クルージングヨット教室物語26
Photo by Gaku Suyama on Unsplash
「あそこにある細長い島が見えるか」
隆は、大島のすぐ目の前にある細長い島というか海から突き出た突起物、岩を指差した。
「あれは、さすがに視力2.0の香代ちゃんでなくても、私でも見えるよ」
瑠璃子は、隆に返事した。
「筆島っていうだ。海から突き出ている格好が絵を描くときの絵筆みたいだろう」
隆は、今回初めて大島に来るクルーの皆に説明した。
「筆島は、波浮港の入り口の近くにあるから、あれが見えたら波浮の港もあと少し近いからな」
隆は、皆に伝えた。
「あとちょっとだから、香代も頑張れ」
アクエリアスのエンジントラブル以降、香代が1人でずっとラッコのヘルムを取っていた。
「香代ちゃん、疲れたんじゃない。誰かと代わってもらったら?」
「ううん、大丈夫。ヘルムを取っているの楽しいもん」
香代は、麻美子に返事した。
「港の入り口のところは、ちょっと波が高くて大変だからな」
ラッコが大島の波浮港の入り口に差し掛かったところで、ようやく隆がコクピットに移動して、香代と交代でステアリングを握った。
「港内に入ったら、停泊できる場所を見つけて、そこにアンカーを打って停めるから」
隆は、皆に港内に入ったときにやるべきことを説明した。ラッコは、隆の操船でゆっくりと大島、波浮港の港内に入って来た。そのすぐ後ろからアクエリアスも続いて入港する。
波浮港は、大きな港で右側の大半には大型の漁船が何隻も停泊していた。左側の岸壁に漁船が停泊していない空きスペースがあって、そこに既に何艇かヨットやボートが停泊していた。
「あの背の高い白いボートの左側に停めようか」
隆は、白いボートの横に2艇分が停められる空きスペースを見つけた。白いボートの船上には、オーナーらしい男性の姿が見えたので、一応、ここの場所空いていますかと声をかけて了解を得てから、その左側の岸壁に船を縦向きにして後ろから突っ込んだ。
そのまま突っ込んでしまうと、ラッコの後部がお尻から波浮港の岸壁にぶつかってしまうので、適当な位置で、隆はコクピットに付いているアンカーのスイッチを押した。
隆がアンカーのスイッチを押したので、ラッコの船前端にぶら下がっているアンカーが海の中に落ちた。そのアンカーが海底の岩に引っかかって、ラッコの船体は岸壁の手前で停まった。
「舫いロープを結ぶぞ」
隆は、陽子と香代に伝えて、自分自身も舫いロープを持って岸壁に飛び移り、岸壁の突起とラッコとを舫いロープで結んだ。それを見て、陽子と香代も同じように岸壁へ飛び移って、隆と反対側の岸壁の突起に舫いロープを結びつけた。
「大丈夫?落ちないでよ」
麻美子は、岸壁に飛び移る陽子と香代の姿を心配そうに見ていたが、2人とも全く飛び損ねて、海の中へドボンと落ちる様子はなかった。特に、香代は舫いロープを片手に持ちながら颯爽と飛んでいた。
「舫いロープを投げてください。私が結びます」
自分たちラッコの舫いロープを結び終わると、そのすぐ隣に入って来たアクエリアスの舫いロープまで受け取って、陽子と香代は岸壁に結んであげていた。おかげで、アクエリアスのクルーたちは、船から岸壁に飛び移る必要がなかった。
「アンカーが効いていない」
アクエリアスのクルーたちは、岸壁の舫いロープについては心配する必要なかったが、船の前方に落としたアンカーがしっかり海底に刺さっていないとかで、アンカーを効かすのに苦労していた。
アクエリアスのアンカーは、ラッコのアンカーのようにスイッチ一つ自動でアンカーを打てないため、人間が長いアンカーロープを持ってデッキ上を移動して、海に向かって手動でアンカーを投げていた。