- 2021.04.15
こんにちは、A.C.O. Journal編集部です。
近年、デジタルサービスにおいて、ユーザーファーストな設計を取り入れてUXを向上させることは非常に重要視されています。しかし、同時にデザイン領域で重要視しなければならないことが“ブランディング”の観点です。
良いサービスを生み出すためには、サービスを運用するチーム・組織がその独自性を理解し、サービス・商品に対して熱烈な存在意義を感じて提供し続けることが欠かせません。
なぜなら、サービスの存在意義を正しく理解できないまま、ロゴを考え、機能を考え、UIをデザインしていくことはデザインを扱う上で非常に危険な行為であり、結果的にデザインの価値を最大化することができないからです。
A.C.O.では、クライアントである日商エレクトロニクス様(以下、日商エレ)とともに、約5ヶ月間に及ぶブランド開発のプロジェクトを実施。当初はWebサイト制作の依頼でしたが、「ブランド開発」のプロジェクトに発展し、8つの事業が持つアプリケーションをワンブランドとして統合しました。今回は、ゲストスピーカーにプロジェクトオーナーでもある日商エレ長谷川様を招き、UXディレクターの川北、アートディレクターの沖山がブランド開発プロジェクトの中で実際に行ったワークショップや、そこから得られた気づき、ブランド開発後の成果について、お話いただきました。
今回は、2月に実施されたウェビナーの様子をレポートします。
登壇者・プロジェクトでの役割
- A.C.O.川北:UXディレクター、ワークショップ設計
- A.C.O.沖山:アートディレクター
- A.C.O.小林:デザイナー、ウェビナーファシリテーター
- 日商エレクトロニクス長谷川様:日商エレクトロニクス「Natic」プロジェクトオーナー
プロジェクトの背景
長谷川さん:日商エレは総合商社双日の中核グループ会社としてICT事業を国内外に展開している企業です。これまでは主に海外の最先端IT技術を探し出し、ローカライズを行い、いち早く日本やアジアに展開することを得意としてきました。
今回のウェビナーの中心となるのが、弊社のアプリケーションに関する事業です。当初は新規ビジネスの立ち上げにあたり、UI/UXを意識したウェブサイト開発に定評のあるモンスター・ラボグループへ問い合わせをしたことがきっかけでした。具体的な提案のフェーズでは、アプリケーション事業の事業戦略についても説明する場がありました。我々が考えていた事業戦略は、異なる8つのソリューションをまとめて新しいバリューを市場に展開するというものでした。
事業戦略を考える上で、弊社がが抱えていた課題は、「事業をまとめて統一感を出すこと」「社内の縦割りの壁を取り除いて、蛸壺化を解消すること」の大きく2点でした。
これらの課題感を共有していく中で、ウェブサイト開発の前に、まずはブランド開発が必要なのではないかという方向に行き着いたのです。
ブランド開発ワークショップのプロセス
続いてプロジェクトのワークショップ設計を行ったA.C.O. UXディレクターの川北から、実際に課題解決のために行ったプロセスを紹介しました。
川北:ワークショップのプログラムのポイントは、「メンバーが同じ方向を向いて一緒に考えることができる状態をつくること」「8つの事業を統合したらどうなるのか、未来の姿を考えること」です。これらを元に具体的なワークのプログラムを設計していきました。
実際のワークの様子を写真で紹介していきます。
初日はチームビルディングのワークからはじめ、参加メンバーがお互いを知る機会をつくりました。また、ブランディングのプロジェクトなので、「ブランドを作るとはどういうことなのか」というテーマで、ブランドについての理解を深めるための説明の時間を設けました。
チームビルディングのワークショップの様子
ブランドの考え方についての説明の様子
ペルソナ・ユーザーストーリー・事業の理解
川北:2日目からは本格的なワークに入っていき、まずは8つの事業で取り組んでいることや特徴・強みを一つずつ理解していくところから始まりました。かなり複雑な内容だったため、日商エレのメンバーからA.C.O.のメンバーに説明をしていただき、まとめていく形をとりました。
沖山:私も実際にワークに参加しましたが、はじめて聞く言葉がたくさんあり、事業理解をしないと進められない状況の中、いかにインプットを進めていくか、かなり試行錯誤しました。日商エレの皆さんに勉強会を開いていただいたり、カンペカードを作り会話の中で見ながらインプットしたりしました。事業理解とインプットにはかなりの時間をかけましたね。
