結局、順番で下ろしてもらったら、ラッコは1番最後の順番になってしまっていた。
「良いかな、乗せてもらっても」
横浜のマリーナでハーバーマスターを務める鈴野さんは、隆や麻美子よりも1つ年上の物静かな優しいタイプの男性だった。
「ええ、別に良いですけど。鈴野さんもクルージングに参加するのですか」
麻美子は、鈴野さんに聞いた。
今回の千葉、保田クルージングは、横浜のマリーナ主催のイベントで、マリーナに保管しているヨットやボートが皆で保田までのクルージングを楽しむというイベントだった。
マリーナ主催のイベントのため、ハーバーマスターも現地まで同行するのだった。
「あ、鈴野さんも一緒に乗っていかれますか」
「お願いします」
鈴野さんは、自分の着替えとかが入ったバッグを片手に、一番最後にクレーンで下されたラッコに乗り込んで来た。腰には、クレーンの操作するためのリモコン装置を装備していて、自分で下ろしたヨットに、自分で乗り込んだ感じだった。
ラッコの船体が、クレーンで海上に下されると、香代がラットを握って、そのまま、ラッコの船体はマリーナ沖の海上に出て行った。
「いつも、彼女が出港時からラットを握っているんですね」
「そう、ここ最近は、俺がラットを持っている時間より、香代が持っている時間の方が全然長い」
隆は、鈴野さんに説明した。
「なんか今年のクルージングヨット教室の中では、1番の優等生じゃないですか」
この夏、ずっとヨットを操船しているクルージングヨット教室の生徒さんたちの姿を見てきた鈴野さんが、香代のことをすごく褒めていた。
「褒められてよかったわね」
麻美子が、側でラットを取っている香代の頭を撫でた。
「でも、陽子ちゃんだって、上手にラットの奏薦できるわよね。瑠璃ちゃんは、航海時のナビの操作とかが得意ですものね」
麻美子は、香代だけでなく、ほかの生徒のことも鈴野さんに伝えていた。
「うん。ラッコさんは、今年のクルージングヨット教室で一番貢献してくれましたわ」
鈴野さんは、麻美子に言った。
ラッコの前方にアンドサンクが走っていた。
「あら、アンドサンクさんも、今回のクルージングに参加するのかしら?」
「それはそうだよ。今、うちのマリーナで船を出しているのは皆、保田を目指しているさ」
隆は、麻美子に言った。
「でも、なんか以前に、上野さんが、アンドサンクの生徒さんは、夏過ぎから誰も乗りに来なくなってしまったって話していたけどな」
「いや、別に保田クルージングは、クルージングヨット教室の卒業式だけのために参加しているわけじゃないからね。マリーナに保管している船が皆でクルージングするというのがメインイベントだから」
隆は、麻美子に伝えた。
「その中で、たまたまクルージングヨット教室の卒業式も、現地の飲み会場所でやってしまおうって言うだけのことだからね」
「あ、そうなのね」
麻美子は、隆から聞いて納得していた。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など