スタートアップの成長期には4つの段階があり、それぞれのフェーズで組織課題が生じます。主に創業時メンバーや新規メンバー間でのコミュニケーション不足、組織体制の不備などが原因で起こりがちです。成長期に起こり得る組織課題を乗り越えるためには、従業員一人ひとりのモチベーションを高く維持できるよう、適切な施策を打つ必要があります。今回は、段階別に組織課題と人事ができる対策を解説します。
スタートアップ企業は成長期に組織課題が見え始める
スタートアップ企業では、組織が収益を安定させて飛躍していく上で重要な時期となる成長期に、組織課題が明らかになり始めます。円滑に事業継続・発展をしていくには、成長期の段階ごとの特徴について把握し、的確にリスク回避策を講じていくことが重要です。
ここでは、組織課題と対策を正しく把握する上で前提となる成長期の4つの段階別特徴、および、組織規模に応じて障害となる「壁」について解説します。
スタートアップの成長期には4段階ある
スタートアップの成長段階は、シード・アーリー・ミドル・レイターの4つのステージに分類できます。各段階の事業状況や、目安となる従業員規模をまとめます。
ステージ | 事業状況 | 従業員規模(目安) |
シード |
| 3~5人 |
アーリー |
| 6~20人 |
ミドル |
| 21人 ~ |
レイター |
| 30人 ~ |
スタートアップ企業は、事業に関するアイデアやコンセプトはあるものの具体化していない時期から、黒字化し組織を拡大していくという段階を経て成長していきます。
組織課題は、組織を拡大していく段階で特に発生しやすくなるのが特徴です。次項で、もう少し詳しく見ていきましょう。
急成長期に組織課題が起こりやすい
スタートアップ企業の組織課題は、特に企業が急成長するタイミングで顕在化します。その代表例が、新規に従業員を採用しているのに定着せず、必要な人材が確保できなくなるといった課題です。
試行錯誤しながら事業アイデアを具体化し軌道にのせている段階では、スムーズに組織運営できる場合が多いでしょう。しかし、組織の規模が大きくなり、従業員数が30人や50人を超えるころになると、トラブルが増えてくるのです。
その背景には、創業時のメンバーと新しいメンバーの間の温度差や、マネジメントする側のノウハウの少なさがあります。
創業時のメンバーは、自分たちが立ち上げた事業だけあって、根底にある理念や目指すべき方向性などを、しっかりと把握している場合がほとんどです。しかし、新たなメンバーは、ビジョンや情熱を同等に持つことは難しいでしょう。
それにもかかわらず、既存メンバーは創業時の勢いそのままに、気合や長時間労働などを求めるマネジメントをしてしまいがちです。その結果、新メンバーを疲弊させ、短期離職や行き違いを増やす結果に陥ってしまいます。
【アーリーステージの組織課題】30人の壁が立ちはだかる時期
起業し収益化を模索している段階であるアーリーステージのスタートアップ企業は、俗にいう「30人の壁」が立ちはだかる時期でもあります。
30人の壁とは、企業の従業員数が30人程度に到達する頃に発生しやすい課題の総称です。従業員が30人前後になってくると、創業時のメンバーだけでなく、新規のメンバーが増えてきます。それまでは同じ理念や熱意を共有していたチームや集団が、多様なメンバーで構成された組織へと変化していくことで、新たな課題に直面するのです。
従業員の企業に対する熱量が人それぞれになると、これまでは言わなくても伝わっていたことが伝わらなくなり、コミュニケーションも希薄化していきます。そのため、メンバーが増えれば増えるほど、明文化された拠りどころが必要になっていくのです。
よくある組織課題|社員の自律性が損なわれ始める
アーリーステージのスタートアップ企業では、組織が大きくなるにつれ、創業時のフラットな組織構造と従業員の高い自律性が失われる課題が出てきます。
事業規模の拡大に伴って新メンバーが増えてくると、組織が複雑化し、経営者がすべてのメンバーとコミュニケーションを密にするのが難しくなります。創業時であれば簡単に共有できていた業務の方向性や優先順位を組織内で共有しづらくなる結果、各従業員のフットワークが重くなってしまうでしょう。
