「今週は、クラブレースがあるから参加してみようか」
隆は、ラッコのメンバー皆に提案した。
「まだまだヨット初心者で、レースなんて出場できるまで上達できていないよ」
「大丈夫だよ。うちの横浜のマリーナのクラブレースは、本格的なレースではなくて、うちのマリーナに保管されているヨットだけの内輪なクラブレースだから」
隆は、不安そうな瑠璃子に説明した。
「9時からクラブハウスでクラブレースの艇長会議だってさ」
麻美子は、マリーナ事務所で聞いてきたことを隆に報告した。
「じゃ、麻美子が艇長会議に出て来てよ」
「え、私が?無理だよ、私ってラッコの艇長じゃないし」
「大丈夫。陽子が頭いいから、陽子と一緒に艇長会議に出て話を聞いてきなよ」
麻美子は、隆に言われて、陽子と一緒にクラブハウスで始まる艇長会議に出席してくることになった。
「それじゃ、艇長会議を始めます!」
ウララの松浦オーナーが、艇長会議の進行役を買ってでていた。うちの横浜のマリーナでは、本格的にヨットレースをやっているヨットといえば、松浦オーナーのウララぐらいしかいなかった。
ウララが、ヨットレースに関してはマリーナで一番詳しいヨットとなるため、横浜のマリーナでクラブハウスを開催するときは大概、ウララが陣頭指揮を取ることが多かった。
「本日のクラブレースのコースですが・・・」
松浦オーナーが、クラブレースの開始時間やコースなどについて、今日のクラブレースに参加するヨットのオーナー達に説明していたが、説明の中にヨットレースの専門用語が多く出てきて、麻美子には話の内容がほぼ理解できないでいた。
「最初は半時計回りで回るけれども、次のブイは時計回りで回るのですね」
陽子は、松浦オーナーの説明する内容を理解して、松浦オーナーにちゃんと確認も取っていた。
「すごいな、陽子ちゃん」
麻美子は、自分が全く理解できていないヨットレースの説明をしっかり把握している陽子に感心していた。
「松浦さんの話していることを、よく理解できていたわね」
艇長会議を終えて、ラッコに戻る道すがら、麻美子は陽子に言った。
「クラブレースのコースってわかったのか?」
隆は、ラッコのステアリングを操船しながら、麻美子に質問した。
「金沢沖の赤ブイを反時計回りで回ってから、沖合いの黄色ブイを時計回りに回って戻ってきてゴール」
隆に質問されて、全く何も答えられなかった麻美子に代わって、陽子が隆に詳しく説明していた。
地井さんの27フィートのモーターボートが、今日のクラブレースのコミッティ艇を務めてくれていた。コミッティ艇上では、10分前、5分前に旗を掲揚してくれていて、その旗でレースのスタート時間がわかるようになっていた。そして、スタートとともに掲揚していた旗を下ろしてレースはスタートした。
「よし、スタートラインぴったりでスタートできたぞ!」
隆は、地井さんのモーターボートから鳴ったスタートの合図を知らせるホーンと同時に、どのヨットよりも早く一番でスタートラインを越えてスタートしていた。
隆のヨット歴は長く、隆が中1の時に、ここの横浜のマリーナで開催されているジュニアヨット教室に参加していた頃までさかのぼる。隆は、ヨットレースはあまり好きではなく、ヨットの乗り方は常にクルージング派のセーラーだった。それでも、ヨット歴だけは長かったのとジュニアヨット教室時代は、他のヨット教室の生徒たちとレースで競い合って乗っていたため、ヨットレースの技術は持ち合わせていた。
「ね、もしかしてラッコが一番で走っている?」
ラッコのクルーたちは、自分たちラッコのヨットが、他のヨットよりも1番先頭で走っていることに気づいて、口々に話していた。
しかし、しばらく走っていると、ウララがラッコに近づいてきて、そのまま、ラッコのことを追い抜いて行ってしまった。ウララだけではなかった。他のヨットたちも、どんどんラッコに追いついてくると、次々と追い抜かれていき、気づくと一番最後尾から2番目の位置を走っていた。
「せっかく1番だったのに、なんか皆に追い抜かれてしまったよ」
「それは無理だよ。うちのラッコは、船内にフィンランドの木材が多量に使われていて、他のヨットよりも遥かに重たいヨットなんだから」
隆は、あっという間に最後尾に追いやられてしまって残念そうな顔をしているクルーたちに言った。
「ラッコの後ろって、もう中村さんのアクエリアス1艇しかいなくなっちゃったね」
麻美子は、ラッコの後ろを振り返りながら言った。