ラクスルが語る。社内全体を巻き込む採用の秘訣とは
採用の体系論から具体的な手法までをお伝えるする本企画。最終回となる第4回目は、ラクスル株式会社の大原様をお呼びし、経営陣・人事・事業メンバーによる採用への協力体制を中心にお話いただきました。
※本記事はウォンテッドリーが主催したセミナーの内容を要約した上で構成しています。
スタートアップの最適な採用方法
スタートアップ企業において、採用は非常に重要なミッションです。そして、会社のフェーズによって、適切な採用手法は変わるもの。成長フェーズに合わせた採用ができるかどうかで、採用成功の確率は大きく変わってきます。
この資料では、急成長するスタートアップ企業のために、成長フェーズごとに考えるべき採用戦略、適切な手法を事例付きで紹介しています。
ラクスル株式会社
HRBP
大原 一峰氏2017年ラクスル入社。人事部門の立ち上げ、HRBP機能の立ち上げを担当し事業経営×組織人事の最適な関わり方を追求する。ラクスル入社前はWeb広告やゲームなど急成長フェーズ事業会社で人事部門の立ち上げや統括を行う。カオス耐性高め。https://www.wantedly.com/id/kazumine_ohara
事業に必要な人材は事業本部が採用する。採用の主体は「Hiring Manager」
ーーラクスル様の特徴としては、HRBP、Hiring Manager、人事部採用チームという3本の柱を立てて、その役割をきちんと定義して機能させていることだと思います。まずそれぞれぞれの役割、概要を教えていただけますか?
大原氏:HRBP(Human Resource Business Partner)は、3つある事業本部に各1人所属している「事業の人事責任者」のことです。事業本部全体の採用活動全体を成功させる責任を持ちます。同時にバーレイザー(選抜の基準を引き上げる人)として、組織の水質の健全性を担保する責任も持っています。採用がうまく進まなければさまざまな介入が考えられますし、逆に個々の採用が順調であれば深く介入しないこともありえます。
Hiring Managerは別名「採用オーナー」。個々の採用枠の責任者です。事業や組織の計画を描き、採用することによって事業成長をドライブする人が担当します。多くの場合採用するポジションの上司になりますね。スカウトの送付・面談面接・アトラクト・オンボーディングと表立った採用活動を担う存在です。
さいごに、人事部採用チームはHiring Managerを支援・育成することを役割としています。Job Descriptionのブラッシュアップ、Hiring Managerの行動計画作成、候補者やパートナー企業の対応などを行います。
上記体制での仕事の流れをご紹介します。まず、Hiring Managerの採用枠申請から採用活動がスタート。HRBPが申請をとりまとめ経営会議が申請を承認すると、人事部採用チームがHiring Managerに最適な採用サービスは何か、ダイレクトスカウトは何通くらい送る必要があるか、などを提案・アドバイスします。こうすることで、Hiring Managerは「月に200通は必要なのか」など、実際にかかる工数や難易度を理解します。
そして、候補者のリストアップやスカウトメールの送付が始まると、人事部採用チームは送信数や返信率を計測し、低い場合は改善の提案をします。Hiring Managerの習熟度や仕事の優先度に合わせて、場合によってはピックアップをアウトソーシングすることも。そのマネジメントも含めて人事部採用チームがフォローしています。HRBPは毎週、各ポジションのスカウト数と選考進捗の状況を見て、スカウト活動を促進したり採用上のボトルネックについて対処し再現性ある仕組みを構築します。
面接に入ると、人事部採用チームが日程の調整や選考プロセスについてアドバイスしながら、Hiring Managerが面接やアトラクトを行います。HRBPはアトラクトの手伝いをしつつ、「本当にこの人材を採用するべきなのか」という候補者の見極めを行っています。
Hiring Managerは今必要な人材を採用するだけでなく、「自分より優秀で、将来的に自分のポジションを任せられる人材を採用する」といった意識が大切。優秀な人材を採用することで組織の「質」を上げていけるため、ここについては折に触れて確認しています。
ーー3つの柱がお互いに健全な相互監視ができる体制は素晴らしいですね。1つ気になるのは、事業本部の各ポジションの責任者でもあるHiring Managerがダイレクトスカウトのピックアップから送付まで行うのは非常に大変だと思います。抵抗なく協力しくれるのでしょうか?
