企業の多くが「We Problem(私たちの問題)」を抱えてコミュニケーションをしている
クリエイティブ・ディレクターのJBです。
今回は、これまで携わってきたコーポレートサイトのプロジェクトで、主にB2B企業に向けて提案してきたコミュニケーション戦略について、私自身のナレッジを紹介したいと思っています。
これまで関わってきたクライアントの多くは、コーポレートサイトにおいて共通したコミュニケーションの方法を用いていることが分かりました。それは何かといえば、自らのWebサイトで自分自身について語っているということです。
ちなみに、それはどういうことかというと…、
- 能力や実力について話す。 例えば「総合的なコンサルティングを提供しています」
- 強みについて話す。 例えば「私たちは最高品質を生み出します」
- 独自性について話す。 例えば「私たちは、独自のサービスを提供しています」
- スペックについて話す。 例えば「私たちは、世界12カ所に拠点を持っています」
このような状況を、「We Problem(私たちの問題)」と呼びます。
もしも、あなたの企業がこのようなコミュニケーションを取っているならば、あなたの顧客やユーザーの最初の反応は、おそらく「だから何でしょうか?」となるでしょう。それは問題です。
コーポレートサイトは企業のことを知ってもらう場ですから、どのメッセージも悪いことではありません。しかし、自分たち自身について話すことに加えて、それによって生まれる価値も伝えなければなりません。これは基本的なマーケティングの手法です。しかし、多くの(特にB2B)企業はまだこれを実践できていません。
私はあなたの企業の利点を、どのような考え方で伝えたらいいのか、そのことを説明するために役立つ簡単な図を持っています。その図を見る前に、架空の会社を想像してみましょう。
だれにとっての価値? を、ちゃんと考えてみる
株式会社ベストグリップという企業があるとします。彼らは自動車用のタイヤを製造していて、直接的な顧客は他の自動車メーカーになります。ベストグリップ社のWebサイトでは、高品質で革新的な製造技術をもち、業界で最もグリップ力が高い安全なタイヤを提供していると話しています。そこには「We Problem」があります。
ベストグリップ社の製品は、確かにクオリティは高いのですが、タイヤ単体ではその価値を創造しづらいといえます。なぜなら、一般的にはタイヤだけで使用する機会はほとんどありませんし、自動車と運転手がいることでその魅力を発揮できるからです。だからこそ、自分たちの製品や技術だけじゃなく、自社製品が顧客に対してできることに焦点を移せば、その価値は高まるといえます。
例えば、「業界で最もグリップ力が高いタイヤを製造する」と言う代わりに、「当社の部品を使用することで、安心に乗れる自動車を作ることができます」と伝えるのです。
つまり、「私たち」の話から、「あなた(顧客)」への話に切り替えて、顧客のための価値を見極めて話してください。そのことで、より魅力的なコミュニケーションが生まれ、ユーザーからの反応を「だから何でしょうか?」から「なるほど、興味が湧いた」ということに変えることができます。しかし、それで終わりではありません。
自動車メーカーが製造した自動車を買うのは誰でしょう? そして、より安全な自動車は自動車を購入する人にとって何を意味するのでしょう? それは、より良いグリップ力によって、良いドライビング体験をドライバーに提供するということです。
そのように、最終的な消費者が得られる価値について話すことで、あなたは本来自動車メーカーが持っているアピールポイントを活用することができます。つまり、ベストグリップ社は”私たちのグリップ力が高いタイヤは、安全な素晴らしいドライビング体験を生み出します”と言うことができるのです。
ここまでは、「私たち」から「あなた」へ、そして「消費者」の最終体験について話しを移すことの大切さを紹介してきました。しかし、さらにその先へ進むこともできます。
個々のドライビング体験だけではなく、何千、何万人もの人々がベストグリップ社のタイヤによって恩恵を受けられるような、総合的なメリットを導くこともできます。
例えば、「今よりもっと安全なタイヤを使用する人が増えれば、道路がもっと安心できる場所になります。だから私たちのタイヤ製造技術は、ドライバーや歩行者はもちろん、安心できる世の中をつくるために貢献しているのです」といったように繋がっていきます。
そのようなベストグリップ社の社会的な価値は、一般消費者だけじゃなく、投資家などのエグゼクティブレベルのユーザーに対しても、ESGやSDGsの観点で重要なメッセージを伝えることにもひと役かってくれるはずです。
提供価値の拡張性がひと目でわかる「バリュー・コミュニケーション・ピラミッド」を活用
ここまでの話で、「私たち」「あなた(顧客)」「消費者」、そして「社会」へと話の視点を変えることによって、その価値が高まっていくことを分かっていただけたと思います。
この概念について私がクライアントと話す際は、クライアントを下に、社会を上にした、逆ピラミッドの図をよく使用しています。私はこれを「バリュー・コミュニケーション・ピラミッド」と呼んでいます。
多くの企業は、一番下の「We」のセクションだけを使いコミュニケーションをしています。これは弱いコミュニケーションなので、上方に拡大することによって、より多くのステークホルダーに向けて大きな価値を伝えることができます。
ただし、Webサイトの目的は様々なので、ピラミッドのセクションもそれに合わせて焦点を絞る必要があります。例えば、マーケティングWebサイトでは、下位3つの「We」「You」「Consumer」のセクションに焦点を。コーポレートブランドのWebサイトでは、最上位の「Society」に焦点を当てて、社会に対する価値に重点を置いてコミュニケーションすることもあります。
まずは「We」のレイヤーを改善することから
ここまで説明したように、効果的なブランドコミュニケーションを実現するには、ピラミッドを上向きに拡張していくことが大切だと考えています。
とはいえ、すべてのブランドはまだまだ最下層部の「We」セクションを使用してコミュニケーションをする必要があります。しかも、この「We」セクションは、ほとんどの企業で「コーポレートブランド」と「サービス・製品」の2つの層に分けることができます。
どんな分野・業態でも、ビジネス戦略、使命、そして価値(そして他の多くの要素)が、提供するサービスと製品を決定するでしょう。 ですから、これら2つの層が揃っていることをあらためて確認することが重要です。一方で、企業が新しいサービスを創出し、新たなビジネスを獲得していくにつれて、コーポレートブランドとサービスや製品との間にギャップが生じていくことがあります。
ですから、あなたの企業が発信する提供価値が、実際のサービスと製品においても垣間見られることができたとすれば、あなたのコーポレートブランドはもっと強くなります。
あなたの企業、サービス、製品は、だれにとってどのような価値を生み出していますか?
WRITER
ジェイムズ ボウスキル / JAMES BOWSKILL
取締役CCO / CREATIVE DIRECTOR
イギリス出身。デザイナー兼プロダクションマネージャーを経て、2001年に来日。2003年にACOへ入社後、デザイナー、アートディレクター、コミュニケーションデザイナーとして活動し、様々なプロジェクトにおいて国内外の各賞を受賞。2013年〜2016年に、ACOのロンドン拠点を展開。現在は、CCO(Chief Creative Officer)として、デザイン、ブランディング、コミュニケーション戦略を軸に、グローバル企業に対してブランドコミュニケーションのコンサルティングなどを行う。グローバルレポートの執筆やセミナーも実施中。