人手不足が進行し人材獲得競争が加熱していくなか、中小企業においても充実した福利厚生制度の整備が求められるようになってきています。
しかし、投入できるコストや工数、リソースが限られている中小企業において、大企業のように福利厚生を充実させることは簡単ではありません。過剰なコストを割くことなく、満足度が高い福利厚生メニューを導入するための工夫は欠かせないでしょう。
本記事では、中小企業が福利厚生制度を整備するメリットやおすすめの福利厚生メニュー、導入する際の注意点について考察します。
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中小企業こそ福利厚生の導入を
人材不足が進行し、採用市場は「売り手市場」の様相を呈しています。求職者や現在はたらく従業員に企業の魅力をアピールするには、給与など基本的な条件面はもちろん、福利厚生の内容も重要なポイントになるでしょう。
しかし、中小企業は大企業と比較して、福利厚生の内容が充実していないと一般的に見られがちです。実際に厚生労働省の調査「令和3年就労条件総合調査の概況」からも、「法定外福利費」は常用労働者の人数に比例する傾向が見て取れます。
企業規模(常用労働者の人数) | 法定外福利費( 1 人あたり1か月平均) |
1,000人以上 | 5,639円 |
300~999人 | 4,567円 |
100~299人 | 4,546円 |
30~99人 | 4,414円 |
※厚生労働省「令和3年就労条件総合調査の概況」より抜粋
よって、中小企業は福利厚生の充実度という観点において、採用市場にて不利を被る傾向は否定できません。優秀な人材を採用・確保するためには、中小企業であっても求職者や従業員の需要に応えられるような充実した福利厚生の整備が必要です。
また、充実した福利厚生は従業員の労働生産性を高め、企業の業績を向上させる要素としても機能します。中小企業「だから」福利厚生はほどほどに、ではなく、中小企業「こそ」福利厚生を充実させて、さらなる事業成長の牽引を図るべきでしょう。
【参考】福利厚生費とは?法定福利費と法定外福利厚生費
https://www.wantedly.com/hiringeek/organization/welfare_expense/
中小企業が福利厚生を導入するメリット
福利厚生の導入は、中小企業にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。以下の3つの観点から具体的に深掘りしていきます。
- 求職者へのアピールを強化できる
- 従業員満足度を高め育成した人材の流出を抑止できる
- 大企業にも引けを取らない充実した福利厚生サービスを利用できる
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1.求職者へのアピールを強化できる
上述したように、近年の採用市場では、求職者は給与以外のさまざまな要素にも目を向けて企業を評価する傾向が強まっています。その判断基準のひとつが、充実した福利厚生です。
大企業と比較して中小企業は福利厚生の充実度が乏しいイメージがありますが、そうしたなかで福利厚生を充実させられれば、逆風は追い風に変わります。求職者の期待を上回る価値がうまれ、大きなアピールポイントとなります。
2.従業員満足度を高め育成した人材の流出を抑止できる
中小企業にとって、育成した人材の流出を抑制することの重要性はいうまでもありません。福利厚生を充実させ、従業員の企業への愛着や就労環境への肯定感、エンゲージメントを高めることは、離職率の低下にも大きく貢献します。
【参考】エンゲージメントとは?従業員満足度(ES)との違いや向上のメリット
https://www.wantedly.com/hiringeek/organization/engagement_improvement/
3.大企業にも引けを取らない充実した福利厚生サービスを利用できる
特別休暇の付与など定番とされる制度から、セミナー受講費用補助など細やかなものまで、福利厚生の内容は多様です。しかし、従業員の年齢層や家族構成などを考慮した福利厚生メニューを幅広くそろえることは簡単ではありません。投入できるコストやリソースが限られている中小企業にとってはなおさらでしょう。
そこで注目されているのが、セミナー受講費用補助など企業が独自に提供する「法定外福利厚生」を外部に委託できる、福利厚生のアウトソーシングサービスです。福利厚生の導入・運用ナレッジを持たない企業であっても、豊富な福利厚生メニューを従業員に提供できるようになります。
比較的ローコストで導入できるサービスもあることから、中小企業であっても無理なく、手軽に福利厚生を導入できる環境が整ってきています。
【参考】福利厚生アウトソーシングサービスの選び方|種類・目的など選定基準を考察
https://www.wantedly.com/hiringeek/organization/welfare_outsourcing/
中小企業におすすめの福利厚生
ワークライフバランスを重視する志向性の高まりや、テレワークの定着など労働環境の多様化を受け、従業員が望む福利厚生メニューも多様化しています。
さまざまな種類のなかから、中小企業におすすめの福利厚生メニューをピックアップしていきます。
- 住宅手当・家賃補助
- 特別休暇
- 柔軟な勤務体系
- セミナー受講の費用補助
- テレワーク環境の備品補助
- レジャー優待
- 旅行支援や保養所の利用補助
- 人間ドックなどの法定外健康診断
【参考】あると嬉しい福利厚生制度10選|従業員満足度が高い人気の福利厚生とは?
