- Natsu Kawakita
- 2021.02.19
こんにちは、UXIA部の川北です。前回の記事ではA.C.O.でおこなっているブランド開発の考え方を紹介しました。今回は、UXデザインとブランド開発をつなげるBXプロセスについてお話します。
A.C.O.のBXプロセスができた背景
私がUXデザインのプロセスを取り入れたサービス開発のプロジェクトを初めておこなったのは2017年でした。当時は、ユーザー調査をして課題を抽出し、解決する機能アイデアを考えてプロトタイプをつくるところまでを1つのフェーズとし、サービスをどのようなブランドにするかは、次のフェーズとしていました。ですが、ブランドのフェーズになってから、クライアントにデザインコンセプトを何パターンも提案したり、ロゴやカラーの調整が何度も繰り返された経験があります。
クライアントとチーム一丸となってサービスのコンセプト、アイデアを考え、プロトタイプを作ってきたけれど、具体的にサービスのビジュアルデザインを作る段階になったらクライアントと一緒に考えることができなくなってしまった。この状況に直面したことから、UXデザインからビジュアルデザインの間には大きな溝があると感じました。そして、この大きな溝を埋めないといいサービスは作れないと思いました。そこで、アートディレクター 沖山に相談をして、現在のBXプロセスを考えました。
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A.C.O.のBXプロセスは以下の5つのフェーズで構成されています。
- 1.プロジェクト設計
- 2.ユーザー調査
- 3.サービス機能開発
- 4.ブランド開発
- 5.ビジュアルアイデンティティ(VI)開発
みなさんがサービスを開発するときに行っているプロセスと比較するといかがでしょうか?ユーザー調査をして課題を抽出し、機能アイデアを考えて、画面のデザインを作るのが一般的に行われているUXデザインのプロセスかと思います。
BXプロセスの特徴は、UXデザインのプロセスとVI開発のプロセスの間にブランド開発を行っていることです。
A.C.O.のBXプロセス
2017年当時のプロセスでは、機能アイデア開発の後にVI開発を行っていました。ここに大きな溝がありました。
UXデザインプロセスとビジュアルデザインのプロセスの間にある溝を埋めるということ
UXデザインのプロセスでは、ユーザーの課題に対してアイデアを考え、プロトタイプを作ります。そして、サービスのコンセプトや機能アイデアに対して受容性があるか、ユーザー検証をして、サービスの価値を確かめ、企業の中で承認フローなどを経て、やっと本開発のための制作がスタートします。
今まではデザインコンセプト、ロゴやカラーなどのビジュアルデザインは、本開発のフェーズになってから考えていました。サービスを市場に出すときには、必ず必要になるデザインを機能とは別のもののように考えていたので溝ができていたのです。
では、本来、どのようにあるべきなのでしょうか?
ビジュアルデザインはアウトプットとしてはロゴや画面デザインですが、サービスのコンセプトやビジョン・ミッションが詰まって可視化されている状態であるのが理想の形です。そして、機能もサービスのコンセプトに沿っているもので、サービスのビジョン・ミッションを実現するものであるはずです。
機能とデザインは目指すものが同じ。その2人は一緒にいる、いくべき場所がないと迷子になってしまう。
つまり、UXデザインプロセスとビジュアルデザインのプロセスの溝を埋めるためには、サービスのビジョン・ミッションといったブランドの方針が必要だということです。そのブランドの方針を項目化し、プロセスに組み込んだものがA.C.O.のBXプロセスになります。
強いブランド体験を成功させるためのプロセス
BXプロセスの内容を簡単にご紹介します。
1.プロジェクト設計
まず初めに、プロジェクトの目的・ゴールを設定し、進め方を決めます。いつまでに何をするのか、どのように進めるのか、誰が参加するのか、役割は何か、アウトプットは何かなど、チームメンバーで認識を合わせます。理解を深めるために現サービス調査、競合調査、概況調査などもおこないます。
成果物例:プロジェクト計画書、現状調査・競合調査資料
2.ユーザー調査
ユーザーのニーズは何か、タッチポイントはどこにあるのかなどの観点でユーザー調査を実施して、課題を抽出します。クライアント側で情報を持っている場合には既存の情報を活用していくため、ユーザー調査は必須ではありません。
成果物例:ペルソナ、カスタマージャーニーマップ、ユーザー調査設計資料、ユーザー調査結果資料
3.サービス機能開発
