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「テクノロジーへの興味を抑えきれませんでした。」建築設計からwebの世界へ。肉食系デザイナー 石井

デザインは表層的なファッションではなく、モノの持つ価値を最大化するためのもの

「PARTNERS」では、A.C.O.のパートナーを紹介しています。今回登場するのはデザイナーの石井宏樹。石井は建築設計事務所での意匠設計のキャリアを経てA.C.O.に入社。ロジカルな思考と作業スピードの速さを武器に活躍しています。

石井 宏樹 | HIROKI ISHII
早稲田大学創造理工学研究科建築学修了。建築設計事務所にて意匠設計の経験を経て、現在に至る。デザイン担当。デザイン部所属。

なんのために「デザイン」をするのか?を考える基礎になった『装飾は犯罪である』という思想

- 石井さんは建築設計を経てwebデザイナーへとキャリアをを歩まれてます。どのような背景でいまの仕事までたどり着かれたのでしょうか?

父が新しいもの好きだったこともあり、父が買ったWndows98の「Kid Pix Studio」というソフトで子供の頃からパソコンでよく絵を描かせてもらっていました。中高は美術部に入っていたのですが、高校で理系クラスに進学して、デザインとテクノロジーの間にある仕事がしたいと思うようになりました。そこで建築ならやりたいことができるんじゃないかと考えて、大学は建築学科に進学しました。

大学では構造計算、防災、建築基準法、工事の手法など建築設計に必要な基礎知識を学びました。そこでは毎週、図面と建築模型を製作し、教授へのプレゼンテーションをしてました。連日徹夜作業でしたね。

プレゼンテーションを繰り返すうち、コピーライティングやフォーマットがいかに重要かを学びました。一見つまらない作品も、本質を捉えたコピーをつけた途端に輝いて見えることがある。逆にどれだけ良い作品でもフォーマットが雑では誰にも見てもらえなくなることを、身をもって体感しました。


- 大学卒業後は大学院にも通っていたのですよね。

そうです。大学院に進学後は建築史を専攻しました。専門はオーストリアの近代建築史で、建築家アドルフ・ロースの著書を翻訳して出版するプロジェクトに携わっていました。ロースは19世紀末〜20世紀初頭にかけてウィーンで活躍した建築家です。(石井が出版に携わった書籍に興味のある方はこちらからどうぞ。)

ロースは建築に限らず幅広いデザイン知識をもっており、なんのために「デザイン」をするのか?ということを本質的に考える基礎になりました。彼はコンセプトや目新しさのために使いやすさを軽視する同時代の建築家たちを批判し、コルビジェをはじめとする後のモダニズムの建築家達に影響を与えた人物です。

彼の有名な言葉に「装飾は犯罪である」というものがあります。19世紀以降、今まで職人が一つ一つ作っていた装飾が大量生産されるようになりました。職人が作るクオリティとは程遠い低品質な装飾です。装飾は職人がつくるからそこ価値がある。職人のスキルがない我々はそれを真似するのではなくシンプルで質のいいものを目指すほうがよほど価値があるし、装飾をつくる手間がない分、かける時間も短くできるというのが彼の主張です。

この思考は建築に限らず、デザインの本質を捉えていると思います。デザインは表層的なファッションではなく、モノの持つ価値を最大化するためのものなんだと気付かせてくれました。

また2年間ゼミ長を務めました。プロジェクトを円滑に進めるために新しいツールを導入したり、会議体を変更するなど、地道に効率化や改善を積み重ねていきました。出版した本を売り込むために、販売促進用のチラシやブログといったものを作ったりもしていました。 大学院を卒業後は建築設計事務所へ就職し、設計・施工監理や近代建築の調査・復元などに携わりました。

テクノロジーへの興味が高じ、Webデザインの道へ

- 建築設計からWebデザインへ、キャリアチェンジを志したきっかけはなんですか?

小さい頃からコンピューターに触れていたこともあって、毎年iPhoneを買い替えるくらい新しいテクノロジーが好きでした。大学時代にアルバイトでコーディングもしていました。とはいえ、一度は自分の手で実際に建物を建ててみたいという思いもあり、建築設計事務所に入社しました。

しかしテクノロジーの進歩により、Webが実生活に与える影響は日々増え続けています。それにつれWebへの興味は高まっていきました。加えて、建築業界は古い体質が根強く残っているのに比べて、Web業界は若手が活躍するチャンスがあるという業界的な背景もあり、Webデザイナーへの転職を決意しました。

- そのなかでもA.C.O.を選んだのはどんな理由でしょうか?

