こんにちは、A.C.O. Journal編集部です。突然ですが、みなさんデザイナーってどういう仕事かご存知ですか? 私がイメージするデザイナーは、何となく絵が上手くて、イメージを形にしてくれて、普段着も格好いいけどちょっとこだわりの強い人というイメージでした。 では、絵が描けない人はデザイナーには成れないのかというとそうでもなかったりします。
実は以前、私が全くデザインとは関係ない仕事をしていたときに、とある優秀なデザイナーから「デザイン思考だけで言うとデザイナーそのものですよね!」と言われたことがあります。「デザイン思考」とはどういうことだろうと調べてみたところ、そもそも「デザイン」とは「設計」することという意味を持っていて、何かの目的を達成するために必要な要素や感情を元にした考察要素などをロジカルに、ラテラル(水平思考)に積み上げていくことを指すのですが、そういった考え方をあらゆるところで発揮できるマインドが「デザイン思考」と呼ばれるようです。
今回は、この「デザインする」というテーマをデザイン思考的にロジカルに読み解いていこうと思います。
ビジネス/サービスをデザインする
ここ数年、ビジネスやサービスを生み出す現場においてデザイン&デザイナーの重要性が高まっています。私の理解では、ここで言われているデザインも、いわゆるデザイン思考ができるデザイナーが求められているということではないでしょうか。その理由を深掘りしていきましょう。
なぜデザインするのか
なぜビジネスやサービスを「デザインする」のでしょうか? もう一度振り返ってみますが、デザインする=何かの目的を達成するために必要な要素を”ロジカルに”積み上げていく=目的達成のための要素を設計するということです。ビジネスやサービスは提供者側が何かしらの目的達成のために生み出すものなので、その目的を達成するための要素をロジカルに設計できるデザイナーは重要な役割を担うというわけです。特にサービスをデザインする上では、そもそも企業が目的としているビジネス上の目的をどう達成すべきなのかという「サービスの目的」が見えていないケースがあるため、より重要性が増します。
たとえば、クライアント企業のビジネス上の目的が「ある家事サービスを、求められている家庭に届けること」だとします。いわゆる家事代行事業者などのビジネスですね。このビジネスを行うためのWebサービスを提供する場合、そのサービスの目的は何でしょうか?利用者に対するプロモーションのみ?見積もりまでさせたい?代行業者を募集したい?もしかすると代行業者と利用者をマッチングするためのサービスかもしれません。こういったサービスの目的を明確にしていくこと、明確化した目的を達成するための設計をしていくことこそ「デザイン」することなのです。
なぜデザイナーが必要なのか
逆にデザインできる人がいないチームでは何が困るのでしょうか?先ほどの例で言うと、サービスの目的が明確化されていない状態でサービスの仕様が決められてしまう可能性があります。多分デザイナーがいない状態でも一部のメンバーがビジネスの目的から想定したサービスの設計をするため、全く的外れにはならないかもしれません。ただ、その一部のメンバーはロジカルに設計出来ているのでしょうか?ロジカルであることは何らかの形でアウトプット出来ることでもあります。例えば、資料を見れば誰がみてもサービスの設計根拠が明確に分かる。だからチームの誰もが同じ目線でサービスを作り上げることが出来る。この状況を作ることがデザイナーの役割なのです。
理想のデザインとは
理想のデザインとは、「全ての要素が根拠に基づいてロジカルに設計されている」ことだと私は考えます。つまり、ビジネスの成り立ちを知り、目的を知り、そのために必要とされる要素をロジカルに繋ぎ合わせてサービスを設計し、そのサービスを届ける人に向けたプロモーションや実際に使う際のUIを根拠を持って設計し、実際に利用者によって使われた際の実績を分析することで更に精度の高い根拠をもってサービス設計の見直しを行うこと、これら全てにおいてロジカルであり、その様がアウトプットされた情報によって共通認識を持てる状態こそ理想のデザインと言えるのではないでしょうか。
クライアントが求めているものって何?誰が知っているの?
