はじめに、お詫びします。採用エントリーになってなくてごめんなさい、Wantedlyさん。
先日、アカデミー賞の長編アニメーション賞に、『ズートピア』が選ばれました。
去年の映画公開時、僕らが運営している「KAI-YOU.net」というWebメディアに、『ズートピア』レビュー記事を寄稿いただいたことを思い出しました。
僕の大好きなロリ漫画『こどものじかん』のとあるくだりで、インドでの教育論が紹介されます。
日本では「他人にはなるべく迷惑をかけないように」と教わるのが普通ですが、インドでは、「人は生きていく上で誰かに必ず迷惑をかけてしまうものだから、他人の迷惑を許しなさい」と教えるというもの。
文献にあたったわけではないので、尾ひれがついてるだけの解釈かもしれませんが、それが嘘か本当かはどうでもよくて、その考え方に心打たれた僕は、以来、可能な限りそれを徹底するようにしてきました。
イージーミスをことさら攻め立てたり、経験の浅さから起こる失敗をなじったりはしないようにしよう、つまりどうしても起こってしまうヒューマンエラーは、その後に反省があるのなら許すことに決めています。
ルールというものは厄介です。
裏を返せば、「自分もやってしまうミスは許そうと努める」僕は、自分が絶対にやらない言動とか、どうしても想像できない共感できない理解が及ばない発想や思考とかには、苛烈な怒りが湧いてしまうことがあります。
別に怒鳴り散らしたり殴ったりSNSで愚痴ったりなんてしないけど、自分が許せなかったことは澱のようにどんどん自分の中に溜まっていく。それはインドの教えが間違ってるんじゃなくてそれを体現しようとした自分の解釈がズレてたということでしかないけど、「自分ならやらないことは許さなくていい」なんてことには当然ならない。
『ズートピア』レビューのきっかけは、信頼関係を築いていた(ように見えた)ジュディが、ニックを手酷く傷つけてしまった後、ニックがジュディを許す場面の解釈を巡った、とある議論からでした。
「なぜニックはジュディを許したのか?」ここに引っかかってた人間の一人は僕です。一緒に観に行った女性に「好きだからに決まってるじゃん」と言われて納得もした一方、でもそう断じてしまうとこぼれるものもあると思ったのです。
原稿の冒頭で、「なぜニックはジュディを許したのか?」という問いそれ自体から、2人の関係性を決めつけすぎてないか? と須賀原みちさんは指摘しています。
彼らは相棒で、対等で、「力を貸す側と貸される側」という単純な上下関係の中にいるわけじゃない、と。「許す」と言葉にすると偉そうだけど、人は生きていくには助け合うしかないから、他人を助けなさい、他人の迷惑も受け入れなさいってことだと解釈しています。
先輩後輩だろうが、会社の部下だろうが、完全な意味での上下関係なんて存在しない。
もちろん迅速なプロジェクト遂行のためには、統括を行う人間と現場を切り盛りする人間との分担など、役割を明確にするためにも、誰が責任を負うのかははっきりさせる必要があります。部下のケツをもつのが上司の仕事です。
でも、その上で、ある目的意識をもって連帯する時、そこには「相棒である」という発想が大きな意味を持ちます。チームとして、一つの目的に立ち向かう者は、部下/上司であり相棒でもあるのです。
『ズートピア』は社会風刺が最高に効いている、強いメッセージ性がある、という論評には、正直首を傾げたくなります。
正面から描けなかったからこそ動物の皮を被せたのであり、差別をモチーフにしているけど純粋なエンタメでもあります。そして、単純な自己実現の物語でもない。
何にでもなれると思っていた楽園でも結局、キツネはキツネでウサギはウサギでしかない。だけど、自分にかかる形容詞だけは自分の力で取り替えが可能だ。「ずる賢いキツネ」を引き受けるも、「間抜けなウサギ」に甘んじるも、当人の自由———。
『ズートピア』の、挑戦してみよう、なんでもやってみようっていうメッセージはあまりに愚直で、残酷です。
でも、かけがえのない相棒となら、世界に影響を与えることができるかもしれない、他人を許すのではなく受け入れることができる多様性に満ちた世界にすることができるかもしれない、という、ささやかな抵抗。それは、祈りのようなもんだと受け取りました。
祈りに満ちた『ズートピア』の原稿に、須賀原みちさんは自分の祈りを乗せています。
緩やかに尊重しあうのはとても難しいことです。自分はこう思うけどそうじゃないかもしれない可能性に微かに思いを馳せる、それがどんなに難しいことか。
今もずっとこのことを考えています。会社として、チームとして、助け合いながら、多様性に満ちた社会にするちょっとだけでも手伝いができないかと思って、「KAI-YOU.net」を運営しています。
もし、このチームに入って、僕らのことを助けてくれるという奇特な方がいれば、いつでもご連絡ください。