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クルージングヨット教室物語3

Photo by Kazuo ota on Unsplash

今井隆のマイボートは、フィンランド製のナウティキャット33というヨットだった。

ナウティキャットは、フィンランドにあるヨット専門の造船所で、キャビンのインテリアにフィンランドの木材を多用した豪華な造りのヨットだった。

外観の特徴は、大きなパイロットハウスと呼ばれる操舵室が船体の中央部分に配されたモーターセーラーという部類のヨットだ。その船体は、頑丈で重く造られていて、ヨットレースで常に優勝を目指せるような足の速いヨットではないが、頑丈で重たい船体は荒れた海の中でのどっしりと構え、安心して快適なクルージングが楽しめるヨットだった。

フィンランドの造船所に建造をオーダーしてから、出来上がるまで隆自身も何度もフィンランドまで飛んで建造中のマイボートの状態を確認していた。

建造途中で、あそこはああしてくれ、こっちにはこの装備を追加してくれといろいろ注文して、隆自身が満足いく理想のセーリングクルーザーに仕上がっていた。

そのヨットが、フィンランドの港から貨物船に載せられて、横浜の港まで輸入され、こうして今、隆が所属している横浜のマリーナに到着したのだった。

隆は、そのヨットを目前に眺めて感慨深そうだった。

季節は12月初頭、海から流れてくる風は冷たかった。隆の横に並んで立っていた佐藤麻美子は、寒くて早くマリーナの暖かいクラブハウスの中に戻りたかった。

「ヨットの船内に入ってみようか」

今井隆は、佐藤麻美子のことを誘った。麻美子も、冷たい海の風が直接当たるマリーナの岸壁に立っているよりヨットのキャビンの中の方が暖かいだろうと思ったので、隆に頷いた。

一般的なセーリングクルーザーのデッキは、基本的に真っ平らで、そこへ穴ぐらの入り口みたいな扉が付いており、そこからステップを下ってキャビン、ヨットの船内へ入る。

隆のヨットは、モーターセーラーというタイプのヨットで、船上のデッキ中央部にパイロットハウスと呼ばれる四方を窓ガラスで囲まれた操舵室が付いていた。その操舵室の両サイドに開き戸タイプのドアが付いており、そのドアを横に開けて、そこからキャビンの中に入れた。

隆がドアを開けて、麻美子はキャビンの中に入った。船内は特に暖房がかかっているわけではないのだが、冷たい海からの風が入ってこないおかげで暖かかった。

「あ、暖かい」

麻美子は、キャビンの中に入ると、思わず叫んでしまっていた。隆が完成した自分のヨットを見に行こうというから、ついてきたものの冬の海の岸壁は寒くてたまらなかったのだった。

「ほら、台所もちゃんと付いているんだよ」

隆は、ヨットのキャビン、一段下に下がったところにあるキッチンの前に立って、麻美子に説明した。

「隆には、台所なんて必要ないじゃないの」

学生時代、大学に通うため田舎から出てきて以来、1人暮らしの隆は、いつも外食ばかりで自炊などしたことが全くなかった。そのことを知っている麻美子が返事した。

「いや、海の上のヨットでは、俺だって自炊ぐらいするさ」

「そうなんだ。いったい何のお料理するの?」

麻美子は、隆が料理している姿などぜんぜん想像がつかなかった。

「船長の俺が作らないとしても、クルー(船員)の誰かが作るさ」

「隆のヨットってクルーなんかいるんだ」

「今は、まだ進水したばかりでいないけど、そのうち集まってくるさ」

麻美子は、キャビン後部の部屋に入ってみると、大きなベッドが備わっていて、ベッドの脇には鏡台まで備わっていた。その手前の扉を開くと、シャワールーム付きのトイレ、バスルームが付いていた。

「このバスルームは、サウナも付いているんだぜ」

隆は、バスルームのスイッチをいじって、サウナの電源を入れた。

「もう中目黒のジムに在るサウナルーム使わなくて良くなるわね」

麻美子は、いつも隆が自分の家に遊びに来たとき、利用しているジムのサウナルームを思い浮かべながら、隆に返事した。

「フィンランド製のヨットだから、標準でサウナまで完備しているんだ」

「サウナも、ベッドもキッチンもトイレも、リビングルームまであって、ここで住めそうじゃない」

「うん。船内で生活して、世界じゅうどこへだって行けるさ」

隆は、船内のソファに腰掛けながら、麻美子に答えた。

「今週は、船内で寛いだだけだけど、来週はヨットを海に出してセーリングしよう!」

「この寒い中、海に出る気なの?」

「もちろん!ヨットは、むしろ冬の方が風があって良い季節なんだ」

隆は、麻美子に答えた。

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