組織づくりのお悩みを解決
従業員エンゲージメントや組織内のコミュニケーションに課題を感じていませんか?
Wantedlyの提供する Engagement Suite(エンゲージメントスイート)なら組織に関するお悩みを解決して、強固な組織づくりを促進します。
人材の獲得から定着・活躍までを一気通貫でサポートいたします。
まずは資料をご確認ください。
2020年9月、経済産業省から「人材版伊藤レポート」が公表され、「人的資本の情報開示」に注目が集まりました。 そのためこの言葉を耳にしたことがある経営者や人事担当者は多いかと思います。しかし、具体的にどのような意味を指すのか、理解されている方は少ないかもしれません。
今回は、人的資本開示について、基本情報から企業がすべきことまで詳しく解説します。ぜひご覧ください。まず、人的資本開示とはなにか、開示する目的と義務化の背景もあわせてご紹介します。
人的資本開示の概要
まず、人的資本開示とはなにか、開示する目的と義務化の背景もあわせてご紹介します。
人的資本開示とは
人的資本開示とは、自社の人材が持っている能力やスキル、育成方針、社内環境の整備に関する方針などの情報を社内外に公表することを意味しており、後述する7分野19項目の人的資本に関する情報開示が求められています。
そもそも人的資本とは、個人が有している技術や能力、資格などを資本として扱う考え方です。社員教育や労働環境の整備などを通して従業員へ投資することで、無形資産としての価値を高めることができるとして近年重要視されています。
人的資本を開示する目的
人的資本の目的は複数あります。
第一に、経営者・投資家・従業員などのステークホルダー間での企業理解が挙げられます。自社の人材育成の方針や、社内環境整備の方向性などは人材への投資情報としてわかりやすく、このような情報を開示することは利害関係者が企業を理解するうえで役立つと考えられます。
またITの発展によるDXの推進や目まぐるしく変動する社会情勢など、企業を取り巻く環境への対応も含まれます。例えばコロナ禍のような不測の事態が起こったとき、どのような対応で乗り越えるかなどです。
つまり、人的資本の開示の目的を紐解くと、ステークホルダーに対する説明責任を果たすことのほか、現代社会にどれだけ対応できているかを外部に対してアピールできること、企業価値の向上を図ることなど、複数持ち合わせているといえます。
人的資本開示義務化の背景
人的資本の開示が義務化された背景として、大きくふたつの理由が挙げられます。
・人的資本の注目度向上
・ESG投資の関心度向上
人的資本の注目度向上
人的資本は、社会課題解決の鍵として注目されています。なぜなら、企業の市場価値を左右する要素が、有形資産から無形資産に移行してきているためです。
従来の企業の市場価値は、土地や設備などの有形資産が占める割合が多く、人材は企業にとって価値として捉えられるよりも、コストとしてネガティブに捉えられがちでした。
しかし、IT化が急速に進んでいる現代において、人にしかできないことへの関心が寄せられており、人材への投資に注目が集まっているのです。
また、人的資本情報はステークホルダーにとって企業の将来性や企業価値を判断する指標であるため、アピールすることで企業価値を高められる点も注目される大きな理由のひとつです。
注目度が高まっているぶん、人的資本に対する取り組みが評価されやすい流れになっているといっても過言ではありません。イノベーションを生み出す機会として捉えて、取り組みを加速させましょう。
ESG投資の関心度向上
SDGsの考え方が普及し、ESGを含めたサステナビリティ経営が注目されていることも義務化を後押ししました。ESGとは、以下3つの頭文字から成り立っており、それらに着目した投資がESG投資です。
・Environment:環境
・Social:社会
・Governance:企業統治
人的資本は、このなかの「Social」に該当し、サステナビリティ経営を行う上で不可欠な要素となっています。また、投資家の判断材料として、人的資本はESG投資の観点で重要な指標です。
ESG投資への関心の高さは、投資家の企業に対する説明への期待の表れともいえます。
人的資本開示にまつわる基本的な情報
ここからは、人的資本の開示に関する基本情報として、以下の情報を解説します。
・人的資本開示義務の開始日と対象企業
・開示すべきは7分野19項目
・人的資本開示のメリット・デメリット
人的資本開示義務の開始日と対象企業
