クルージングヨット教室物語20
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「今日は金曜日なんだけど、明日から三連休なんだけど」
隆は、社長秘書の麻美子にブーブー文句を言っていた。
「ね、今夜から大島に向けて横浜のマリーナを出港するんだぞ」
「だから、私が昼間にマリーナの人に電話して、夜すぐに出航できるようにとヨットを下ろしてもらって、ポンツーンに泊めてもらってあるから」
麻美子は、残業で機嫌の悪い隆をなだめていた。
「いくら船が海上に下ろしてあっても、それに乗る人が行かなければ、大島に出港できないって」
「だから、早く仕事を終わらせましょう」
麻美子は、隆に優しく伝えていたのに、隆の機嫌はなかなか直らない。
「こんなに机の上に貯まっているんだけど、もうこれって週明けで良いんじゃないの」
「さっきから文句ばかりうるさいな!私も手伝ってあげるから早く終わらせましょう!」
いつまでも文句ばかり言っている隆に、麻美子の怒鳴り声が落ちた。
「ほら、手を動かさないと終わらないよ」
麻美子は、自分でも手を動かしながら隆に告げた。隆もようやく目の前の作業をやり始めた。
「まったく、これじゃどっちが社長なんだかわからないわね」
麻美子は、渋々作業している隆のことを眺めながら、自分でも作業を進めていた。それから、2人は真っ暗になっている社長室の中で黙々と作業を進めていた。
リンリーン・・
「はい、もしもし、あら、陽子ちゃん。もうマリーナに着いたんだ。私たち、今どうしても今週中にやらなければならない仕事があって残業しているの。もう少し、そっちに行けるの遅くなる」
「わかった、頑張ってね」
麻美子は、陽子からの電話を切った。
「ほら、陽子ちゃんも頑張ってねだって。頑張ろう」
麻美子は、隆のことをなだめながら、自分も作業の手を進めていた。
「麻美ちゃんたち、残業で少し遅くなるって」
「忙しいんだ」
瑠璃子は、電話を切った陽子から聞いて返事した。
ヨットは、昼間にマリーナの職員が海上に下ろしておいてくれたみたいで、瑠璃子や陽子が仕事を終えてマリーナにきたときには、既にポンツーンへ舫いロープで結ばれていた。
「雪さんも、少しだけ残業で遅くなるんだって」
香代が、ラッコのキャビンに入ってきて皆に報告した。今回、一緒にクルージングすることになっているアクエリアスのオーナーである中村さんも、ラッコのキャビンに入ってきた。
「おはようございます」
「おはよう」
中村さんも、東京での仕事を終えて、たった今、横浜のマリーナに来たばかりのようだ。中村さん以外には、まだアクエリアスのクルーたちは来ていないようだった。
「船を、ここに持って来たいんだけど、一緒にちょっと手伝ってもらえないか」
中村さんに言われて、ラッコのクルーたちのうち香代と陽子が中村さんと一緒にアクエリアスを取りに行くこととなった。ラッコの船体は、船台に載せられて、横浜のマリーナ敷地内の陸上に保管されている。アクエリアスは、マリーナの沖合にある入り江にロープで結ばれ、海上に浮かんだ状態で保管されている。
海上に浮かんだ状態で保管されているヨットやボートは、出航するときは、マリーナの準備してくれている小さなボートに乗って、自分のヨットまで行って、ヨットを出航準備のため、マリーナのポンツーンまで運んでこなければならなかった。
昼間だと、マリーナの職員が出勤しているので、海上に浮かんでいる自分のヨットまで、マリーナの職員が小さなボートを操船して連れていってくれるが、夜間は、マリーナ職員は帰宅してしまっているので、自分のヨットまで、自分たちで小さなボートを操船して取りにいかなければならなかった。
香代と陽子は、中村さんの操船する小さなボートに乗って、海上に浮かんでいるアクエリアスまで行くと、アクエリアスに乗り移った。小さなボートは、アクエリアスの船体後部にロープで結ばれた。
海上まで乗ってきた小さなボートは、アクエリアスの後ろにぶら下げたまま、アクエリアスをマリーナのポンツーンまで移動させた。ポンツーンに到着すると、ポンツーンには、アクエリアスのクルーたちが遅れて到着していて、船の上の香代と陽子が投げた舫いロープをポンツーンで受け取り、アクエリアスの船体をポンツーンに結んでくれた。
「あれ、隆さんはいないんですか?」
「残業で、こっちに来るの少し遅くなるって」
陽子は、遅れてきたアクエリアスのクルーたちにも説明した。
「先に軽く夕食を食べて待っていよう」
瑠璃子が、ラッコのクルーたちに言って、ラッコのキャビンで簡単な夕食となった。