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2020年11月に4人で創業、21年1月にサービスをリリース後、毎月前月比15%ずつ成長している会社がある。不動産の管理業務という地味な仕事にフォーカスしたシェアリングプラットフォーム「COSOJI(こそーじ)」を開発、運営するRsmile(東京都中央区)だ。
面白いのは、彼らが取り組む課題は不動産管理特有のものではないということ。非効率、無駄は他の業界にも存在しており、それが仕事をつまらなくしていることもしばしば。業界、仕事を変えたいと思っているなら、彼らのやり方は参考になるかもしれない。
不動産業界で気付いた非効率なタスク
大学時代に建築を学んだ同社の代表、富治林希宇氏が最初に勤めたのは大手不動産会社のザイマックスグループ。富治林氏は、不動産管理の現場で働くうちに気づいたことが2つあると話す。ひとつは、省力化できるのにされていない非効率な現場の作業が多いことだ。
「オーナーに電気工事を提案する場合、提案書、見積書、報告書、請求書とさまざまな書類を作る必要があり、合見積もりを取らなくてはいけないこともありました。同じ作業内容、仕様なら転用できる書類もあるのに毎回作成する。報告も作業終了後の写真をメールすれば済む話です」(富治林氏)
もうひとつは全体最適の観点がないこと。担当は一人で複数の現場を担当、巡回しながら管理するが、移動に2時間、作業が30分はどう考えても無駄。富治林氏は「近くにいる人がやれば良い。地域にはその作業ができる人がいるはずだ」と考え始めたという。
その後に異動となったのは、現場や建物全体を管理する部門。消防点検やその他の作業を発注しながら思ったのは、管理の仕事が労働集約型であること、生産性が低いこと。
「仕様を決めてデータ化すれば良いのにそれをせず、その都度電話で長々とやりとりして決める。書類は紙で作ってからPDF化するなど、実に非効率に感じました。また、管理会社と現場の作業員の間に多くの会社が介在し、値段は高くなるのに、品質は一定しないというのも問題でした。それによって現場で作業する人の賃金が上がらない点も課題でした」(富治林氏)
次に勤務した投資会社では、逆に不動産業の川上に当たる取引、投資に携わる人たちがいかに現場を知らないかを実感した。短期でもうかるのは仲介や投資であり目につきやすい。だが、建物が建てられて以降、建物の価値を維持するために必要なのは管理だ。
「世の中にある建物の老朽化は進んでいます。今後、建物の管理は所有している個人、法人の問題だけではなく、空き家になった場合には社会の問題になるでしょう。その一方、マンションの管理人不足が言われるようにこの業界は深刻な人手不足。現在は労働集約でカバーしていますが、多重構造によって現場が報われない現状が続けば、いずれはそれも難しくなります」(富治林氏)
「起業したい」というより、「課題を解決したい」という思いで始めたのがCOSOJIだ。不動産の管理業務と地域作業者、工務店などをマッチング、不動産管理を効率化するツールを提供するサービスで、簡単に言えば「掃除してくれる人、いない?」という建物オーナーに応えて「やります!」という近所の人をダイレクトにマッチングするもの。
アパート、マンション、戸建ての掃除以外にも空き家、空き地、駐車場、駐輪場、太陽光施設の管理を行っている。
【関係者全員が得するサービスで「課題を解決したい」】
筆者がこのサービスで優れていると感じたのは、関係者全員が得するという点である。法人も含め、建物所有者はこれまで多額の費用で依頼しているのに終了報告が遅く、品質にばらつきがあるとの不満を抱えていた。ただ、COSOJIを経由すればそれらの全ての問題が解決する。
価格は従前の半額ほどだし、報告の写真は終了後すぐに送られてくる。品質はCOSOJIが定めた仕様にのっとって一定で、しかも発注から決済までがオンラインで一気通貫。過去の作業履歴などもアプリにまとめられているので、いちいち書類をひっくり返す必要はない。
管理会社で働く人からすれば必要書類が大幅に減ることになり、自分では探せなかった優秀な現場スタッフを手配してもらえることにもなる。これによって精神的な負担が軽減されるのはもちろん、労働時間も短縮できる。労働環境が改善されるのである。
現場で作業する人にもさまざまなメリットがある。近所の仕事を中心に受注できれば移動の時間や費用がなくなり効率が良くなるので、多少発注額が安くなっても損はしない。効率的な取引になるので、発注者からすれば半額でも、受注側からすれば金額は変わらない、場合によっては高くなるということもあろう。
