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創業ストーリー 後編:「僕らのイチゴは未来を救う」日本の技術で挑む、世界最大の植物工場。

前編、後編2回に渡ってお届けするOishii Farmの創業ストーリー。
後編では、最高経営責任者(CEO)の古賀大貴(こが・ひろき)が共同創業者のブレンダンと出会い、「Oishii Farm」のブランドを確立するまでの奮闘と、目指している未来についてお届けします。

共同創業者、ブレンダンとの出会い

Oishii Farmの起業に当たっては、共同創業者のブレンダンとの出会いもとても大切な縁でした。私がMBAに行っている間、彼も別のMBAに行っていて、当時は誰も農業に興味があるMBA生がいない中、ちょうど友人から「農業に興味あるやつがいる」と紹介を受けて知り合いました。彼はその時、アフリカでアボカドオイルのスタートアップを起業していましたが、ユニコーンを目指せるテックよりのスタートアップをやりたいと考えていて、植物工場にも関心を寄せていました。私としても、アメリカで立ち上げるならば現地のパートナーが必要だと考え探していたため、意気投合。ブレンダンは植物工場自体の経験はないにせよ、シリアルアントレプレナーで、元米海軍の特殊諜報員で、機動力、実行力は非常に高く、また海軍時代に日本にも居たことがあり、日本のことを理解していることも強みでした。

MBA在学中に、ついに二人で起業。私が資金調達、ブレンダンが実際に植物工場を立ち上げるオペレーションに集中し、お互いの能力を補填しあいながらやっていきました。起業後すぐに、「LAUNCH」というUC系列のスタートアップであれば参加できるコンペに出場。日本人として初めて優勝し、資金を獲得しました。この優勝を機に、シンガポール政府派遣のインターン生を一人加え、3人で工場を建設。コンテナ購入、壁や棚やLEDや排水の設置など、ほぼ自力で作り上げました。当初1年間のインターンの予定だったシンガポール出身の彼は、「今ここでしかないチャンスだから!」と言い、当時シンガポールのトップクラスの大学在学中だったにも関わらず、中退してアメリカに残ってくれたんです。今は、それも私の一つの原動力になっています。なんとしてでも失敗できない、と。

どんなに英語ができても、この国で生まれ育っていない人間が、この国で生まれ育った人たちに本当の仲間だと思ってもらうには、熱意で心を突き動かしていかなければならない。どこまで深くまで入り込めるかで事業の進捗は変わってくる。建設一つとっても、日本とは違う難しさを感じてきましたが、ブレンダンのようなパートナーがいてくれたことは、本当の意味で、日本の会社でもありアメリカの会社でもある、ということだと感じています。


Oishiiに込められた日本のアイデンティティ

私たちが失敗したら日本の植物工場はなかったことになる、そのくらいの覚悟を背負っています。自然エネルギーや半導体など、日本は良い技術があるのにグローバル化のところで負けてしまう。同じ事が植物工場でも起きかけています。まだ日本の植物工場は世界最先端ですが、今すぐ海外にうって出て、急速に拡大をしないと手遅れになると危惧しています。それに歯止めをかけたかったのと、とにかく今までよりも良い製品を世の中に届けたい、という思いを込め、日本語の名前を残して「Oishii Farm」とそのまま社名にしました。Oishiiがついているものはなんでも美味しい!というブランドにしていきたいと思っています。

ミシュランレストランに飛び込み営業

まずはブランド認知を作るために、一番わかりやすい指標としてミシュランレストランを選びました。「ここの人が美味しいっていうなら美味しいんだろう」と一流シェフやフーディーの口コミで広げる計画を始めました。ミシュランレストランを片っ端から回るため、イチゴをカバンに詰め、マンハッタンの上から下まで歩き倒しました。

しかし、基本的にはミシュランクラスになるとアポなしでは会ってくれない。大体「アポありますか?」と聞かれ、「ないです」と回答すると、アポを取り直してから来てください、と言われる。しかし、その後メールしても電話しても捕まらない。八方塞がりでした。

あるとき、いつものようにアポなしで飛び込み営業に行ったとあるレストランの受付で、いつものように「アポありますか?」と聞かれ、何を思ったか咄嗟に「アポあります」とアポがあるふりをしたんです。すると、アポあるならと奥に通してくれたんです。ですが、本当はアポなんてありませんから、そのままでは当然シェフには「お前たちは誰だ」となって追い返されてしまう。そこで、シェフのところに着くまでにイチゴをカバンから取り出して、追い返される前に"秘密のイチゴ"を見せたんです。

彼らも職人。一目見るとアポがあるかないかなんて関係なく、「それはなんだ、美味しそうだから一口食べてみるか」とかぶりつきます。するとがらっと表情が変わり、「こんな美味しいイチゴを食べたことがない」と。ここまでくればもうこっちのもの。いくらで、いつから持ってこれるのか、とトントン拍子に話が進んでいきました。そこからはこの戦法をうまく使って、シェフを虜にしていき、今では、マンハッタン中のミシュランレストランから注文が殺到するまでになりましたね。


Oishii Farmが目指す未来

今はまだ、Oishii Farmは、NYで日本の美味しいイチゴを売っている会社というイメージが先行していますが、私たちの目指すゴールは、植物工場の技術を使って農業の在り方そのものにパラダイムシフトをもたらすことです。Teslaが電気自動車という時代に合った車で、自動車業界で革命を起こしたように、私たちも植物工場で、この農業という限界に瀕している業界を持続可能な時代に合ったやり方に変えていきたいと考えています。

そこにたどり着くために、難しいけれど味に差が出るイチゴを作って強いブランドを作る。そしてこのブランドを使いながら展開していき、イチゴ以外の果物や野菜も栽培し、最終的には世界最大の植物工場になりたいと思っています。今後、農業に必要な資源や安定した気候が続かない時代がきたとしても、当たり前のように誰でもどこでも一年中同じ高品質な野菜や果物が手に入るという新しいスタンダードを作る。そこまでたどり着いて、私たちのゴールが達成できると考えています。

2人で始めたOishii Farmも、今では社員数が45名以上になりました。農業、生産、研究開発、技術まで、色々な社員が集まっています。イチゴの農家出身者も、農業の経験はないけれどやる気だけはありますというガッツのある方もいます。近年ではマッキンゼーのパートナークラスが入社したり、ハーバード大学やMITを対象にしたリクルーティングにも100名以上の応募がありました。

チーム作りをするとき、経験や能力は当然見させて頂いていますが、ただ優秀かどうかだけではなく、それ以上に、私たちがやっていること、農業をサステイナブルにするとか、日本の技術を使って世界に産業を作るとか、日本の生産物で世界の人々を幸せにするとか、色々なゴールがあるうち、どれでも良いので、それをやりたい、とワクワクして頑張れる方と働きたいと思っています。そしてこれから経験も知見もためて、社会でどんどん活躍するリーダーになっていってもらいたいと思っています。

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