https://www.wantedly.com/hiringeek/organization/welfare_demand/
1.住宅手当・家賃補助
住宅手当や家賃補助は、従業員にとって実質的な手取り増加ともいえる制度であり、常に人気の高い福利厚生です。なお、「住宅手当」「家賃補助」の名称には、法的な定義はありません。金額なども企業の裁量にて取り決められることから、中小企業でも提供しやすい福利厚生といえるでしょう。
一方、実家から通勤しているなど家賃負担がない従業員にはメリットがもたらされません。住宅手当を支給される従業員との間にて、不公平感が生じてしまうことも懸念されます。住宅手当以外の福利厚生メニューの充実によって、従業員全体の満足度向上を図ることも重要です。
また、持ち家の住宅ローン返済補助など、居住形態に応じた補助を求める声も高まってきていることから、従業員のライフスタイルを尊重した制度設計がポイントになります。
2.特別休暇
特別休暇とは、法定休暇とは異なり企業が独自に定める休暇のことです。オリジナルの休暇制度を用意するなど、中小企業が比較的導入しやすい福利厚生のひとつに位置付けられます。
具体的に、次のような休暇制度は多くの企業で実施されています。
- 慶弔休暇
- 病気休暇
- 夏季・冬期休暇
- リフレッシュ休暇
これら以外にも、最近では一風変わった特別休暇を用意する企業も増えてきています。
- 失恋休暇
- 二日酔い休暇
- 推しメン休暇
- 親孝行休暇
- WBC休暇
住宅手当のような金銭的負担は生じず、導入がしやすい点が特別休暇の特徴ですが、休暇中の従業員のリソースが損なわれることは課題として認識しておく必要があります。休暇中の従業員のタスクをカバーする仕組みづくりなど、管理職が担う人材管理に伴う人的コストも忘れずに考慮しましょう。
3.柔軟な勤務体系
出社時間や退社時間、勤務場所などに柔軟性を持たせた勤務制度も、中小企業が提供しやすいおすすめの福利厚生です。
具体的には次のような制度の導入が検討されます。
- 従業員自身が出社しやすい時間に調整できる時差出勤制度
- コアタイムを設定して出社時間と退社時間を調整できるフレックスタイム制度
- 自宅などでの勤務を可能とするテレワーク制度
従業員の通勤ストレスを緩和できたり、ライフステージにあわせた働き方の自由を尊重できたりする点は、エンゲージメントの向上にも大きく寄与します。育児や介護と仕事を両立する従業員の負荷を軽減し、労働生産性の維持・向上を図れる点も大きなメリットになります。
一方、特別休暇制度と同様に管理職が担うタスクが増えることや、テレワーク導入に伴うネットワーク環境構築などのリソースやコストも留意しなくてはいけません。
4.セミナー受講の費用補助
厚生労働省などが推進するリカレント教育や、首相の国会答弁にてリスキリングが言及されるなど、社会人の自己研磨への注目度が高まっています。
企業としては、これまでも業務に必要な各種資格の取得を奨励する制度などを用意してきましたが、今後はより広範囲で従業員の「学び」を支援する姿勢が求められます。
そこで導入が検討されるのが、福利厚生としてのセミナー受講の費用補助です。外部セミナーの受講費用を支給する制度などは、特別なノウハウや環境構築なども不要であり、中小企業でも取り組みやすい福利厚生といえるでしょう。
費用補助の対象とするセミナーの選定は慎重に行う必要がありますが、従業員のスキル向上は、企業の生産性にもポジティブな影響をもたらします。向上心のある優秀な人材を採用できるチャンスも広がるでしょう。
5.テレワーク環境の備品補助
デスク環境の快適性や使用デバイスのスペックなどは、労働生産性とも密接に関連します。テレワーク環境の備品補助は、従業員にとって大きなメリットとなる福利厚生です。
具体的には、以下のような備品購入や環境整備に伴う費用を一部負担する制度を設計します。
- パソコンなど業務デバイス購入費
- パソコン用カメラ(Webカメラ)の購入費
- デスクや椅子の購入費
- インターネット環境整備費
