電話の早取りが職業人生をつくるという教え
Photo by Giorgio Trovato on Unsplash
僕は社会人初期の頃に、代表電話の対応とかコピー用紙の補充とか、誰も担当が決まってない中間フライみたいな仕事を進んでやるように教えられてきた。
金融機関の代表電話は一日に何百件も鳴ることがある。すぐに担当に代われる内容のものもあれば、申込書や創業計画書の書き方とか30分以上かかるヘビーなのもある。なのでみんな通常業務に支障が出るから電話には出たがらなくて、支店でもよく「電話の早取励行」みたいなお説教が降ってきてた。
そんな背景も知らないビジネス赤ちゃんだった僕に、当時の僕のメンターだった圭さんという先輩は「仕事ができる社会人になりたかったら、まずは電話の早取りをしよう。」と教えてくれた。当時の僕はその言葉の意味を深くは理解してなかったのだけど、圭さんはとても正義感と熱量に溢れてるとても良い人だったので、まずはこの人を目指してみようということで電話の早取りをやってみた。
で、電話の早取りってやってみるとめちゃくちゃしんどいんですよね。電話に出なければ無風の平面を走るようなものだけど、電話の早取りをしながらの通常業務は暴風雨の中の障害物競走になる。それでも、僕はそうやって教えてくれる先輩の期待を裏切りたくなかったし、自分に今できることはそれくらいしかないと思って愚直にワンコールで電話に出続けた。
圭さんが転勤でいなくなった後も、僕は浜松と千葉の支店にいる間の6年は忠実にその教えを守り続けてた。結果、僕が仕事ができる社会人になれたかはわからないけど、少なくとも事務処理能力は上がったし、組織の中で最低限サバイブするくらいの力はついたとは思う。でも、この圭さんからの教えで何よりも大切な学びだったのは、電話の向こうにはいつもお客様が待っていて、その事実に対して脊髄反射的に向き合うことが自分の仕事の価値であり誇りだということだった。
仕事に忙殺されてるとどうしても視野は狭窄的になるし、目の前の電話対応と自分の仕事を進めることを天秤にかけて、後者を選びがちになる。けど、電話の向こうで待っているのは、藁をも縋る思いで自分の会社のことを信じて頼ろうとしてくれてるお客様かもしれない。その一人一人に真摯に向き合わずして自分の仕事だけやりきったところでどんな大義が語れるだろう。時間がないなら自分の事務処理能力やスキルを上げて時間を捻出すれば良いだけだ。そういう積み重ねが自分の職業人生をつくるだろうし、自分から仕事をとりに行かない限りは成し得ないことだ。
今では時代が代わって、電話は蛇蝎の如く辟易されるようになってるし、リモートとかの集中できる職場環境が好まれるようになった。きっと電話の早取りなんていうのは平成方式のOJTなんだろう。だけど、自分の仕事のキャパに色んな人の未来の可能性がかかっているんだという想いだけは、僕も次の世代に繋げていきたいな。