また、新メンバーが増えると、これまでは「暗黙の了解」や「あえて言わなくてもわかる」で済んでいたコミュニケーションのあり方が、通用しなくなります。そのため、「細かく指示をしなくても自律的に進んでいた業務が進まなくなる」「タスク管理が難しくなる」といった状況も、この時期によくある課題です。
人事ができる対策|MVVや経営者の思いを明文化する
従業員の自律性が失われる課題に対し人事ができる対策として、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を明文化し共有することがあげられます。
MVVとは、企業理念や経営方針といった、目指すべき方向性のことです。MVVを明文化して新しく入った従業員にも把握してもらうことで、意思決定や業務内容への共感を得やすくなります。入社時期を問わず、従業員全員が同じ価値観を共有できるので、組織内の結束や連携を高める効果も期待できるでしょう。
また、新しい従業員の採用時には、「求める人物像」をできるだけ具体的に示しておくことも有効です。そうすることで、企業の方向性に共感できる従業員を集めやすくなります。さらに、新しく参画した従業員には、企業ポリシーなどを説明する場を設けるようにしましょう。
【~ミドルステージの組織課題】体制の未整備が目立ち始める時期
スタートアップ企業の成長段階がミドルステージに差し掛かってくると、組織体制の未整備が目立ち始めるようになります。それにともない、特に起こりがちなのが業務の属人化です。事業を拡大し企業をこれまで以上に成長させるためには、属人化打破は欠かせません。
ここでは属人化の背景と打開策を解説します。
よくある組織課題|一部の社員に業務が集中してしまう
短い期間に急成長を遂げることの多いスタートアップ企業では、属人化などにより、一部の従業員に極端に業務が集中する問題が起こりやすくなります。
属人化とは、業務フローやノウハウなどを特定の従業員しか把握していないため、ほかの従業員が処理できなくなる状況です。「業務内容が専門的な場合」や「業務の流れについて共有する時間がないほど忙しい場合」「体制が未整備で一部の従業員に権限が集中しているとき」などに起こります。
属人化している業務はブラックボックス化してしまうため、担当する従業員が離職すると、事業が滞るリスクがあります。
また、ミドルステージの組織では、マネジメントが機能していないケースが多いのが実情です。超過勤務の連続は労務管理上もリスクになるので、速やかな対策が必要です。
人事ができる対策|標準化したルール・体制づくりをする
一部の社員に業務が集中してしまう組織課題への対策として、業務フローの可視化や人事制度の体系化・ルールの整理と周知などの体制づくりを行う必要があります。
業務フローを標準化して誰もが処理できるように整理しておけば、新しく入った従業員などにも、すぐに業務を引き継ぐことができるようになるでしょう。適正な業務分担や一部従業員の長時間労働の改善に効果的です。標準化したフローや業務のノウハウについて情報共有できるツールを導入するのも、業務や権限の偏りを改善するのに役立ちます。
また、資金に余裕があるなら外部パートナーとの協働を検討しましょう。外部の専門家と協力して、人事制度の整備やナレッジマネジメントのアウトソーシングを実施すれば、手間や時間をかけずに最適な制度が構築できます。
【~ミドルステージの組織課題】組織の問題が浮き彫りになる時期
成長段階がミドルステージ辺りまでのスタートアップ企業の多くが悩まされる組織課題に、離職率の高さがあげられます。その実態と改善するためのポイントを見ておきましょう。
よくある組織課題|組織体制の整備が追いつかず離職者が増える
スタートアップ企業では、成長時に組織体制の整備が追いつかず、離職する従業員が増えてしまう傾向にあります。
令和3年に厚生労働省が公表した新規学卒就職者の離職状況からも、その傾向がうかがえます。スタートアップ企業を含む中小企業・小規模事業者の採用後3年間の離職率は、事業規模が小さくなるほど上昇するという結果でした。特に大卒者の離職率は、従業員5〜29人規模の事業所では、49.4%にも上っています。
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況を公表します」
スタートアップ企業における代表的な離職理由は下記の通りです。
・職場の風通しが悪いなど、人間関係に関する問題がある
・長時間労働や休みが取りづらいなど、労働環境が厳しい