WantedlyでA.C.O.を見つけて、はじめはなんとなく興味があったという理由で話を聞きにいきました。ちょうど新国立競技場や築地市場の移転などの問題で、建築業界がバッシングされることが多かった時期です。そういうことからもただデザインするだけではなく、社会にその価値を説明する努力が不可欠だと感じていたんです。ちょうどアドルフ・ロースがやっていたように。A.C.O.はそれができていると感じました。

- なるほど。A.C.O.でこれから取り組んでいきたいことはありますか

経営的な視点を理解したうえで、デザインを提案できるようにしたいです。ユーザー視点はデザインおいて重要な軸の一つですが、それだけではビジネスとして成立しない。仕事としてデザインをやっていく以上、作ったものが利益を生み出していく道筋を自分で考えられるようにならなければと考えています。

そのため決算資料の見方や、経営に関する知識を勉強しています。A.C.O.はアニュアルレポートや投資家向けのコンテンツ制作など、クライアント企業の経営に直接作用するような案件も多くあるので、そんなときに僕がクライアントやチームを牽引していけるような知識をつけていきたいです。

もちろんJava Scriptなど開発の知識もデザインする上で不可欠なので、本や記事を読んで勉強を進めています。

- デザインをするうえで、心がけていることはありますか?

ガイドラインやルールをきちんと構築したうえで、それに縛られすぎないことを意識しています。ガイドラインはもちろん大事ですが、それ以上にユーザーが使いやすいかどうかの方が重要視すべきことだと感じています。ガイドラインが良くないと感じたら、ガイドラインやルールの方を変更するべきだと思っています。

だからデザインを突き詰めていくうちにルールが整理されて、シンプルになっていくときは、すごく楽しいです。シンプルになると伝えたいメッセージがクリアになり、ユーザーに伝わりやすくなります。そういう時は出来上がったデザインも、良いものになっていることが多いですね。

それと自分の意見をはっきりと持つことも意識しています。デザインは主観的に判断せざるを得ない部分が少なからず出てきます。そんなとき正しいと思う意見を見つけたら、その意見に責任を持ち、周りにぶつけていくようにしています。「これをやったら設計と意見が食い違うけど」とか、「このデザインだとコーダーに嫌がられるかな」と思うことでも、自分が正しいことだと確信があるのであればちゃんと理論を説明して突き通していくべき。そこを妥協したら絶対に良いものはできないと思います。

「映画、音楽、飲食店…見方ひとつ変えれば、良質なインプットは普段の生活にたくさん隠れているんです」

- 普段の石井さんについてもいくつか質問させてください。いま、興味のある物事はありますか?

アドルフ・ロースの思想と真逆のようですが、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)などに興味があります。これらは言ってしまえば本物ではない「フェイク」なのですが、フェイクの技術が年々向上してきて本物との区別がどんどんつかなくなってきています。

これはデジタルだけの話ではありません。iPhoneの感覚フィードバックはハードのボタンを押してるのとほとんど変わらない感触になってきているし、建築業界でも本物とほとんど見分けがつかない木目調壁紙がどんどん開発されています。また一方ではBean to Barのチョコレートのような本物志向も発展してきていて、本物が良いもので偽物がダメという単純な価値観ではなくなってきていると感じています。

VRやARはこのフェイクの最先端なので、今までの常識をどうのように変えていくんだろうとワクワクしています。

- 趣味や好きなものはなんでしょうか?

映画が好きで、週に1本は必ず観ていますね。映画は昔の豪華な装飾が施された寺院や教会などと共通している部分があると僕は思います。どちらも無くても困らない「ムダ」なものなのに、巨額のお金と時間、そして多くの人の人生がつぎ込まれている。映画はそんな現代の文化の結晶だと思います。そうやって身近な娯楽も見方を変えて昔の文化と比較すると新しい発見が見つかったりして、より一層の興味を掻き立ててくれます。

もう一つ、純喫茶やカフェにいくのも好きです。飲食店の良いところは数百円~で五感を使った総合的な体験ができるところ。味と値段だけではなく、接客、インテリアや食器、メニュー表、立地など、すべてがデザイン可能な要素なんです。どんな戦略やコンセプトでお店を運営しているのか考えながら食事をすると楽しみが広がります。

webに限らず、良質なインプットが大量にないと、よいアウトプットはできないと思うので、普段の生活から意識的にインプットを増やすようにしています。

- 最後に、今後の働き方・暮らし方のビジョンがあれば教えてください。

好きなことを楽しくやって、それがお金を生み出せるようになれたら最高だと思います。誰もやりたくないツラい作業をやってお金がもらえるのは当たり前のことです。なので他の人はやりたがらない、できないけど自分なら楽しく出来る。そんな立場や働き方を模索していきたいです。

暮らし方でいうと、リモートワークが普及しつつありますが、家とオフィス、プライベートと仕事の関係性はもっともっと多様になる必要があると僕は思います。現代の社会にあったより良い働き方というのも同時に探していきたいですね。

色々と言いましたが、そういう理想は理想として持ちつつ、小さなことでも実現できるところから形にして行こうと思います。今すぐに100%納得のいくものができなくても、そこから常に2ランク上を狙ってチャレンジし続けることで成長していきたいです。


WRITER

長谷川 大輔(DAISUKE HASEGAWA)
INFORMATION ARCHITECT

神奈川大学工学部機械工学科を卒業。自動車内装部品メーカーにてプロダクト設計の経験を経て、現在に至る。UXデザイン、情報設計担当。UX/IA部所属。

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