担当クライアントを理解するために営業体験してみた話
今から5年以上前。私はリクルートで求人媒体「リクナビNEXT」の制作を担当していました。
ある日、引き継ぐことになったのは、あの「コッカラッス!」で知られる某不動産会社。
社内でも「要求水準が高いクライアント」として有名で、それまで担当していたのは社内のエース級の先輩でした。
普通にやるだけでは、絶対に通用しない。
前任のやり方をなぞるだけでは、期待を超えられないどころか、比較されて終わる。どうすればいいのか?
考え抜いた末、私はある提案をしました。
「御社の仕事と社風を肌で知るために、営業体験をさせてください!」
未経験の営業に飛び込む決断。この不動産会社の営業スタイルは、街に出て通行人に直接声をかけるという独特のもの。
これを実際に体験することで、クライアントの期待を超える何かを得られるはずだと確信し、提案しました。
結果、提案は快諾され、後日、渋谷の営業所へ。
当日、出迎えてくれたのは、一目で「できる営業マン」とわかるオーラを放つ営業責任者。
対する私は、営業経験ゼロの求人広告制作担当者。
そもそも「営業なんて絶対にやりたくない!」と思い、リクルートでは制作職を選んだくらいです。
しかし、だからこそ価値がある。営業未経験の自分が飛び込むからこそ、クライアントの心を動かせる。
そう信じて、いざ渋谷の街へ。
「すみません、アンケートよろしいですか?」 勇気を出して、街行く人たちに声をかけるものの無視、無視、また無視。
目標は3時間で10人以上からアンケートを回収すること。
しかし、最初の30分で心が折れかけました。
「話を聞いてもらうって、こんなに難しいのか……」
疲労が蓄積するにつれ、焦りが募る。だが、「ここで諦めたら何の意味もない」と自分に言い聞かせました。
そうして試行錯誤を重ねるうちに、少しずつコツをつかみ、徐々に人が立ち止まるように。
結果、3時間弱で15名以上のアンケートを回収!
体はクタクタでしたが、得られたものは計り知れないほど大きかった。
クライアントの営業を実際に体験する——そんな機会は滅多にありません。そのなかで得た、特に大きかったのは以下3点です。
① クライアントからの信頼:
「御社の採用成功のために!」と口で言うのは簡単ですが、それを本当に行動で示せるかどうかが重要です。
制作担当が自ら営業体験を申し出るのは、きっと珍しいことでしょう。
「この担当者は本気で向き合ってくれるかもしれない」
先方に感じてもらえたことが、信頼関係の構築につながりました。
② クライアントの仕事への理解:
実際に営業を体験することで、その仕事の厳しさ、求められるスキルやスタンス、会社の文化を肌で感じることができました。
それによって「どんな人材がこの仕事に向いているのか」を単なる知識ではなく、リアルな実感をもって理解できるようになったのです。
これは求人広告を制作する上で、本当に響くメッセージを届けるために不可欠なものだと改めて気づかされました。
③ クライアントへのリスペクト:
「街に出て通行人に直接声をかける」——そんな営業スタイルをたった1日体験しただけでも、その大変さを痛感しました。
クライアントの社員さんたちは、これを毎日、営業目標を持ちながら続けている。その姿を想像すると、心から敬意を抱かずにはいられません。
この経験を経て、クライアントを単なる「取引先」ではなく、プロフェッショナルとして尊敬の念を持って向き合えるようになりました。
こうして、頭だけでなく足を使い、泥臭く行動すること。それこそが、自身がクライアントワークにおいて大切にしていること。
その原点が、この営業体験に詰まっているといっても。過言ではありません。
これからもあの経験、あの時の想いを忘れることなく、日々の仕事に泥臭く邁進していきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!