川北:日商エレ側のメンバーに事業の説明をしてもらいながら、「どんな人がどのように使うものなのか・使った人たちはどんな気持ちになるのか」のユーザーストーリーを作って可視化をしていきました。ペルソナ、機能、機能的な価値、利用シーン、ユーザーの感情を出してく作業をワークショップ形式で実施し、各事業を理解するシートを作りました。
長谷川さん:社内ではなかなかやらないことなので、普段他の事業部でどのようなことをやっているかがあまり見えておらず、お互いのことを知ることがきた良い試みでしたね。改めて自社の事業についての考えが深められたワークになったと思います。
未来についてを考えるワーク
川北:そしてもう1つ、未来についてを考えるワークを実施しました。これは「日商エレの8つの事業を統合したらどうなるのか、2030年に向けてどうなっていきたいか」という像を描き、サービスが差別化できることを出し合うワークです。
川北:少し先の未来だと現実的なところしか出てこないのですが、2030年まで視野を広げると発想が広がり、チャレンジしたいことやこんなこともできるんじゃないかというアイデアが出てきました。自分たちの会社がどうなっていくかだけでなく、社会の中でどういう存在になりたいかも考えていきました。8つの事業が組み合わせて、1つのプラットフォームになったら、技術も進化したら、これは差別化になるよねというところまでジャンプできました。
日商エレクトロニクスの組織の強み
川北:次に、ブランド開発のワークに入っていきました。ブランド開発のワークはブランドバリューを見つけるための「日商エレにしかないブランドの価値を見つけるワーク」と、ブランドパーソナリティを見つけるための「ブランドらしさを見つけるワーク」2つを実施しました。
特に2つ目のワークは、サービスのブランドらしさをみつけるという感覚的なワークショップとなりました。
大きく空間を使ったワークショップなのですが、空間そのものを演出することも私たちとしてはすごく大事に思っていて、みんなの気持ちを高めるためにやっています。今はオンラインのホワイトボードのツールなどを使ってこういう場を再現しています。
沖山:この後、ワークショップの前半で出てきた機能的価値・情緒的(感情的)価値を絞り込んでいく作業をしていきます。 機能で何ができるかはわかりやすい特徴にはなりますが、ブランドを考えていく上ではそこに生まれる感情も重要なポイントとなります。機能と感情の2つの要素を絞り出し、特徴や他との違いを見つけていくことができました。
ブランドパーソナリティ
川北:ブランドパーソナリティのワークでは、「このサービスがもし人だとしたら、どんな人だろう?」と、性格や職業、色など感覚的な要素から人格を探っていきました。
長谷川さん:今までサービスやソリューションを人や性格、職業に例えるようなことは考えたこともなかったので最初は戸惑いました。ただ結果として大きな特徴も出てきて面白かったです。
ブランドポジショニング
川北:最後のワークは日商エレのサービスが競合他社と比べて圧倒的な優位性を持つための軸を考えるというものでしたが、これが一番難しいものでした。
意識が変わったターニングポイント
長谷川さん:全体を通して良いものだったと思っていますが、特に序盤のペルソナやユーザーストーリーを考えるワークが特に印象的で、当社側の意識が大きく変わったターニングポイントになったと思います。A.C.O.と議論できたことが面白かったですね。元々は我々のプロダクトを良く知らないA.C.O側のメンバーが一生懸命、内容を理解しようと予習した上で一緒に議論してくれた点は最初は驚きましたし、とても印象に残っています。A.C.Oのメンバーから「それってすごく便利な機能ですね。」と言われることで、売り手・作り手の視点ではなく、使う方の視点で考えることができました。また、他部署の仕事内容が理解できたことは当社メンバーにとっても良かったようです。参加していたメンバーの意識が変わってきた部分が見えたと思います。
自社だけで考えると、機能視点やサプライヤーの視点だけで考えがちな部分ですが、A.C.O.が入ったことで、顧客視点・顧客中心設計に基づいて価値を考えることができたターニングポイントとなりました。
小林:A.C.O.としても特に意識した点は顧客中心設計で考えるということで、機能面だけではなくどのような感情かを深掘ってワークができたことはとてもよかったです。
ブランドステートメント
沖山:ここまで色んな視点でブランドを捉えようとするためにワークを行ってきましたが、これを次の段階としては一つにまとめて活用できる形に落としていかなければいけません。それを、我々のブランドプロジェクトでは、ブランドステートメントの開発と呼んでいます。