令和5年(2023年)3月31日以降を開始日として、人的資本開示は義務化が始まっています。現在対象となっているのは、有価証券報告書を発行する大手企業4,000社です。
対象企業は、毎年度終了後の3ヶ月以内に、人材育成方針や社内環境情報、男女間賃金格差などの情報を記載した有価証券報告書の提出が必要です。
今後、人的資本開示の重要性は高まり、義務化が進む可能性は十分に考えられるため、動向は定期的にモニタリングしましょう。
すでに、金融庁が管轄する電子開示システム「EDINET」では、義務化の内容を含んだ有価証券報告書が閲覧できるようになっています。
開示すべきは7分野19項目
人的資本可視化指針における人的資本に望ましい開示項目として、7分野19項目が掲げられています。
【人的資本に望ましい開示項目】
出典:人的資本可視化指針(P28)|内閣官房非財務情報可視化研究会
本項目は、国際的な情報開示ガイドラインISO30414と同等の内容です。分野ごとの詳しい内容と具体例をみていきましょう。
分野1|人材育成
リーダーシップ・育成・スキル・経験が該当する分野です。具体的に考えられる内容としては、従業員ひとり当たりの教育・研修に関する費用や時間、人材開発を実施した効果などが挙げられます。
経営戦略や経営計画で設定した目標達成に向けて、できるだけ具体的な実施内容を盛り込む必要のある分野です。
分野2|エンゲージメント
従業員満足度が該当する分野です。従業員が現状の労働環境に満足しているか、業務内容にやりがいを感じられるかなどを可視化することがこれに当たります。例えば、企業への帰属意識や共感度を把握するにあたり、診断ツールを用いたサーベイを実施するのはひとつの手です。
また、数値だけでなく、エンゲージメント向上が促進される取り組み内容を盛り込む必要があります。
分野3|流動性
採用・維持・サクセッションが該当する分野です。採用人数や離職率、採用コストなどの数値の開示が候補となります。加えて、「エンゲージメント」同様、人材が維持・定着するための取り組みも記載します。
また、重要ポジションの内部昇格率や、リーダーポジションに対する後継者数の割合といった、特定のポジションにスポットを当てた情報開示も有効です。
分野4|ダイバーシティ
ダイバーシティ・非差別・育児休業が含まれる分野です。従業員の年齢や性別、国籍、障害の有無などを考慮した取り組みが該当します。
具体的には、女性管理職の比率推移をはじめ、男女間の給与差異、産休・育休の取得率のような、多様性を考慮した内容が注目されています。
分野5|健康・安全
精神的健康・身体的健康・安全が該当する分野です。従業員が健康かつ安全に働ける環境であると示せる内容が求められます。
健康面に関しては、従業員が心身の健康を保たれているか、医療・ヘルスケアサービスの利用をどれだけ促進しているかの情報を開示する必要があります。
また、安全に関する取り組みについては、労働災害の発生率や従業員の欠勤率を数値化したり、労働環境の改善に関する施策を盛り込んだりすると整理がしやすいです。
開示の際には、今後の目標や進捗状況をできるだけ明確にしましょう。
分野6|労働慣行
労働慣行・児童労働・強制労働・賃金の公平性・福利厚生・組合との関係と、多くの内容が盛り込まれている分野です。企業としての社会的信用に関わる項目といえます。
これには労働に対する賃金設定や福利厚生の種類の開示などが該当します。こういった内容は組織文化が大きく関わるため、企業の特色が色濃く出る分野でもあります。
分野7|コンプライアンス・倫理
法令遵守を意味するコンプライアンス・倫理の分野です。企業として法律を守り、社会的な規範やモラルに基づいて行動できているかを開示する必要があります。
具体的には、ハラスメントの実態調査や内部通報制度などの報告が候補として挙げられます。また、コンプライアンスや倫理に関する研修の受講者数を取り上げたり、苦情件数をカウントしたりすることで数値化することもできます。
人的資本開示のメリット・デメリット
ここからは、人的資本の開示によって得られるメリットと、注意すべきデメリットをお伝えします。自社にとってどのような影響を及ぼすのか具体的にイメージできるようになるため、ぜひご覧ください。
メリット
人的資本の開示によって、企業価値が向上する点が最大のメリットです。自社の状況を可視化して開示する一連の過程のなかで、競合他社との競争に勝つためのビジネスモデルの構築や経営戦略の明確化などが期待できます。
