ベンチャーファイナンスに今後関わる方にオススメする10冊
ウェブ接客プラットフォーム「KARTE」を提供する株式会社プレイドで経営企画・財務を担当していますトバと申します。会社としての2回の資金調達のラウンドを担当し、個人的にも他社の資金調達をサポートしています。しかしながら、現在に至るまで、必ずしも順風満帆ではなく、暗中模索の中進めています。試行錯誤の中で役に立った本を整理する意味も兼ねて、僭越ながら、何らかの参考になればと思い、ベンチャーファイナンスに今後関わる方に是非オススメしたいと考えた本を整理しました。
ベンチャーファイナンス入門
弊社の取締役でもある磯崎さんが著者で、スタートアップ関係者の必読本となっている本です。ベンチャーファイナンスに関する最低限必要な概念・知識がコンパクトにまとめられており、弁護士等の外部アドバイザーの手を上手く借りれば、この本の知識のみでシード〜シリーズAの資金調達が出来ると思います。また磯崎さんの熱い思いが随所にあふれており、その語り口も魅力的です。私も、この本を読んだことが、スタートアップに興味を持つ契機の一つでした。知識を得るのみならず、スタートアップの面白さも感じることも出来る名著だと思います。なお、この帯の磯崎さんの写真は、弊社撮影です。
「現役経営者が教えるベンチャーファイナンス実践講義」(水永政志著)
スター・マイカ株式会社のCEOが、創業から上場を通じて得た経験を元に書かれた本です。磯崎さんの本が理論的な側面の入門書とすれば、こちらの本は起業体験談を通じてベンチャーファイナンスを語る実践的な入門書です。必要な概念を理解しつつ、資金調達や会社の成長に向けてそれを実行する際のマインド醸成に有意義な本だと考えます。
ベンチャーファイナンス中級編
「ベンチャー企業の法務・財務戦略」(宍戸善一、ベンチャーローフォーラム編)
実際にベンチャーキャピタルの方々との話が進むと、先方から出資に関するスキームを提示され、投資条件に関する交渉を進めることになります。その内容を検討する際に、手元において常に参考にした本が、この本です。投資条件や投資契約に含まれる各種条項の意味が詳述されています。交渉の相手先のベンチャーキャピタルの方々や弁護士も、この本を参考にされていると思ったことは多々あります。但し、読むためには会社法・ファイナンスの知識がある程度必要な点と絶版である点、注意が必要です。投資交渉の際に、図書館で必要な部分をコピーするというのも一つでしょう。
「MBA アントレプレナー・ファイナンス入門」(忽那憲治他編)
ベンチャーファイナンスにおける企業価値評価(バリュエーション算定)に関して、その考え方が網羅された本です。タイトルは「入門」ですが、理解するためには、ある程度のコーポレートファイナンスの知識が必要です。個人的な印象ではありますが、特にシード〜シリーズBフェーズにおいて、ベンチャーキャピタルの方々と話を進める際には、コーポレートファイナンスに準則した企業価値のファクターは、余り論点にならないような気がします。投資家がスタートアップに投資をする際に、どのような行動原理・価値観で投資するのかを理解するという視点で読む(特に「資本コスト」の理解は不可欠)のが良いのでは、と思います。
資金調達全般の基礎
森ビルの専務(CFO)の著書です。スタートアップにおける資金調達の手段としては、ベンチャーキャピタルからの株式(エクイティ)での資金調達が強調される傾向にありますが、その他に負債(デット)を使用するという手段もあります。事業の性質や成長の確度に応じてエクイティとデットを使い分けるのが本来のあるべき姿でしょう。その点から、日本における金融制度の概要や慣行、各種金融機関側の視点を網羅した上で、実務に沿った形で必要なファイナンスや会計の知識をコンパクトに整理したこの本は、非常に有意義な情報源でした。ベンチャーキャピタルからの資金調達を考える上で、一度資金調達の選択肢を一通り整理するのは、将来的な成長を考える上で重要だと思います。
コーポレートファイナンス全般
「ファイナンシャル・マネジメント」(ロバート・C・ヒギンズ著)
コーポレートファイナンスの基本書で著名な本は多々ありますが、実際にファイナンスを進める際には、この本が非常に有意義でした。すなわち、資金調達の検討をする際には、事業計画を立て、手元資金とのギャップやバリュエーションの前提となる将来の事業規模やその成長の確度等を考える必要があります。この本には、コーポレートファイナンスの基礎理論に加えて、それと関連させる形で事業計画策定やその評価に関わる管理会計や財務会計の基礎も書かれており、複眼的な視点でファイナンスを考えることができます。
日本企業の有名なコーポレートファイナンスの事例をベースに、理論と実務を網羅した本です。シリーズで2冊ありますが、両方とも読んだ方が理解が深まります。スカイツリー建設等の有名な事例の背景にあるファイナンスを理解できる点が興味深いです。同時に上場後に意識すべき視点や上場後に可能となるファイナンスのイメージが湧き、モチベーションも高まります。この本に書かれた「ファイナンスと事業成長は表裏一体」という点は、資金調達に不可欠でしょう。
ファイナンス担当者としてのマインド醸成
日本最高のスタートアップのCFOといえば、ホンダ創業期に本田宗一郎氏を支えた藤沢武夫氏でしょう。藤沢さんが書かれたこの本には、スタートアップのCFO・財務担当者として必要なマインドが熱い文体で書かれています。冒頭の「お金のほうは私が引き受けよう。(中略)何がしたいということについては、いちばん仕事のしやすい方法を私が講じましょう。ただし、近視眼的にものをみないようにしましょう」「お金は相手(創業者)の希望しないことには一切使わない。なぜならば、その人(創業者)を面白くさせなければ大きな仕事はできないにきまっている。」は不可欠なマインドでしょう。私も特に意識している視点です。
「CFO 最高財務責任者の新しい役割」(ジェレミー・ホープ著)
CFOは、財務の管理者ではなく経営の管理者であり意思決定の補助者の役割を担うべきという視点で書かれた本です。上場企業が対象ですが、最もこの内容があてはまるのがスタートアップでしょう。すなわち、スタートアップでは全てのメンバーが企業の成長にコミットすることが不可欠です。この本には、1件のクライアント・1人の利用者の獲得ではなく、企業の圧倒的成長に向けて、CFOをはじめとした経営企画・財務領域の担当者がコミットすべき事項が網羅的に整理されているからです。