これまでの不動産・建設業界は紹介でビジネスが回っており、対人関係が苦手な職人気質の人たちには不利な面があった。だが、この仕組みならトークより現場での力量が評価されるので、力のある人たちが正当に評価される。仕事に恵まれずにいた人からすれば救いの神である。
トーク同様、見積もりや報告書などが苦手な人にとっても、そうした雑務をせず、本業に専念できるのはありがたいところ。請求書を出す手間なく、作業終了後すぐに支払いが行われるのもさらにありがたい話だ。
加えて発注者から直接「すぐに工事してくれて助かった」「頼んで良かった」などと評価の言葉が聞けることも大きなメリット。前述した多重構造は発注者、受注者を分断、互いの顔を見えなくしているが、それを対面にすることで解決する問題、生まれるやりがいなどがあるはずなのである。
管理や工事の仕事では、文句を聞かされるのが常態。それが管理業界の人手不足の要因のひとつなのだが、それが改善され、自分の仕事がきちんと評価されるとなれば、この業界で働いてみようという人も増えるかもしれない。
不動産会社の縦割りの影響を受けないという点もメリット。外からはあまり分からないが、住宅、オフィス、店舗と建物の種別で扱う会社は別れているのが一般的。だが電気工事はどの建物でもそれほど変わりはなく、広く仕事を受けられるほうが良いのは当然だ。
【地域で受発注が成り立ちお金が回るように】
地域からみてもメリットがある。地域で受発注が成り立つことで地域でお金が回るようになるのだ。さらに大きいのは自分たちの地域の不動産を良くすることは地域を良くすることにもつながるという点。
「最近、空き家管理に関して自治体からの相談が非常に増えています。現在は滋賀県長浜市、熊本県上天草市と提携を結び、空き家管理を受けているのですが、空き家バンクに載せるためにも、継承につなげるためにも空き家を良い状態にしておくことは非常に重要です。適切に管理された不動産が増えることは地域の価値向上につながります」(富治林氏)
その役割を地域の人が担うのである。空き家管理では近所に住み、以前からその空き家が気になっていたという人が管理に手を挙げることも多い。COSOJIの現場で仕事をしている人の中には地域を良くしたい、きれいにしたいという思いがある人が多く、参加に意義ややりがいを感じているのだとか。それが仕事の質を高く保ち、同時にシビックプライド醸成にも役立っているのである。
こうした「関係者全員にうれしいサービス」であることが事業を成長させている。開始以来1年余で登録する側は法人250社、個人2500人、現場で作業するスタッフの登録は1万5000人ほどに増え、特に現場スタッフは毎週200~300人ずつ登録が増え続けてもいるという。
清掃、工事や建物に関与できる腕があれば、わが家の近くで、仕事内容によっては自分の好きな時間で仕事ができるという点も働く人にとってはうれしいポイントだろう。
とはいえ、富治林氏はまだまだこれからだという。この仕組みを機能させるためには業務の標準化が必要で、業界内にはその意識が乏しい。例えば、壁にクロスを貼る作業ひとつでも、賃貸住宅の場合には賃料、収支から考えて適正額を考える必要があるが、現場でそこまでを考えている人は少ない。同社では業務標準化、業界での適正価格算出に関するビジネス特許を取得しているものの、管理に関する作業が広範に及ぶことを考えると、それだけでは足りない。
また、ゆくゆくは現場の対応を早くすることで住宅に不備があった時にすぐ修理スタッフが駆け付けられるようにするなど、入居者にも恩恵が及ぶようにしたいとも考えているという。そこまでに至るには、確かに時間が必要だろう。
不動産、特に管理業は、いまだにFAXや紙が主流であるなど、他の業界よりもかなり遅れている業界だ。しかし、それがCOSOJIの登場、躍進で変わりつつある。1年余でここまでの成果としたら、これから5年後はどうなるか、楽しみである。
ところで、遅れてきた不動産管理業でこれだけ変化が起きているのである。それよりも進んでいる他業界なら、もっと無駄、非効率を排除する動きが起きていそうなものと思うが……。皆さんの業界ではどうですか?
中川寛子(なかがわ ひろこ/東京情報堂代表)
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・IT media ビジネス ONLiNE https://bit.ly/3z7YtjA
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