従業員の労働生産性を高め、企業の業績向上にも寄与する制度ではありますが、備品整備に伴う金銭的なコストとはトレードオフの関係にあります。費用補助の規定を定め、条件にあてはまる支出のみに適格な補助をする仕組みづくりがポイントです。
6.レジャー優待
レジャー優待とは、遊園地やテーマパーク、アミューズメント施設などのレジャー施設を割引料金で利用できるようにする福利厚生です。ストレス解消やリフレッシュ効果が大きいことから、従業員からの人気も高い福利厚生となります。
住宅手当などと比較すれば支援および運用コストは大きくなく、かつ従業員のモチベーションやエンゲージメントを高める効果が見込めることから、中小企業にとっても導入ハードルが低く、取り組みやすい福利厚生のひとつです。
7.旅行支援や保養所の利用補助
旅行支援や保養所の利用補助も人気の高い福利厚生です。旅行にかかる交通費や宿泊費、あるいは保養所の利用料金の一部を負担するといった仕組みで運用されます。
従業員のプライベートに対する福利厚生という点はレジャー優待と同様ですが、旅行支援や保養所の利用補助は、家族と過ごす時間が何よりもリフレッシュになると考える従業員にとって、より大きな魅力として映る福利厚生となるでしょう。
従業員の家族にも歓迎される制度であるため、採用活動にもポジティブに作用します。
8.人間ドックなどの法定外健康診断
法定福利厚生の対象外となる健康診断関連を支援する福利厚生も人気です。具体的には、以下のようなサービスが該当します。
- 人間ドック
- メタボチェック
- 食生活指導
- 各種がん検診
いずれも現代のビジネスパーソンにとって関心の高い内容ですが、これらは通常の健康診断には含まれず、自己負担となることが一般的です。大切な従業員の健康維持を支援できるよう、前向きに導入を検討してみましょう。
ヘルスケアサービスを福利厚生として用意することは、従業員のパフォーマンスの向上や離職率の低下に大きく寄与します。
中小企業が福利厚生を導入する際の注意点
福利厚生の導入は、以下のポイントを考慮のうえで検討しましょう。
- 導入後に管理運用コストが発生する
- 従業員が利用しやすいメニューに絞る
- 従業員のスキルアップにつながる内容とする
- 福利厚生メニューを定期的に見直す
なかでも管理運用コストは中小企業にとって大きな負担となりえるものです。また、利用要件の最適化や内容の精査も欠かせません。
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1.導入後に管理運用コストが発生する
上述した福利厚生制度の管理運用には、以下のようなコストが発生します。
- 住宅手当・家賃補助:手当・補助分の金銭コストや給与計上にかかる人的コスト
- 特別休暇、柔軟な勤務制度:従業員の勤怠管理、タスク管理にかかる人的コスト
- セミナー受講の費用補助、テレワーク環境の備品補助:補助分の金銭コスト
- レジャー優待、旅行や保養所の利用補助:補助分の金銭コスト、保養所の管理運営コスト
- 人間ドックなどの法定外健康診断:費用負担や補助分の金銭コスト
金銭的な負担を考慮するのはもちろんのこと、限られたリソースのなかで適切に運用できる範囲を見極めることが、中小企業の福利厚生導入には不可欠です。
2.従業員が利用しやすいメニューに絞る
中小企業の場合、福利厚生に割ける予算やリソースはそれほど大きくないケースがほとんどです。福利厚生メニューは従業員が利用しやすいものに絞り、過剰な導入・管理コストを抑制することがポイントになります。
たとえば、さまざまな種類の特別休暇を乱発してしまうと管理コストばかりが増大し、企業全体の生産性にも悪影響をおよぼしかねません。その一方、一部の従業員のみに歓迎される要件が設定された休暇制度では、従業員全体の満足度向上は望めません。
従業員のリフレッシュやスキルアップに対し、あくまでも必要な範囲内に絞ったうえで、すべての従業員が利用しやすい福利厚生制度を設計することが重要です。
3.従業員のスキルアップにつながる内容とする
福利厚生の充実化の目的として、従業員の労働生産性を高め、企業への貢献度の向上を図ることを意識しましょう。
