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「クリエイティブな仕事とは何か」

「クリエイティブな仕事とは何か」。私は2015年、ほんのわずかな期間、「クリエイティブな」職場にいたことがある。しっかり朝から晩まで働いて、わずかな期間ながらお金もそれなりにもらった。

その職場とは劇場である。演劇作品を創る現場に、濃密に関わった。

その経験から私が得たことは

①「クリエイティブな仕事」には種類があること。

②「クリエイティブな仕事」には他の人が重要であること。

③「クリエイティブな仕事」は少し危険だということ。

①・・・劇場制作の仕事は「支える」仕事である。公演の動き出しから、資金調達・キャスティング・稽古場運営・打ち上げ準備などなど、非常にその仕事内容は、多岐にわたる。何か起これば制作の「せい」である。この経験から私は「クリエイティブな仕事」には大きく2つの種類があり、その両者は互いに包みあっていると考えた。1つ目は「創り出す」仕事。「クリエイティブな仕事」という文字情報からすぐにイメージできる「クリエイティブな仕事」である。劇場制作は多目に譲ってもこちらではない。しかしかといってクリエイティブではないわけではない。では劇場制作に求められるクリエイティビティとは一般に考えられているようなものではないのかもしれないと思った。つまり「クリエイティブな仕事」の種類の2つ目は「支える」仕事である。「生み出す」仕事を「支える」仕事。これは、自分の中からではなく、誰かの中から何かが生まれるように相手を触発するような仕事である。こちらの方はみなやりたがらない。雑用だとか、つまらない、ブラックだという理由だ。しかし、「クリエイティブなアイデア」を出せる人をノらせてガンガンアイデアを出してもらうには、「クリエイティブなアイデアを出してください」と頼むだけでは不可能だ。「生み出す」人と「支える」人は相互に依存しあっている。人がクリエイティブな状態になるにはクリエイティブにさせてくれる人物が必要なのである。

②・・・ここで重要なのは人が一人だけでクリエイティブになるには限界があるということで、裏を返せば関わる「人」次第で、クリエイティビティが発揮されたりされなかったりするだろうということだ。例えば、私は劇場制作の業務の中で翌日の稽古スケジュールを一斉メールで送るということをしていた。ただスケジュールを送るのではなく、「前置き」を記載する。今日の稽古はどんな感じだったのか、それを見て「学生の私がどう感じたのか」。このことが翌日の俳優さんをはじめ、何よりほかの制作スタッフの人たちのモチベーションにつながったのだ。至極当たり前のことかもしれないが、このようなニッチな要素がクリエイティビティには大きく関わっていることは、私よりも実際に働いている方々の方が詳しいことと思う。ここで生み出されたモチベーションが「支える」仕事のチームワークを生み、ポジティブな雰囲気を生んだ。この現象だけでも、その組織全体のクリエイティビティに関係してくるだろうと推測できる。

③・・・しかし、「クリエイティブな仕事」には危険性も孕んでいると私は考えている。劇場制作の現場は苛酷で、基本的に人はイライラしやすい。寝不足と、体力と精神力が削られる。私もあの期間以上いたら体調を崩していただろう。そして、先日、その際お世話になった方が亡くなった。その方はいくつもの現場を兼任しており朝から晩まで忙しそうに、しかし楽しそうにしていた。直接的な原因が何かは今となっては確かめようもないが、せめて、もう少しでもクリエイティブな現場の辛さを軽減できないだろうか。「生み出す」人も「支える」人も「クリエイティブ」でありつづけるにはどうしたらいいのだろう?

以上の③点が劇場で働いた経験から考えたことである。

そこで私が取り組みたいと考えているのは【実験室】という空間の設置である。

労働条件の改善は、重要な要素であるが、それよりも私はもっと通奏低音に耳を傾けたいと思った。

自分が考え付いたアイデア、考え、作品、それらを試験的に試せるところ。「安全にたくさん失敗できる場所」を創ることが、クリエイティブな現場をよりクリエイティブな空間にできるのではないか。失敗が受け入れられ、その失敗が大きなアイデアへとつながっていく。

この【実験室】のアイデアは単なるアイデアではないと思っています。つまり「個人の知恵から集団のコミュニケーション」へと、思考の転換を意味しています。この【実験室】では個人の力が積み重なることによってこれまでにはない大きな結果が生まれる可能性を開いています。

現代では、あらゆる意味は「すでにあるもの」ではなく「コミュニケーションによってアップデート」されるものであると私は信じています。この【実験室】の設置で、私は「失敗」することのイメージをアップロードしたいと考えています。「失敗してもいい」と言いながらも「失敗は許さない」というメッセージが伝達されてしまうのが現実です。やはりこれまでの「失敗」のイメージがアップロードされていないからだと思います。この「失敗」のイメージがアップロードされることで、組織は、「生み出す」仕事は、「支える」仕事はよりクリエイティブになれるだろうと私は考えています。


堀光希

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