近年、人材不足をきっかけに労働環境が見直されるようになり、政府主導で働き方改革の推進に向けた取り組みが進められています。自社でも採用を強化するために働き方改革を推進する必要があるのではないかと考えているものの、どう進めるべきか悩む経営者や人事担当者の方もいるでしょう。
今回は働き方改革が始まった背景や目的を解説しながら改革の具体例をわかりやすくご紹介します。
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働き方改革とは端的に「労働人口や生産性向上の対策」のこと
働き方改革は、2016年ごろから政府主導で始まった労働環境の改善や生産性向上を目指すといった取り組みです。働き方改革が推進されるようになった背景や、改革の目的を確認しておきましょう
働き方改革の背景
働き方改革が進められるようになった背景にあるのは、労働人口の減少による労働力不足です。
内閣府がまとめた「令和4年版高齢社会白書」によると、生産年齢人口(15~64歳)は2021年10月1日時点で7,450万人ですが、2050年には5,275万人と約3割減少すると予測されています。生産年齢人口比率の減少が加速し、労働力の不足や経済力の衰退が懸念されている状態です。
労働力不足を解消するには、就業を希望する人が誰でも働けるように整備する必要があります。しかし、日本の労働環境は長時間労働や男女間雇用の処遇差、ライフステージにそぐわない働き方を強いられるなど、さまざまな課題を抱えており、労働意欲はあるものの働けないという方も少なくありません。
そこで、これらの課題を解決し、労働意欲があれば誰でも働ける「一億総活躍社会」を実現するために、2018年6月に「働き方改革関連法案」が成立しました。2019年4月1日より順次施行されています。
働き方改革の目的
働き方改革の目的は労働者が働き方を自分で選べるようにし、誰もが働ける社会を実現することにあります。
国が目指す最終的な目的は、以下の3点です。
・働きたい人が働けるようにし、労働人口を増やす
・労働生産性の向上により日本経済の成長を促す
・子どもを育てやすい環境を整えることで出生率を上昇させる
一方、企業では以下の目的で働き方改革を推進しています。
・働き方改革関連法への対応義務を果たす
・労働環境の改善により人材の確保や離職を防止する
・企業イメージを向上させる
つまり、働き方改革は、国・企業・労働者にとって「三方よし」を目指した施策といえます。
働き方改革の具体的な取り組みをわかりやすく解説
働き方改革には、「労働時間の是正」、「正規・非正規間の格差解消」、「多様で柔軟な働き方の実現」の大きな3つの柱があります。ここからは、働き方改革のそれぞれの柱について、具体的にどのような取り組みが進められているのか、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)による関連法の改正ポイントを解説します。
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長時間労働・時間外労働の改善
労働者のワークライフバランスの実現には、長時間労働や時間外労働の改善が必要です。そのため、時間外労働の上限規制や、時間外労働に対する割増賃金率の引き上げが設定されました。
時間外労働上限規制
これまで法的制限がなく行政指導にとどまっていた残業時間について、原則月45時間・年360時間と規定されました。特別な事情により労使の合意がある場合でも、年720時間・複数月平均80時間・月100時間未満を超えることはできません。月45時間を超えられるのも、年間6ヵ月までに制限されます。
月60時間を超えたときの割増賃金率引き上げ
時間外労働が月60時間を超えたときの割増賃金率は、企業規模を問わず50%とされます。改正により、中小企業について割合が引き上げられ大企業と同率になりました。
有給休暇取得の促進
有給休暇は法律で定められた労働者の権利で、雇用日より6ヵ月以上経過し労働日の8割以上出勤していれば取得が可能です。しかし、実際は労働者側から取得の希望を申し出ることが難しく、約5割程度しか取得されてきませんでした。
そのため、企業規模を問わず、付与日数が10日以上の労働者に対して、10月1日から翌9月30日までの1年間に、5日以上の有給休暇取得を義務付けています。
同一労働、同一賃金
同一労働同一賃金とは、同じ仕事をする労働者は同じ賃金を支払われるべきであるという考えのもと、正社員と非正規雇用労働者という雇用形態の違いにより不合理な待遇差を設けることを禁止したものです。
労働者が多様な働き方を柔軟に選択できるようにすることが目的で、以下のように規定を整備しなければなりません。
・待遇は雇用形態ではなく、職務内容や配置変更範囲およびそのほかの事情の違いに応じた範囲内で決めること
・職務内容や配置変更範囲が同じであるなら、雇用形態に関わらず同じ取り扱いをすること
また、非正規雇用労働者から待遇差についての説明を求められた場合の対応や、事業主への行政からの助言指導、行政ADR(裁判外紛争解決手続)の規定についても整備するよう定めています。
客観的な労働時間の把握
