ニューズ社とタイム・ワーナー、24時間放送巡り訴訟合戦(沖田隆)
1996年10月12日、沖田隆
ニューヨーク南部地区連邦地裁は1996年10月11日夜、ニューヨーク市に対して、有線テレビ(CATV)大手のタイム・ワーナーからニューヨーク市に提供されている公共放送用のチャンネルを、ニューズ・コーポレーション(現・21世紀フォックス/FOX)の24時間ニュース専門局に利用させることを差し止める仮処分を決定した。
ニューヨーク市がCATVのニューズ社への「また貸し」を通告してきたため、10月11日、タイム・ワーナーが提訴していた。しかし、オーストラリア出身の「メディア王」ルパート・マードック氏率いるニューズ社も、タイム・ワーナーを反トラスト法(独禁法)違反で訴えており、24時間ニュース競争をめぐる巨大メディアの対立は泥沼化している。
ニューズ社は10月7日から24時間、テレビニュースを放送する「フォックス・ニューズ・チャンネル(FNC)」の放送を始めた。しかし、ニューヨーク市内に120万世帯のCATV加入者を持つタイム・ワーナーは、24時間ニュース専門局の元祖であるCNNと、7月に開局したMSNBC(マイクロソフト社とNBCの合弁)という2つのニュース専門放送を流しており、「チャンネルに空きがない」として、ニューズ社へのCATVのチャンネル提供を拒否した。
これに対し、マードック氏に近いジュリアーニ・ニューヨーク市長はタイム・ワーナーに圧力をかける一方、市がワーナーから借りているCATVの5チャンネルのうち、1つを10月11日深夜からニューズ社に提供することを通告した。
このため、タイム・ワーナーは「市の行動は報道・出版の自由などを侵害するものだ」として提訴した。過去2週間にわたって、市当局がワーナーのCATV営業権の取り消しをちらつかせて、ニューズ社の放送を求めたことを厳しく非難している。
ジュリアーニ市長側は「24時間ニュースは教育的で、公共性がある。CMを外せば、公共用チャンネルを提供しても問題はない」と主張していたが、連邦地裁は「市の行動は、市や州が放送内容をコントロールすることを禁じた連邦CATV法に触れる」と認定。少なくとも次回法廷が開かれる10月23日までは、公共用チャンネルの「また貸し」を禁じた。
ニューズ社は世界的な規模で衛星放送網づくりを進めており、FNCをその中核的なチャンネルに育てたい考え。しかし、メディアの中心地ニューヨークで視聴者を獲得できなければ、将来の発展に大きな影響が出るのは必至だ。
しかも、24時間ニュースのライバル、CNNは親会社のターナー・ブロードキャスティング・システムがタイム・ワーナーと合併して、世界最大のメディア企業の一部門となった。
CNNがニューヨーク市長や州知事をはじめとする共和党政治家を「動員」する形で、チャンネル獲得に乗り出しているのはそのためで、CNN傘下のニューヨーク・ポストは紙面で市長らの行動を後押ししている。しかし、ニューヨーク・タイムズは10月9日付の社説で、公共放送チャンネルの転用が法律に違反する可能性が高いことを指摘。「メディアへの不当な介入だ」と厳しく批判していた。