ユーザー調査を通して抽出した課題に対して機能アイデアを考えます。 カスタマージャーニーマップにユーザーの課題をプロットし、サービスが解決すべき課題を定めていきます。その後、課題に対して解決するアイデアを出し、MVPを決定後、プロトタイプを作成してユーザー検証を行います。
成果物例:ストーリーボード、ユーザーストーリーマッピング、モックアップ
機能アイデア開発についてもっと詳しく知りたい方は、「意外と知らないUXデザイン」シリーズをご覧ください。
4.ブランド開発
サービスのブランド “らしさ”を言語化する作業です。A.C.O.のブランド開発では、ターゲット、サービスベネフィット、目的・意義、属性と価値、パーソナリティなど10項目を言語化します。チームでのワークを通して、ブランドの目的や意識を明らかにしていきます。
属性から価値を絞り込むワーク
UXデザインプロセスで出てきたアウトプットは方針がなく、差別化がないまま進んでいることがあります。そのため、MVPを決定するときに機能を捨てたくない、優先順位がつかない、決められないという状況になってしまうこともあります。
ブランド開発ではターゲットやサービスベネフィットを整理し、ビジョン・ミッション・バリューを言語化します。これらのブランドステートメントは機能を見直すための指針になります。強い指針を持つことで「やれるけどやらない」選択肢を作ることができます。そして、この指針はビジュアルデザインにも落とし込まれていきます。
日商エレクトロニクス: Naticのブランドステートメント
5.ビジュアルアイデンティティ(VI)開発
機能開発、ブランド開発を通して、ブランドの方針ができました。VI開発では、これまで、ことばで整理してきたことをデザインコンセプト、ロゴ、カラーパレットなどビジュアルとして表現します。
以上がBXプロセスです。
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最初のフェーズからUXデザイナーとビジュアル・UIデザイナーが伴走する意味
ブランド体験を成功させるためのプロセスについて紹介をしてきましたが、もう一つの重要なポイントは実行するチームの体制です。BXプロセスでは、UXデザイナーとビジュアル・UIデザイナーが一緒に伴走して進めていきます。この体制によって、調査や理解する上で得た情報から機能、価値を言語化し、ビジュアルに落とし込むところまで一貫して作ることができます。
A.C.O.のサービス開発のプロセスとメンバーのアサイン
ビジュアルデザインを後のフェーズで提案していた頃を思い返すと、体制にも溝があったと気付きました。以前のプロセスでは、ユーザー調査や機能アイデアが決まった後に、ビジュアルのデザインを作るデザイナーをアサインしていました。デザイナーにとっては、デザインを制作する上で、情報は揃っていたが、Why(なぜ?)の部分がはっきりしていなかったので迷いながら作っている状況になっていました。もっと早くからクライアントの考えや求められていることを知っていれば、考え方を捉え直す提案ができたのではないかと思います。
そして、クライアントにとって、デザインコンセプトやロゴ、カラーや画面など、デザインは突然出てくるものという印象だったのではないでしょうか。だからこれでいいという判断ができず、迷いが生じてしまったのではないかと思います。BXプロセスでは、一緒に考えてきたことや大事なことを事前情報とし、理解が一緒である上で提案します。そのため、クライアントと基礎の部分から一緒に作るので納得感も違ってきます。
プロセスでも体制でも、UXデザインとビジュアルデザインのフェーズをわけないことが強いブランド体験をつくることにつながります。
このようなプロセスとプロセスの間にある溝は気づかなければそのまま進めてしまうことができます。1つの型にとらわれず、常にアップデートすることで、自ら問題と向き合い変えようと思えば変えることができます。もう一度、既存のプロセスや体制を見直してみるともっとうまくいく方法や新しい気づきが見つかるかもしれません。
A.C.O.では一緒に考えてつくるメンバーを募集しています。
UXデザインからブランド、ビジュアル開発まで、一貫したプロセスを提供するために強いチームが必要です。UXデザインのプロセスを実行できる、ブランドステートメントやビジュアルの提案が得意であるなど自分の力を活かせるのではないかと思った方はぜひエントリーしてください。協力し合うこと、考えることが好きな人、A.C.O.の考え方に共感し共に働いてくれる方のご応募、お待ちしています!
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by Natsu Kawakita
静岡大学情報学部卒業。情報科学芸術大学院大学(IAMAS) メディア表現研究科修士課程修了。作品制作・展示活動、広告制作会社勤務を経て、現在に至る。UXデザイン、情報設計担当。UX/IA部マネージャー。