特にマンパワーが限られている中小企業の場合、貴重な人材のスキルアップを支援できるよう、福利厚生の種類や中身を整えるアプローチは欠かせません。
4.福利厚生メニューを定期的に見直す
福利厚生制度の運用に伴うコストに見合った効果が出ているかの見極め、および見直しも欠かせない視点です。
従業員の満足度は高まっているのか、社内アンケートなどを用いた定期的なESチェックなどの施策が検討されます。コメントの収集など定性的なアプローチのほか、業務への貢献意欲やモチベーションをデータとして分析する定量的な効果測定も含め、福利厚生メニューなど施策の見直しに定期的に取り組みましょう。
【参考】ES(従業員満足度)とは|向上のメリットや高め方・取り組み事例からわかるポイント
https://www.wantedly.com/hiringeek/organization/employeesatisfaction/
福利厚生導入の事例
採用の売り手市場化や人材流動性の高まり、それに伴う従業員定着率向上施策の活発化などを受け、多くの中小企業では充実した福利厚生制度の構築に取り組んでいます。
豊富な福利厚生メニューや独自性の高い制度を用意する、各企業の事例を見ていきましょう。
1.株式会社スタンディングポイント
家財・財産鑑定事業や教育関連事業を展開している株式会社スタンディングポイントでは、住宅手当や子供手当などの制度のほか、多彩な表彰式を用意する「ヒーロー&ヒロイン制度」や、ランチ代の全額を企業が負担する「シャッフルランチ制度」といった独自の福利厚生メニューを取り入れています。
なかでも「シャッフルランチ制度」は、若手社員に嬉しい福利厚生です。対象者は入社3年以内のメンバーに限定されており、単純に社内メンバーをシャッフルしてランチをともにするのではなく、後輩から先輩を誘える制度として親睦を深められるよう設計されています。
【参考】福利厚生・ランチ代の補助⁉
https://www.wantedly.com/companies/www-standingpoint-co/post_articles/494643
2.株式会社NXTED
システム開発・ニアショア開発事業などを展開する株式会社NXTEDでは、コアタイムに出勤すれば出社・退社時間は変動可とする「準フレックスタイム制」を福利厚生として導入しています。
時間的制約が軽減されることで、家庭の都合や通院などに柔軟に対応できるようになるほか、自己研磨や趣味の時間も充実。効率的な働き方を推進する原動力になっています。
また、同社は北海道コンピュータ関連産業健康保険組合に加入し、契約保養所やスポーツジム、ゴルフ場の割引など、組合が提供する各種レジャー優待を利用できる仕組みも提供しています。
【参考】NXTED|福利厚生の一部を紹介します
https://www.wantedly.com/companies/company_4247092/post_articles/403953
3.株式会社ウェブサポート
WEBマーケティング事業やメディア制作事業などを展開する株式会社ウェブサポートでは、フレックスタイム制度や書籍購入補助制度、健康手当といった充実の福利厚生メニューをそろえています。
なお、健康手当はスポーツジムやテニス、ヨガなどの月会費を1万円まで補助するという制度です。1万円は一般的なスポーツジムの月会費をほぼ賄える金額であり、6割以上の従業員が利用する人気の高い福利厚生となっています。
【参考】福利厚生を徹底解剖!~全部見せちゃいます!~
https://www.wantedly.com/companies/company_6928329/post_articles/490871
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まとめ
割けるコストや人的リソースが限定されている中小企業であっても、工夫次第では大企業にも劣らない魅力を備えた福利厚生制度を整備できます。優秀な人材を確保・育成し企業成長につなげるために、福利厚生アウトソーシングサービスの活用なども視野に入れて制度設計を検討しましょう。