さらに、情報を開示することで、戦略に適した人材を獲得しやすくなったり、育成方法が確立されたりすることも考えられます。
また、自社のブランディングにつながる点も大切なポイントです。ブランディングが確立されると企業イメージを普及させる効果が期待できます。すると、ステークホルダーからより的確なフィードバックを受けることができたり、採用活動のミスマッチが起こりにくくなったりするため、永続的な成長を促進する可能性もあります。
なお、これらのメリットを成果として価値あるものとするためには、指標や目標設定による定期的なモニタリングが重要です。
デメリット
人的資本の開示による効果を出すために、コストや時間がかかる点がデメリットとして挙げられます。なぜなら、人材育成や組織文化の強化は短期間でなし得るものではなく、相応の時間と資金が必要なためです。
例えば、人材育成は多くの企業が重要と認識できているものの、日常業務の多忙さに時間が取れていない実態があります。厚生労働省の発表によると、従業員が多忙で人材育成に充てる時間を確保できないと答えている企業が53.5%とのことです。
このように、醸成に時間とコストがかかる内容が反映される人的資本は、目に見えてわかる改善や効果を打ち出しにくいことを踏まえて取り組む必要があるといえます。
出典:「平成30年版労働経済の分析」(厚生労働省)
人的資本開示のために企業が行う3ステップ
人的資本を開示するためには、企業全体の情報を取りまとめるため、担当者に負担がかかる可能性があります。効果が見込める開示をできるだけ効率的に行うためにはフレームワークがあると便利です。
ここではその一例を3つのステップに分けて解説します。
・ステップ1:出すべき情報・課題の整理
・ステップ2:情報の定量化
・ステップ3:ストーリーへの落とし込み
ステップ1:出すべき情報・課題の整理
最初に取り組むべきは、開示する情報と課題の整理です。開示内容の根幹であり、ステークホルダーに対する重要な資料となるため、掲載する情報を丁寧に取捨選択する必要があります。
まず、以下5項目は有価証券報告書への記載が義務化されている人的資本情報です。必ず準備しましょう。
・女性管理職比率
・男性の育児休業取得率
・男女間賃金格差
・人材育成の方針
・社内環境整備の方針
一方、「比較可能性事項」は、「人的資本に望ましい開示項目」で提示されている7分野19項目をベースに、投資家や従業員などのステークホルダーが企業間を比較する際に必要となる情報をいいます。
比較可能性事項だけでは、他社の内容と似通ってしまうおそれがあり、差別化を図れません。比較可能性事項に独自性のある内容を関連付けて説明することで、開示情報に説得力をもたらすことが可能です。
自社に優位性をもたらせるよう、ステークホルダーのニーズを調査して、開示する情報を決めましょう。独自性が盛り込まれた情報が多ければ多いほど、自社の魅力を伝えられるようになります。
ステップ2:情報の定量化
開示する情報や課題を整理したあとは、情報の定量化が必要です。どれだけ魅力的な取り組みができたとしても、数字で具体的に示さなければ、ステークホルダーからの信頼は獲得できません。
現状と取り組んだ結果との差異や、目標値と現状との差異など、立ち位置が明確に説明できる内容だと理想的です。これによって、自社の課題に対する改善にスピード感を持って取り組めることも期待できます。
ひとつ改善事例ができると、正のスパイラルにつながる可能性が生まれます。多くのメリットを享受するためにも、情報の定量化は重要です。
ステップ3:ストーリーへの落とし込み
整理した情報を定量化できたら、掲載する情報をストーリーに落とし込みましょう。ただ数値などを載せるよりも、自社の理念や取り組みの背景と結びつけることで、ステークホルダーの共感や納得を得られやすくなります。
これらの一連の取り組みに関するストーリーを提示することで、効果的に人的資本を開示できます。
まとめ
人的資本は社会情勢の変化にともない、企業価値を高めるための重要な資産になっています。2023年3月期決算から義務化された、有価証券報告書への人的資本開示により、人的資本は自社だけでなくステークホルダーへのアピール要素としての側面も持つようになりました。
AIの台頭により、人的資本の重要性はますます重要視されます。「情報整理」「定量化」「ストーリー」の3つのステップで開示の体制を構築し、より魅力ある企業への一歩を踏み出しましょう。