クルージングヨット教室物語241
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「隆さん、ここら辺で良いかな」
香代は、ラットを操船しながら隆に聞いた。
「良いんじゃないの」
隆は、周りを走っているレースの参加艇を確認しながら頷いた。
「アンカーを打ちます!」
香代は、皆に伝えると、陽子と瑠璃子はデッ上に準備しておいたアンカーを海へ落とした。アンカーが海の底にがっちり嵌ると、ラッコはその場に停止した。
「手動でアンカーを落とすのも簡単だろう?」
「うん、ぜんぜん楽」
陽子は隆に答えた。
「これなら、別にフォアに付いている固定のアンカーを使わなくても良いかもね」
「でも、今度、海底から上に上げる時がなかなか重くて大変なんだよ」
隆は陽子に答えた。
「そうか、海に落としたら、上に上げなければならないのだものね」
「大丈夫よ、私って意外に力ある方だし」
瑠璃子が笑顔で答えた。
「おおっ、それじゃ瑠璃子に上げるのは全部任せるか」
「うん!任せて」
瑠璃子は隆に言った。
「瑠璃ちゃん、アンカーの前にレースの記録をお願いね」
麻美子が、艇長会議でもらって来たクラブレースの記録帳が挟まっているバインダーを持って来ると、瑠璃子に手渡した。
「10分前とか5分前の旗は誰がやる?」
麻美子は、ボートフックにレース旗を結びながら、皆に聞いた。
「それじゃ、私がやろうか」
陽子が麻美子からボートフックを受け取る。
「何をするの?」
明子が、瑠璃子の持っているバインダーを覗き込んでいる麻美子に聞いた。
「ここにレースへ参加するヨットが皆、書いてあるのよ」
麻美子がバインダーの用紙の内容を明子へ説明した。
「ラッコって書いてないよ」
「だって、ラッコはレースには参加しないでしょう」
麻美子が明子に答えた。
「え、ラッコって参加しないの?」
「うん。ここにいて、皆がちゃんとレースをしているか審判するのよ」
「そうなんだ」
明子は驚いていた。
「朝、話をしていたじゃん。ラッコはレースに参加しないでレースの審判するって」
隆が明子に言った。
「そうだった?なんか忘れちゃった」
明子は、笑顔で隆に答えた。
「大丈夫よ、初めてのヨットレースだものね。何するかなんて忘れちゃうよね」
麻美子が明子の頭を撫でながら言った。
アクエリアスがコミッティーボートのラッコに近づいて来ると、右舷側に横付けした。
「隆くん、一緒に乗ってくれないか」
アクエリアスの中村さんは、ラッコの隆に声をかけて来た。
「どうしました?」
「いや、うちのヨットは皆、今年からクルージングヨット教室で始めたヨットレース初心者ばかりで、なかなか操船が上手くできない」
中村さんは、隆にヘルプを求めてきた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「ジュニアヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」「文筆のフリーラン」「魔法の糸と夢のステッチ」など
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