はじめに
良いショートドラマの企画とはどういうものなのか。
今回は、ショートドラマ配信アプリ「BUMP」を運営する emole株式会社 代表取締役CEO 澤村直道さん(以下、emole澤村さん)のインタビュー記事と、
TikTok・YouTubeに特化した代理店 ワンメディア株式会社 代表取締役CEO 明石ガクトさん(以下、ワンメディア明石さん)の著書「動画大全」(出版社:SBクリエイティブ)から考察してみました。
emole澤村さんは自社アプリで展開するショートドラマについて、ワンメディア明石さんは主にTikTok動画クリエイティブや広告戦略について話されています。似て非なるものではあるものの、お考えが共通している部分も多く、双方を擦り合わせることで、公開メディアを問わない良いショートドラマ企画の指針が見えてくればと思っています。
※以下、引用部分はいずれもアプリマーケティング研究所様のインタビュー記事と、著作「動画大全」からさせて頂いております。
1・企画
良い企画とは エンゲージメント率の高い切り抜き動画を多く作れるもの
emole澤村さんはショートドラマと相性のいいジャンルとして不倫など「インモラル系」を挙げられ、その理由として「関係性がわかりやすい」「感情の落差や揺さぶりを作りやすい」からとしています。
さらにショートドラマは第1話での離脱率が圧倒的に高いそうで、「短時間で一発で感情移入できる」状況をいかにして作るかが重要、とのことでした。
また、ストーリーの気になる「切り抜き動画」がバズるとCVRが上がるため、脚本段階から「バズるシーン」を多数用意。これを「バズレベルシート」として独自に評価し、評価が高ければドラマ作品化する、という流れなのだそうです。
一方、ワンメディア明石さんの「動画大全」にショートドラマ自体への言及はありませんでした。
しかし「メディアの新世紀 動画に起きた10の変化」のひとつに「バズからエンゲージメントへ」を挙げています。
同時期に情報を受信し、一極集中するのが「バズ」だとすれば、様々なタイミングで情報を受信し、いいねを押したり動画をシェアしたり、あるいは視聴したユーザーがその動画をマネして撮影、投稿したりすることを「エンゲージメント」としています。
特にTikTokでは「おすすめ」に紹介されないと動画の視聴回数は増えません。動画の視聴回数を増やすには「エンゲージメント率」を上げる必要があり、エンゲージメント率は、いいね、コメント、セーブ、シェア、再生完了率などの数値ではかり、良ければユーザーの「おすすめ」に紹介される、という流れです。
つまり澤村さんと明石さんのお話を総合すると、いいショートドラマの企画とは、「エンゲージメント率の高い切り抜き動画を多く作れるもの」と言えそうです。
具体的には「松本まりかチャレンジ」が挙げられるかと思います。
テレビ東京のドラマ「夫の家庭を壊すまで」のワンシーンを真似た動画が話題となり、同様の動画が多数作られることになりました。
こういった「エンゲージメント」を高い頻度で起こせる企画が良い企画と言えそうです。
一方で、こういったことができるならインモラル系にこだわる必要はないわけですから、他にどのようなものが可能なのか考えていきたいと思っています。
2・脚本
良い脚本とは 冒頭にフックがあり すぐにどんな話か分かり感情移入でき、次回視聴を促すフックがラストにもあるもの
前出の通りショートドラマは第1話での離脱率が圧倒的に高いため、emole澤村さんは以下のような工夫をしていると仰っています。
・感情が揺さぶられるフックになるシーンを冒頭30秒に持ってくる
・その作品が「最終的にどこに向かっていく話なのか?」を1話目で伝える
・丁寧に伏線を貼って、じっくり説明していくよりは、「短時間で一発で感情移入できる」って状況をつくらないといけない
また、前出の「バズレベルシート」同様、「継続視聴してもらえそうか」を判断する「フックレベルシート」というものが存在し、これが一定の基準を超えたら制作に入る仕組みになっているそうです。
一方、ワンメディア明石さんは「ショート動画を構成する4要素」として非常によく似たことを書かれています。
①フック 開始後0.1秒で目を引くビジュアル、2秒目までに自己紹介
②イントロ 6秒目までに動画の趣旨を説明
③ボディ アイテムトピック・音楽・ナレーション・ハッシュタグ
④エンド コメントを誘発する余白を仕掛ける
①と②は秒数こそ違えど内容はほぼ同じです。最後に仕掛けを作る④もよく似ています。
ですので、ショートドラマの良い脚本として共通して言えるのは、冒頭にフックがあり、すぐにどんな話か分かり感情移入でき、次回視聴を促すフックがラストにもあるもの、と言えそうです。
また③と④はTikTokのエンゲージメント率対策になりますので、TikTokでショートドラマを作る際は特に配慮が必要な部分になります。
3・演出
間も説明もいらない とにかく情報量を増やす
emole澤村さんはインタビュー記事で「間を捨ててテンポを上げたい」と撮影現場でリクエストしてもなかなか受け入れてもらえなかったとのエピソードを紹介されてました。
さらに、ショートドラマに最適化するために「長い説明を省き、セリフも短くする」「説明的な”引きの画”はいらない。”寄りの画”にする」などしているそうです。
一方、ワンメディア明石さんも同様で、「"時間あたりの情報量"が重要で、会話や余分な言葉をそぎ落とすべきだ」としています。
その結果、現在のテレビドラマの作りとは大きくかけ離れることになりますが、ショートドラマ演出の最適解は「間も説明もいらない とにかく情報量を増やす」で間違いないかと思います。
いかがでしたでしょうか。
これらを踏まえ、次回は実際に企画を作ってみたいと思います。