ビジネス/サービスをデザインするということが何となく分かってきたところで、デザイナーがロジカルに設計するための目標地点「ゴール」が重要だということが分かってくると思います。先に述べた「理想のデザイン」の要素である”ビジネスの成り立ちを知り、目的を知り、誰に届けたいのかを知る”ことから全てが始まります。
クライアントのことを知る
では、どこから始めるべきかというと「クライアントのことを知る」ことから全てが始まります。このビジネスをどういった目的で始めようとしているのかを知っているのはクライアントだけです。ただ、そのビジネスを始めるに至った経緯をヒアリングするだけでは本質を見極めることが出来ないケースもあるため、以下を理解することがポイントになります。
- クライアントが普段どのようなビジネスを行なっているのか
- 何を重視したサービス提供を行なっているのか
- 誰に対して何を提供しているのか
- 今回は今までと同じなのかそれとも違っているのか
- とすればなぜ今回は今までと違ったものを提供しようとしているのか
これらの成り立ちを深く理解する必要があります。
実はこういった深掘りはヒアリング以外でも行うことができるため、私が過去にデザイナー教育の課題として出した題材をご紹介します。
課題:「大手製菓業界3社のホームページを見て、各社が何故今の構成にしているか分析したレポートを提出しなさい」
まずこの課題を解くためには大手製菓業界3社の規模・売り上げ・得意分野などを調査する必要があります。そうすると、ある製菓業界は元々の成り立ちが乳製品の専売から成長して多種多様な菓子を扱う会社に成長したことが分かりました。この会社のホームページで乳製品が主要な位置を占めていること、また実際に乳製品が売り上げにおいて相当な割合を占めること、会社としても乳製品にこだわりがあることが読み解けました。こういった調査なく構成見直しを設計した場合、乳製品を重要視しない構成になってしまう可能性がありますし、こういった背景を理解した上で乳製品以外のものを強く推す構成にすることを提案する場合には、クライアントにその必要性を理解してもらうためのロジカルな説明が必要となります。このように、ヒアリング以外の方法も用いるなど、何をおいても第一にクライアントのことをしっかり理解することから始めましょう。
クライアントがこれまで考えてきたことを知る
クライアント自身のことを知ったら、次は今クライアントが考えているビジネス/サービスを知ることが必要となります。当然クライアントは、何か理由があってビジネス/サービスを開始しようと思い立ち相談にきているため、クライアント内でも色々考え、設計した内容があるはずです。まずはクライアントが考えてきたことをフラットに聞いた上で整理しましょう。あくまでここでは整理するのみにこだわることをお薦めします。なぜなら、デザイナーはこの後、得たさまざまな情報を元にして明らかとなっている点を明確にしたり、仮説を立てたり情報設計を進めていくことになります。現時点で行うべきはそのための材料となる”情報をありのまま記録すること”です。今やろうとしていることは、「クライアントがこれまで考えてきたことを知る」ことなので、その点を重視して整理していきましょう。
クライアントが目指すものの本質を知る
さて、ここまでの工程でクライアントがこれまで行なってきたビジネスそのものや、そこからなぜ今回のビジネスに至ったのかといった経緯など様々なことが分かりました。ここまでの過程においても、ヒアリングした情報・調査した情報を分かりやすく整理してまとめるという工程でデザイナーの持つロジカルさが役立つことになりますし、そのための手法や記述方法などデザイナー以外でも使いこなせるものが多々あります(マインドマップなど)。ただ、デザイナーがデザイン思考を活かすことができるのはここから先の本質を知るという部分にあります。デザイナーが本質を知るという点において優れているのは、様々な観点からクライアント自身ですら気付いていなかったことを導き出すということができるという点にあります。クライアント自身も、ヒアリングしたこちら側も”何となく分かっている”状態のまま進んでしまうことが通常多いのですが、これを様々な手法により明らかにして可視化することで、誰もが納得する本質を明文化・ビジュアル化することがデザイナー最大のミッションなのです。
後編ではチームメンバーの役割を理解したプロセスの進め方について、ご紹介します。後編もぜひ、ご覧ください。
Cover illustration by Narumi Kihira