。だから法の範囲内でやりたいことを実現するためにシンプルな規則にできるか。さらに沖山は表現にまでこだわっていましたから。
小室:そうですよね。いかに読み手のわかりやすい表現にできるか。言葉としては理解できてもイメージしにくい、ということで、最終的に社員がわかりやすいように文言を変えたいというオーダーまでいただいて。
山崎:当たり前かもしれませんが、やっぱり難しい言葉が多いじゃないですか。なので、できる限り読み手にわかりやすく記載し、ここはどういう意味なんだろう、と疑問が生まれそうなところには予め解説をつけたりしました。
小室:あと、いろいろ削りましたよね。
山崎:そうですね、例えば服務規程。会社勤めの基本的なルールですが、18項目のうち10項目削ることになりました。
小室:普通は削りませんよ、服務規定。定めておいて会社にリスクがあるものではないので、みなさん一応入れておくんです。最初に提示した18項目だって、そんなに多くないんですが、あ、そこ削るんだ…って(笑)。社員を信用しているんだなって思いました。
山崎:会社がリスクをとってでも社員の働きやすさ、生産性を高める職場にしたい、という代表の思いなんですよね。あと、ダブルスタンダードを良しとしないタイプ。だからテーマごとに根本的に、本質的に考え抜いて現状にあったものに仕上げていきました。
小室:ここまでやりきったからこそ、社員のみなさんも納得する就業規則ができるんですね。アイリスさんはまさにケーススタディと言えるかもしれません。
(つづきます)
[取材・文] 早川 博通