・仕事に見合う給与額ではない、心身の健康面へのフォローがないなど、待遇が良くない
・教育体制が未整備で、スキルアップが難しかったり、成長を実感しづらかったりする
上記のような離職理由が多くなる背景には、組織成長に体制の整備が追いついていないことがあります。人事制度や福利厚生制度・人材育成度などを十分に整えないまま組織を拡大してしまうと、離職率の増加に拍車をかけてしまいます。
特に人間関係の問題については深刻です。小規模なスタートアップ企業では、離れた部署に異動という手段がないため、ひとたび問題が起こると修復が困難なためです。
人事ができる対策|コミュニケーションの促進でギャップを解消する
離職者が増える課題に対して人事ができる対策は、コミュニケーションの促進で従業員のギャップを解消する機会をつくることです。コミュニケーションを活性化させれば、従業員が離職に至る前に悩みをくみ取り、解決に向けたアクションやフォローができるようになります。
既存メンバーに対しては、1on1ミーティングの実施やキャリアパスの提示が有効です。ミーティングを通して現在の課題や業務などでわからない点などを把握し、アドバイスができます。キャリアパスがわかれば、スキルアップに関する不安も解消できるでしょう。
新規採用の従業員については、入社前にネガティブ・ギャップを解消すべく、インターンシップやRJPを実施するのがおすすめです。RJP(Realistic Job Preview)とは、業務や組織について、プラスの側面だけでなくマイナスの側面も含めたリアルな実態を説明することです。
【アーリーステージ~ミドルステージ】優秀なプレーヤーがマネージャーになる時期
アーリーステージからミドルステージを通じて、優秀なプレーヤーがマネージャーになる時期は、マネジメントに関する組織課題が起こりやすくなります。
優秀なプレーヤーが、高い処理能力・熱意・長時間労働で大抵の困難を解決して、企業を成長させるというスタートアップならではの文化が組織の壁になるためです。ここではマネジメントの重要性と対策について解説します。
よくある組織課題|メンバーとマネージャーとの軋轢
優秀なプレーヤーがマネージャーに登用されチームのメンバーに仕事を振るようになると、メンバーの仕事ぶりに不満を募らせる傾向にあります。同時に、こうした上司のもとで働くメンバーは、理不尽に振り回されていると感じがちです。その結果、メンバーとマネージャーの間に軋轢が生まれ、離反を招きかねない事態に陥ります。
メンバーとマネージャーのミスマッチが起こると、従業員だけでなく組織の存続自体までも難しくなるリスクがあるため注意が必要です。
ミスマッチが起こる背景には、マネージャー側の「自分がプレーヤー時代にできていたことは、当然、チームメンバーも難なくできる」という思い込みがあります。
実際は、新入社員とベテラン社員の間には、優先順位・仕事のスタイル・価値観などに違いがあります。こういった違いを理解しないままマネージャーになってしまうと、チームに無理難題を要求し、メンバーや組織を崩壊させてしまうのです。
人事ができる対策|マネジメント能力を向上させる
メンバーとマネージャーとの不幸なミスマッチを回避するには、経営幹部やマネージャーのマネジメント能力を上げることが欠かせません。プレーヤーとして優秀だった従業員が、マネージャーになっても優秀であるとは限らないことを念頭に置く必要があります。
マネジメント能力向上のための研修などを行うほか、マネージャーの評価制度を刷新するのが効果的です。例えば、下記のようなポイントを押さえているかどうかを評価に反映させると良いでしょう。
・メンバーとコミュニケーションを取り信頼関係を築けているか
・メンバーの特性に合わせた育成に取り組めているか
・自身がマネージャーとして成長しようとしているか
マネージャーを評価する際は、率いているチームメンバーからも意見を聞く多面評価制度を導入することもおすすめです。
まとめ
スタートアップ企業が組織課題の壁を乗り越えるには採用戦略も重要です。リファラル以外からも人材を獲得し、チャネルの拡大を狙うことをおすすめします。必要な人材の要件定義・獲得のためのソーシング活動・選考フローづくりなどを、前もって進めておくと良いでしょう。
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