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クルージングヨット教室物語7

Photo by nimu on Unsplash

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鈴木香代は、横浜のマリーナにやって来ていた。

中学、高校とも女子バスケット部だったし、運動は苦手というわけではないのだが、人見知りで賑やかな場所で過ごすことが苦手だったため、あまり外に出かけることが少なかった。

短大を卒業後、会社に就職してOLをしているが、仕事が終わると家に直行して、お休みの日もずっと家の中で過ごしていることが多かった。

そんな性格の香代だったが、なんとなく自分の性格を変えたいと何か新しい挑戦をしてみたいと思っていた。そんな香代がネットで目にしたのが、横浜のマリーナで開催されるクルージングヨット教室の生徒募集の告知だった。ヨットなんて一度も乗ったことがなかったが教室に応募してみたら当選した。

「大丈夫かな、私」

横浜のマリーナの前には、大勢の人たちが集まっていた。自分と同じクルージングヨット教室に参加するために来ていた人たちのようだった。

入り口に立っていた男性スタッフに、クルージングヨット教室の案内ハガキを見せた。

「クルージング教室は、クラブハウス2階で開催されます」

鈴木香代は、男性スタッフに案内されて、クラブハウスの階段を上がって、2階の部屋に入った。

クラブハウスの中は、これからクルージングヨット教室を受講しようという人たちでいっぱいだった。自分と同じ20代ぐらいの人もいたが、30、40、50代ぐらいの人もいて、年代は様々だった。女子と男子では、7:3ぐらいで女性の受講者の方が多かった。

賑やかなところが苦手な鈴木香代は、部屋の一番後ろの空いている席に腰掛けた。

「皆がすごいな」

後ろの席から他の受講生たちの姿を観察していると、授業が始まるのを待ちながら、周りにいる同世代の生徒たち同士で仲良くおしゃべりをしていた。お友達同士でヨット教室に応募して来たのかと思うぐらい仲良くおしゃべりしていたが、話を聞いていると、みな特にお友達同士ってわけではなく、たまたまヨット教室で一緒になった人たちが多いようだった。

「私も、自分の殻を破りたくて今回参加したんだけどな」

周りの人たちが隣の席の人たちとおしゃべりをしている姿を眺めながら、鈴木香代は思っていた。

「それでは、座学を始めます」

50代ぐらいの先生が教室の先頭で挨拶をして、ヨット教室の座学が始まった。まず最初に、コピー機でプリントされた教本が生徒たちに配られた。鈴木香代のところにも教本が配られて、香代は教本を読みながら、教壇の先生の話に耳を傾けた。いつも学校の授業の成績もわりと優等生だった香代は、初めて聞くヨットの知識も教本の内容を読みながら座学の先生の話を聞いていると殆どの内容を理解できた。

「それでは、お昼休憩にしましょう。午後は1時から始めます」

午前の座学の授業が終わって、教壇の先生もお昼を食べに教室を出ていった。生徒たちも、それぞれ教室を出て、近くのコンビニやスーパーに行って、お昼の弁当などを買ってくると、マリーナの敷地内の日当たりの良い場所でお昼ごはんを食べていた。

香代は、あまりお腹も空いていなかったし、バッグの中に持ってきたグミの袋を開けて、それをつまみながら、午前中に教えてもらった座学の内容を1人机で復習していた。

「ごのの授業を始めましょうか」

教壇に先生が戻ってくると、午後の座学が始まった。

午後は、1時間ぐらい教壇の先生の話す座学を聞くと、その後は、生徒たちそれぞれに短い長さのロープを3本ずつ配られると、そのロープを使って、ロープの結び方の実習になった。

座学の講習は、教本を片手に先生の話を聞いていて、だいたい内容を理解できていた香代だったが、いざロープワークの実習になると、なかなかうまくロープを結べずに苦労していた。

「うまく結べる?ヨットのロープの結び方って難しいよね」

香代がロープの結び方で苦労していると、それを後ろで眺めていた長いストレートの黒髪を胸の辺りまで下ろしたお姉さんが香代に話しかけてきてくれた。

「そこは、こうやって下から通すと、うまく結べるわよ」

ストレートの長い髪のお姉さんは、香代に優しく結び方を教えてくれた。香代が気づくと、午前、午後の座学の間は、教壇の先生とヨット教室の生徒たちしかいなかった教室に、他にもたくさんのおじさん、おばさんたちが集まって来ていた。

香代が、髪の長い優しいお姉さんにロープワークを教えてもらったように、教室の周りに集まって来ていたおじさん、おばさんたちも、それぞれ生徒たちにロープワークを教えていた。

初めて教わるヨットのロープワークに、生徒たちは皆、ロープ結びを苦労していた。教室の先頭にいた先生だけでは、生徒たち皆のロープワークを見てあげられず、集まって来たおじさん、おばさんたちも生徒たちのやっているロープワークをそれぞれ手伝っていたのだった。

香代は、最初から最後までロープワークは、ストレートの長い髪のお姉さんに教わってしまった。

教室に集まって来たおじさん、おばさんたちは、ここのマリーナにヨットを停泊しているオーナーさんたちで、ロープワークの実習が終わった後、生徒たちは、各ヨットに振り分けられることになっていた。

「隆!ヨットの後片付けで忙しいでしょう!私が生徒さんたち迎えに来ているから」

「わかった!頼む」

ストレートの長い髪のお姉さんは、教室の窓から見えるヨットのデッキで作業している男性に声をかけていた。香代は、このお姉さんもヨットのオーナーさんで、生徒のことを迎えに来ているんだと思った。

「このお姉さんのヨットに振り分けられると良いな」

香代は、ロープワークを優しく教えてくれたお姉さんのことが気に入ってしまっていた。

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