労働者の健康管理のため、これまで対象外とされてきた裁量労働制の労働者や管理職も、労働時間について客観的な把握が義務付けられました。把握方法としては、タイムカードやパソコンなどの使用時間など厚生労働省令で定められた方法で行うことが必要です。
また、勤務が長時間となった労働者に対する医師による面接指導が確実に実施されるように、罰則規定も設けられています。
フレックスタイムの導入
1日の労働時間を定めず、一定の期間内であれば労働者が就業時間や時間帯を調整できるフレックスタイム制度も、多様な働き方を実現します。
改正前は、フレックスタイム制度における労働時間の調整期間は1ヵ月でした。月内で法定労働時間を超えた場合には割増賃金が発生、不足する場合は欠勤とされたため、運用方法に限りがありました。
この調整期間が3ヵ月に延長され、介護や子育て中でも柔軟に働けるようになったのです。
勤務間インターバル制度の導入
勤務間インターバル制度が、企業の努力義務となりました。
勤務間インターバル制度とは、勤務終了から翌日の出社までの間に、一定の休息時間を確保する取り組みです。労働者が十分な生活時間や睡眠をとれるようにするという考え方に基づいています。また、仕事とプライベートとのメリハリもつき、ワークライフバランスの実現にも有効です。
具体的には、以下のような運用方法があります。
・残業が長引いた場合には始業時間を後ろ倒しする、もしくは始業時間からインターバル分を働いたものとみなす
・一定時間以降の残業を禁止する
高度プロフェッショナル制度の導入
高度プロフェッショナル制度は、労働時間と成果が一致しない高度な専門的知識をもつ高収入(年収1,075万円以上)の人を対象に、希望により自由な働き方を選択できるようにする制度です。対象者は限定されますが、自由な働き方を実現するひとつの方法といえます。
高度プロフェッショナル制度では、年間104日以上かつ4週4日以上の休日を義務付ける代わりに、労働時間規制や割増賃金支払の対象外になります。また、労使委員会で決議した以下いずれかの措置が義務付けられます。
・インターバル規制および深夜業の回数制限
・在社時間などの上限設定
・年間2週間連続もしくは1週間連続2回の休暇取得
・臨時の健康診断実施
在社時間などにより、上限が月の一定時間を超えた場合には、医師による面接指導の実施が義務付けられます。
産業医・産業保健機能の強化
労働者の就労を妨げる健康リスクの上昇を見逃さないため、健康管理に関わる産業医や産業保健機能も強化されました。企業は以下に取り組まなければなりません。
・産業医の活動環境の整備
・労働者からの健康相談の体制整備
・労働者の健康情報についての取扱いルールの推進
これまで産業医は、必要に応じて企業へ勧告するという活動が一般的でしたが、改正により業務や権限が広がっています。企業は、労働者の健康管理に必要な労働状況などの情報提供や、労働者の健康相談体制を整えなければなりません。
また、企業が労働者の健康情報の取り扱いについてルールを定め、労働者が職場で安心して健康や生活の相談ができるようにすることも必要です。
なお、先述した労働時間の把握とあわせて、長時間労働者に対する産業医との面接指導対象者も拡大されました。指導の対象は月の残業時間が100時間からでしたが、改正により月80時間へと短縮されています。
働き方改革を進めるうえで考慮すべきこと
働き方改革の推進は労働者や企業にとって大きなメリットになりますが、短期的にはデメリットが生じることもあるでしょう。働き方改革を進めていくうえで、企業が考慮すべきことをご紹介します。
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コスト面での課題
働き方改革を実現するためには、コストの増加も見込んでおかなければなりません。
例えば、業務効率化のためのDX化や多様な働き方を実現するテレワークの開始には、新しいツールやシステムの導入が必要になります。
また、従業員の有給消化や同一労働同一賃金を実施すると、人件費も増加します。業務や人員配置を見直す必要も出てくるでしょう。
生産性向上がうまくいかない場合の負担
働き方改革により労働時間を制限しても、生産性向上がうまくいかなければ労働者への負担が大きくなる可能性もあります。残業を減らしても仕事が減るわけではないからです。
そのため、仕事を終えるためにサービス残業につながったり、時間をかけられないために業務のクオリティ低下を招いたりするおそれもあることを念頭に置く必要があります。
2024年問題
物流業界では働き方改革関連法にもとづき、2024年4月1日から自動車運転業務の時間外労働が年間960時間に制限されます。
ドライバーの労働環境は改善されるものの、労働時間が短縮されることで現状の輸送をこなせなくなることが予想され、配達の遅れや送料の高騰などの影響は避けられないでしょう。
労働時間の短縮によりドライバーの収入も減少するため、離職が進みさらなる人手不足が加速することも懸念されています。
まとめ
働き方改革は、労働時間の短縮や多様な働き方の実現を目的としていますが、企業側にとってはただ労働時間などの法的な要件をクリアすれば良いという問題ではありません。改革後もこれまでと同様に業務を遂行できるよう、システムの整備や効率化なども必要です。
会社と従業員のどちらもメリットが得られるように、現状の課題を良く分析し改革に取り組んでいきましょう。