中途入社の社員の前職環境はさまざまなため、最初はとまどいがあるケースはありますね。幸いなことにラクスルには、経営陣も事業本部のTOPも「事業を伸ばす責任は事業本部にあり、その最も重要な要素の一つである採用は事業本部が主体としてやるものだ」といった明確な認識があるため抵抗はありません。HRBPや人事部採用チームはその文化にHiring Managerが溶け込むための手助けをします。
ーー総括して、事業本部と人事の協力体制を作るための最大のポイントは何でしょうか?
必ず必要なのが、経営層や事業本部に「採用は事業側の責任」という認識があること。ラクスルはCEOが事業の責任者に「リソースの50%を組織作りに当てる」ことを推奨しています。そのため、採用の必要性は、役員、部長、マネージャーなどのレイヤーを超えて浸透しています。役職が上位の人ほど採用へのコミット力が高いと思います。
また、事業責任者が、売上や粗利を追うのと同じように、組織作りに責任を持つ意識があれば、人事との協力体制を作ることは難しくありません。「人事が事業本部に協力してもらう」のではなく「事業本部が人事に協力してもらう」という意識が大切です。
事業本部と人事の協力体制が生まれた理由
ーーHiring Manager制やHRBP制は採用体制の1つの理想形とも言えます。ラクスル様がこの採用体制になった背景について教えていただけますでしょうか。
まず、Hiring Managerの制度は、「母集団形成、選考、面接でのアトラクト、期待調整、入社後の育成が一番できる人は誰なのか」といった問いに答えた結果だと思っています。答えは間違いなく、その部門や事業にオーナーシップを持っている人間です。会社が小さいときはCEOが持っていた役割を組織規模に合わせて権限移譲していった結果がHiring Manager制です。
また、HRBP制ができた背景には、複数の事業を行うラクスルには「自立した事業経営チームやそれを構成する優秀な人材が多く必要」という重要な要件があるからです。その事業経営チームには事業だけでなく組織人事にも責任を持ってもらいたい。また採用活動には、その水準を下げる力がかかることがあります。組織の「質」を下げないために、今必要な人材を採用するのではなく将来を見据えて組織を作る必要がある。そのために、適切なタイミングで「採用しない」ブレーキをかけることができる役割、HRBPが必要だったんです。
「採用最適」で綿密にプランニングした結果、この体制になったわけではなく、実際は、事業や人事目線で「あるべき」を追及していった中でこの体制になってきたのが実情です。
ーーこの体制で採用活動を進める中で、現実的な問題として、Hiring Managerが採用に時間を割けない、あるいは割いてくれないことはありませんでしたか?
本当に時間を割けない場合は、当然HRBPも人事部採用チームも支援や肩代わりすることがあります。しかし「時間を割けるのに割いてくれない」ことはあり得ません。採用がうまくいかずに困るのは人事部採用チームではなく、事業本部でありHiring Managerだからです。
ラクスルの社員に求められるのは非連続な変化を自分で課題設定をして作り出していくことです。上位の役割になるほどより長期でより力強い変化が求められる。そのために必要なのは未来を描き組織を作ることです。つまり採用はHring Managerのミッションそのものであり、必然的に採用への意識も向くようになりますね。
ダイレクトリクルーティングのポイントを一言でいうと?
ーー気合ですか(笑)
そうです(笑) 行動量とも言い換えられます。当社の採用に関わる人たちに聞けば、みんな似たような答えだと思います。
採用プロセスの中での改善ポイントは沢山あります。ただし、戦略や細かい改善にマインドシェアを取られる前にまずはやりきってみることが大事です。改善余地があることは行動量を制限する理由にはならない。ああだこうだ言う前にまずやりきってその末に見えた重要な課題に向き合う姿勢が必要です。
個別の採用案件を見れば、効率や採用結果の良し悪しはあり、それは採用につきものです。個別の案件をうまくいかせることはもちろん大事ですが、「採用は事業本部にとって全力を尽くすべき重要なものである」や「今必要なスキルや頭数の補充ではなく将来の会社を作るメンバーを集める」といった考えを浸透させることが、HRBPのミッションだと思っています。
ーー戦略や細かい改善以上に「さいごまでやりきる」といった気合が大事なのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。