一般的にブランドステートメントとは、ブランドのミッションや価値観、哲学や存在意義、そういう、企業でいうと「企業理念」みたいなものをそれぞれ分解して整理し、明文化してこのブランドに関わる全ての人に理解してもらおうとするものです。作り方や位置付けはブランドによっていろいろありますが、今回は特に組織内で共感し共有できるものであるべきだと位置付けていました。そういう狙いからも、ビジョンに関しては、我々がああだこうだと言って色付けされないよう長谷川さんに考えてきて欲しい、とお願いしました。A.C.O.だけで色付けをせず、長谷川さん自身の想いが乗っかることによってリーダーの強い意志がつたわるものとなり、メンバー一同目指すところがはっきりしました。
小林:全体像が見えて、伝えられる内容になったということが大きいなと思いました。ストーリーのように広まっていくブランドステートメントであれば、ワークショップに参加できていない人にもブランドを説明できるようになりますよね。ブランドの説明書ができたような感じだったのかと思いました。
ビジュアルデザインコンセプト
沖山:言葉として整理をした後は、ビジュアルに落とし込んでいくフェーズとなっていきます。ステートメントは言葉のデザインになりますが、それらをビジュアルでも表現していかなければなりません。大事にしたいとこだわっていた部分はNaticがどんな成り立ちであるのかを視覚的に受け取れるようにすることです。そのために表現を探りました。Naticのサービスを構造的に表現した瞬間がワークの中にあり(下左図参照)、組み合わせの仕方でいくらでも可能性が広がるということがわかっていきました。今あるものから増えてもさらに可能性が広がっていくような。これはNaticならではの特徴であり、大きな魅力なので「独立した一つ一つの要素が組み合わされる姿・その可能性」これをビジュアルコミュニケーションの起点として据えて考えていきました。
そこから、「Kinetic Combination」というデザインコンセプトが提案されました。 Kineticという言葉には「躍動感」「変化」「ワクワク感」という意味がこめられています。
長谷川さん:ワークで出てきた図というのはまさに私が作った図だったんですよね。組み合わせていきたい、という話だけしていたので、提案時はどんなビジュアルになるんだろうと思っていました。実際に沖山さんに提案いただいたときはビジュアルに落とし込まれていて、感動しました。我々の中でも、その後のロゴやVIに対する期待感が高まっていった瞬間でしたね。
幾何学模様は動き、様々に形を変えていくアニメーションも制作された
扇形のモチーフは日商エレのコーポレートロゴの一部分を切り取り、社のアイデンティティを取り込んだ
プロジェクトに対するお客様の声
長谷川さん:ブランド開発後、Webサイト制作のフェーズも進行していきました。当社は創業50年を超える決して若くない企業ですが、創業当初の事業に源流があるプロダクトや事業は今も形を変えて続けていたり、一方で最近のDXに関連するような最先端技術を活用したアプリもあります。私としては、古くから継続しているものと新しいものをうまく組み合わせて表現してしてほしいというオーダーをさせて頂きました。そのオーダーを本当にうまく表現頂いたと感じています。 そして、制作した「Natic」ブランドは、日商エレ社内で育てられており、ノベルティとしてもどんどん増えています。
日商エレ社内でノベルティを制作された様子
沖山:一緒に納品したデザインガイドラインは、内部で活用いただけるように制作したものだったので本当に嬉しかったです。中の人たちの手でどんどん自分たちのものにしていただけるのは、デザイナーの手から離れて、皆さんのものになった何よりの証であり目指していた姿です。
川北:私はアウトプットとなる前の支援を中心としていましたが、社内でどう自分ごと化をし、どのようにブランドを広めていけるかということも課題の一つだったので、結果として自分たちでブランドを広めていこうという活動は非常に嬉しかったです。
長谷川さん:今後も継続的に色々な活動をしていき、ブランド自体を社内のカルチャーとしても育てていきたいと思っています。今考えているのは部内に若手メンバー中心のカルチャーシェアドチームを作り、そのチーム内で毎月チームNaticオフィサー(CNO)を1名選出し、CNO中心に毎月、Naticの考え方が浸透するようなアクションを何でも良いので企画してやってもらおうということも考えています。
終わりに
今回は、日商エレ様を招いたブランド開発プロジェクトのウェビナーの様子をレポートしました。ブランディングをご検討している企業のご担当者の方はぜひ、お問い合わせください。
また、協力し合うこと、考えることが好きな人、A.C.O.の考え方に共感しご興味を持っていただけた方はぜひ、Wantedlyよりご応募ください!お待ちしています。
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